第13話 異界突入 根源 パート9

 僕は人の匂いと『月夜浮世絵』を見た光景を頼りに異界に迷い込んだ人を探す。


 ずっと『月夜浮世絵』を使っていても良かったけど、発動中右目が見えなくなるし、右目が痛くて集中力が削がれるからあまり使い続けたくない。


鉄也

「ふむ。ミノタウロスの姿の迷い人は匂いがキツくて廊下中から奴の匂いが充満している。これだとイマイチ人間の匂いが分からない。あのミノタウロスの姿の迷い人…栗の花の匂いとイカの生臭い匂い、卵の腐った匂いが混ざった匂いがする…」


 ハッキリ言ってとても臭い。出来る事なら鼻を摘みたい。


鉄也

「まぁ、ゴリラのオナラの匂いに比べたらまだマシだけど……。本当に臭いなぁ……」


 ミノタウロスの姿の迷い人はこんな厄介な特性があるとは……。


 おそらく、僕のような嗅覚で探知するタイプに対する対策なのだろう……。


鉄也

「……本当に臭いなぁ……」


ミノタウロスの姿の迷い人B

「ヴ? ヴゥモォッ!? ヴゥゥモオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!」


 ミノタウロスの姿の迷い人がこっち走って来た。


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」


ミノタウロスの姿の迷い人B

「ヴゥモォッギャッ!?」


 僕は奴の首にラリアットを叩き込み首をへし折った。


鉄也

「……臭い匂いの所為で他の迷い人がいるかイマイチわからない……」


 『月夜浮世絵』で見た時は3階にはミノタウロスの姿の迷い人が3体しかいなかった。


 僕は3階に到着してからミノタウロスの姿の迷い人を今のを含めて2体倒した。残り1体のはずだ。


 だが、増えている可能性もなくはない。早いところ迷い込んでしまった人を探さないとならない。


???

「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!?!?」


鉄也

「っ!? 叫び声!? 急がなければ!!」


 僕は叫び声が聞こえた方へ急いだ。


 廊下の奥の教室に入るとミノタウロスの姿をした迷い人が迷い込んでしまった人間に襲い掛かる瞬間だった。


小太りで背が低い30代くらいの男の人

「せ、拙者をた、食べても!! お、美味しくないでご、ござるよ!!」


ミノタウロスの姿をした迷い人C

「ヴゥモォッ!! ヴゥモォオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!」


小太りで背が低い30代くらいの男の人

「ヒィィィ!!!!」


鉄也

「『手刀雷牙』!!」


 僕はミノタウロスの姿をした迷い人を後ろから『手刀雷牙』で背中を貫き、そのまま心臓を斬り裂いた。


 ミノタウロスの姿をした迷い人はそのまま糸が切れた操り人形のように倒れた。


鉄也

「……ふぅ……。間に合った……」


小太りで背が低い30代くらいの男の人

「え? え? き、貴殿は!? 何者でござるか!? 手がなんかビリビリと電気が!? ふぁっ!? ど、どういう状況でござるか!?」


鉄也

「僕は『犬島 鉄也』。貴方達を助けに来ました」


小太りで背が低い30代くらいの男の人

「っ!? せ、拙者を助けに来てくれたのでござるか!?」


鉄也

「はい。一応名前の確認をしても構いませんか?」


小太りで背が低い30代くらいの男の人

「せ、拙者の名前は!! あ……ゴホン!!『株鳥』。名乗らせてもらうでござるよ!! 『株鳥 久田尾かぶとり くたお』でござる!!」


 僕はズボンのポケットからコウの作ってくれた行方不明者のリストを取り出して顔写真と名前を探す。


鉄也

「えっと……。おっ。あった。『株鳥 久田尾』。年齢35歳で独身。職業は自動車修理工場の正社員か」


株鳥

「て、鉄也殿は何故ここに!?」


鉄也

「とある人の依頼で行方不明者の捜索をしているんですよ」


株鳥

「せ、拙者は!! ど、どうしてここにいるのでござるか!? 何故!? 拙者は!?」


鉄也

「まぁまぁ。落ち着いてください。……お気持ちは分かります。いきなりよく分からないところに来ちゃって、あんな化け物みたいのに襲われたら……誰だってパニックになると思います……。……けど冷静さを捨ててはダメです……。とりあえず深呼吸をして心を落ち着かせましょうか」


株鳥

「……あの……鉄也殿……」


鉄也

「はい。なんですか?」


株鳥

「……とても言い難い事でござるけど……」


鉄也

「お気にならさらず」


株鳥

「……ここ……とても臭くて……深呼吸したくないでござるよ……。 ……栗の花の匂いとイカの生臭い匂い、卵の腐った匂いが混ざった匂いがするでござる……」


鉄也

「……あぁ……。……確かにそうですね……」


 ……そうだった……。


 ……ミノタウロスの姿をした迷い人ってとっても臭かった……。


鉄也

「とりあえず、ここから一度離れましょうか。他の迷い込んでしまった人達もいるので、一度皆さんと合流しましょうか」


株鳥

「……す、すまないでござるよ……」


鉄也

「皆さんがいる場所まで僕が案内するので、僕から離れないようにしてください」


株鳥

「しょ、承知したでござるよ」


鉄也

「……」


 とは言ったけど、嗅覚が当てにならない以上、聴覚と視覚、他者の気配を頼りに行動しないとな。


 迷い人は元が人間だけあってしっかり気配はある。能力で気配を姿を消されない限りは問題は無いだろう。


 問題は『番人』と名乗る迷い人と着物姿の少女だ。


 今、現れたら株鳥さんを護りながらでは勝ち目が無いかもしれない。


 奴等に用心しながら早いところコウ達の所に戻ろう。

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