第13話 異界突入 根源 パート12

ー過去の回想ー


 僕は幼い頃に奴隷として売り飛ばされそうになった過去がある。


 何故そうなったのか? 


 そうなる前は何をしていたのか? 


 どのような人達と暮らしていたのか? 


 どうして奴隷として売り飛ばされそうになったのか? 


 その時の記憶はあやふやでよく分からない。


 その時、ハッキリと覚えている事は、広くて暗い部屋のステージに登らされていて、スポットライトで照らされる自分自身とニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて金額を叫ぶ大人達だ。


 当時の僕は正直、何が起こっているのか、どういう状況なのかまったく理解出来ないでいた。


 その時、突如広間の扉が怒号と共に破壊され、部屋の暗闇を光が差し込む。


 そして後光と共に現れたのは夕焼けを連想させるような真っ赤な刀身の日本刀を片手で持ち、筋肉ムキムキで上半身裸でジーパン姿をしたオールバックの大男と雪のような真っ白な日本刀を持ったポニーテールのスーツ姿の女性。そしてスーツ姿の複数の人達だった。


 後に分かる事なのだが、大男の名前は『犬島 切数いぬしま きりかず』。『国の盾』の1番隊隊長を勤めている人物。後に僕を引き取り義父となる人だ。


 女性の方は『水川滝海みずかわたきうみ ミナモみなも』。『国の盾』の1番隊副隊長を務めていた人物。後に僕の師匠となる人だ。


 複数のスーツ姿の人達は切数さん達の部下の方々。

 

切数

「『国の盾』所属!! 1番隊隊長『犬島 切数』だ!! てめえ等には誘拐に人身売買、1級以上の危険物の窃盗及び無断での売買など諸々の罪でお前等をとっ捕まえさせてもらうぞ!!」


 切数さん達の登場により奴隷売買の施設内にいた売り買いを目的にした人達は捕まり、奴隷として売り飛ばされそうになった人達は救われた。


 奴隷として売られそうになった人達は皆、元の生活、帰るべき場所に戻る事となった。


 しかし、僕は過去の記憶が何も思い出せず、帰る場所は無かった。


 そんな僕に切数は近寄り、『お前が良ければウチに来るか?』とそう言ってくれた。


 そして切数さん達と暮らす事となった。


 学校にも行かせてもらったし、遊びに来たミナモさんから護身術や能力の扱い方も教わった。


 いろいろと事情があり、僕も『国の盾』に所属する事となった。


 組織に所属して様々な任務をする事があった。


 大変だったし、悲しい事、辛い事、頭に来る事などもあった。自分の力ではどうにもならない事がありもどかしく感じた事もあった。


 それでも切数さんや切数さんの奥さんのヒロコさん、ミナモさん、姉さんに慰められたり、いろいろ教わったり、それなりに楽しく暮らせていたと思う。


 自身を救い出してくれた恩人達のような誰かを救い、護り、導ける『正義の味方』になりたかった。そしていつの日か恩人達に恩返しをしたいと願っていた。


 しかし、現実はそんな都合良く進む事など無い。僕の恩人であり師匠であるミナモさんが殺された。


 彼女は国を裏側から護る戦士の1人だ。いつか戦いの中で死ぬ事は彼女だって覚悟していたはずだ。僕だってその事は覚悟していた。しかし、あんな惨たらしく死んでいい人ではなかった。


 僕はそれに絶望した。ミナモさんともう会えない事が悲しくて、辛くてどうにかなりそうだった。


 そして僕はミナモさんを殺した奴が憎くて堪らなかった。


 いつしか僕は復讐の鬼と化し、命令が下れば容赦なく敵を殺す殺戮兵器となっていった。


 もうミナモさんみたいに皆んなに死んでほしくない。


 そう思い、僕は自分自身をひたすら鍛えた。


 任務も仲間に頼らず、自身の力のみで解決しようとした。


 敵陣に1人で突っ込んで行き、敵を皆殺しにした。


 頭がどうにかなりそうだった……。


 罪の無い人が虐げられ、死んでいく光景を何度も見た……。


 生きる事すら辛いと思う人の姿も何度も見た……。 


 世界の裏側がどれほど醜い世界なのか見続けた……。


 こんな世界に護る価値があるのか?


 なんで世界はこんなに理不尽なのか?


 世界を憎んだ事もあった。


 それでも僕は戦い続けた。


 僕は命令されるがまま戦い続け、殺してきた。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。


 気が付いた頃には僕は組織が『敵』として認識した相手を殺す事に躊躇う事がなくなっていた。


 そして気が付いた時には僕は敵からも、味方からも恐れられていた。


 『戦い好きの戦闘狂』 『人の心を持たない人間兵器』 『手柄を独り占めにする愚か者』 『冷徹冷酷冷血な人間』


 仲間からいくら罵倒されようが、誰にも評価されなかろうが関係なかった。


 そんな事、僕にとってはどうでもいい事だった。


 世界がいくら醜いモノだろうが、それでも救えるモノがあると信じていた。


 いや、信じなければ心が折れそうだった。


 僕の力でより多くの人の命が救えるのなら、仲間が戦いで傷付き倒れる事が無ければ、そして師匠を苦しめて殺した奴のような極悪人を1人でも多く殺せるのならそれで良かった。


 当時の僕はそう思っていた。


 ある任務でミナモさんを殺した男と戦い、僕はその男を苦しめて殺した。


 僕はミナモさんの仇打ちをした。


 その時、周囲の人を見た。


 仲間達は悍ましいモノを見るような目を僕に向け、救ったはずの人達は僕を恐怖した目で見ていた。


 その時に思った。


 僕は『何も救ってなんかいなかったのだ』と……。


 僕は『切数さんやミナモさんのような誰かを救うような正義の味方にはなれない』と……。


 僕は『誰かを殺し、何かを壊す事しか出来ない』と……。


 僕は絶望していた。復讐する相手を殺した時にその事にようやく気付くとか我ながら愚かだと思うよ。


 僕には誰かを救い、護り、導けるような力は無かった。誰かの命を救う事が出来ても心の傷を癒す力は僕には無い。僕は恩人達のようにはなれない。その事に酷く絶望した。


 そして仲間の目からからは『手柄を独り占めにしたがる死にたがり、戦い好きの狂人、人の心を理解しない殺人鬼』としてしか映っていた事が悲しかった。


 家の近くの公園の大きな桜の木の下で『どうすれば良かったのか』悩んでいた。まだ肌寒い春。日が沈みかけた時だった。


 僕は何故か満開に咲き誇る大きな桜の木に質問するのだ。『どうすれば良かったのか』と。桜の木がその答えをくれる訳が無いのに。


 気が付くと見知った少女が背後に立っていた。それが姉さんだった。


 彼女は絶望し切った僕を抱きしめ、涙を流しながら言うのだ。


アルト

「もういいんだよ。戦わなくていいんだよ。貴方はもう鬼になる必要は無いんだよ。貴方は誰かの為に戦って、傷付いて、救って来たんだよ。もう苦しまなくてもいい。もう休んでいいんだよ。これから貴方に降り掛かる災いから私が護るから。だから貴方は私のそばにいて」


 その言葉に僕は心のどこにあった重しから解放された気がした。


 こんな殺戮兵器と成り果て敵からも味方かも『銀色の鬼神』と呼ばれたこんな僕でも誰かのそばにいてもいいのだと。


 そして僕は僕を必要としてくれた彼女の為にこれから生きよう。彼女の害になる者達から彼女を護り、支えて生きていこうと思えた。


 僕は『犬島 アルト』の盾となり剣となって彼女を護ろうと心に誓ったのだ。


 そして僕が組織を去る数カ月前にとある極悪非道の組織と戦う事になった。


 その任務では僕、コウ、そして同期の『桃色 拓哉ももいろ たくや』、『雉原 直人きじはら なおと』と共に向かった。


 そして『マリー』という少女と出会った。


 彼女の両親は実にクソッタレな奴等だった。実の娘に虐待をした痕跡が残っていた。彼女について調べによるとマリーの実の両親は借金の肩代わりに実の娘である『マリー』をその極悪非道な組織に売り飛ばした。彼女は実験動物にされそうになっていた。僕等の到着があと1日遅かったら彼女は実験動物のような扱いをされていただろう。


 僕はそんなマリーを放っては置けず、引き取る事にした。


 マリーを引き取る際、マリーの悲しい過去を僕は『ファントム・マジシャン』の力で封じ込まれた。


 僕は『交通事故にあって記憶が残っていない』とマリーに話した。


 そして僕は再びマリーちゃんに世界の闇を知る事がないように何かあれば僕自身がなんとかする。護ると誓ったのだ。


ー過去の回想終了ー

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