第8話 私は兄貴のだらしのないところが嫌いだ

ーマリー目線ー


 私の名前は『犬島 マリー』。ピッチピチの中学3年生だ。趣味は読書や買い物、キノコ料理を食べる事にトレーニング。特技は料理。まぁキノコ料理以外は作れないけど……。あとは暗記も得意だ。ちょっと特殊な能力が扱える他はどこにでもいる普通の女子中学生だぜ。


 そんな私には、1年前以降の記憶がまったく無い。


 私が初めて見た物は病院の天井と美少女の顔をした男だった。


 彼の体は傷だらけのボロボロだった。


 彼は私の顔を見ると心配そうに『痛いところはない? 大丈夫?』と聞いてきた。


 私が『どこも痛くない』と言うと彼は安心したように『良かった』と言った。


 彼の話で分かった事は3つだけ。


 1つ目、私の名前が『マリー』という名前である事。


 2つ目、私はこの美少女の顔をした男『鉄也』の妹である事。


 3つ目、私は交通事故に巻き込まれてしまった事。


 私が『記憶が無い』と告げると彼はどこか安心したような顔をしていたのを今でも覚えている。


 今、思い返せば彼は何故あんな顔をしたのだろうか?


 普通ならもっと戸惑ったりすると思うのだが、彼は何故か安心した顔をしていた。


 彼は『記憶が無くてもマリーちゃんは僕の妹だ。無理に記憶を思い出さなくてもいい』と優しく言ってくれた。


 あ。ちなみにどうしてボロボロなのか聞いたら彼は『いやぁ、ちょっとバナナの皮を踏んじゃって派手に転んじゃった』と笑いながら言っていた。


 それから私は彼と彼の家族と暮らす事になった。


 一緒に暮らしていていくつか疑問に思う事があった。


 1つ目に髪の色だ。兄貴もアルト姉さんも家族みんな黒髪なのに私だけ金髪だった。その事を兄貴に言うと『あー……それはね母方の方の亡くなったおじいちゃんが金髪だったらしいからそれが遺伝したんじゃないかなぁ』って顔を逸らしなが言っていた。


 2つ目にアルバムを見せてくれない。兄貴にアルバムを見たいと話すと『僕は過去を振り向かないからアルバムなんて持っていないし、写真も撮らない』と言って写真はあまり見せてくれない。普通なら記憶を思い出す為にも写真を見せたりすると思うんだけど……。


 髪の色も違うし、写真は見せてくれない。もしかしたら『私は兄貴達と血の繋がりはないんじゃないか』って不安に思う事があった。


 けど、そんな不安は兄貴やアルト姉さんを見ている内に無くなった。


 兄貴は私が好きそうな漫画や小説、ゲームを買ってきたりして一緒に遊んでくれたし、アルト姉さんは私に勉強を優しく教えてくれた。


 私の能力が開花した時には、兄貴が能力の扱い方を教えてくれたりもした。


 兄貴はやたらと男子にモテて私共々追い回されたりもした。


 兄貴が私を笑わせる為にお菓子を一緒に買いにも行った。


 夏にプールに行った時には兄貴が女の子と勘違いされて大変だったりもした。


 ドタバタしたりしながらも楽しかった。私の不安なんていつの間にかどうでもいいと感じてきていた。


 兄貴やアルト姉さんは私に居場所をくれたのだ。私は兄貴の事が大好きだった。


 しかし、私はそんな兄貴の嫌いなところがあった。


 兄貴は『ファントム・マジシャン』という強い能力を持っている。


 しかし、自分の能力のトレーニングや体を鍛える事はしなかった。学校やバイトから帰ってくるとすぐにグータラする。


 まぁ、グータラしている兄貴の姿はちょっと可愛いけど…。


マリー

「……なぁ、兄貴」


鉄也

「ん? どうかしたの? マリーちゃん」


マリー

「兄貴はどうしてトレーニングをしないんだよ?」


鉄也

「え? だって疲れちゃうじゃん」


マリー

「私はさ、兄貴やアルト姉さん達みたいに能力の才能があるわけじゃないし、強いわけじゃない。けど、もしも戦う事になった時に足手まといになりたくないんだよ」


鉄也

「まぁ、大丈夫だよ。いざって時はお兄ちゃんがなんとかするよ。お兄ちゃんに任せなさぁい」


マリー

「兄貴は私と能力ありの組み手で勝った事がないじゃないか!!」


鉄也

「負けた事もないけどね」


 兄貴は私と能力ありの組み手で私に一撃も攻撃を当てた事がない。まぁ、逆に私の攻撃も当たった事がないからいつも引き分けなんだけど……。


マリー

「兄貴の能力は凄いと思うよ。けど、兄貴は才能にかまけて何もしていない!! 強くなる努力なんてしていないじゃないか!!」


鉄也

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは最強だから」


マリー

「才能にかまけてなんの努力もしない兄貴なんて……嫌いだぜ……」


 私はそう兄貴に言い捨て家を出てジョギングをしに行った。


  私は兄貴に『嫌い』と言ってしまった事をちょっと後悔した。


 そんな事を言うつもりじゃなかった。


 私はただ『兄貴と一緒に強くなっていきたい』って思っただけだった。


 けど、兄貴のグータラしている姿に少しイラッとしてしまったのだ。


 いや、違う。きっと兄貴の才能に嫉妬してしまったのだ。


 それと、もっと仲良くなりたいのに上手く気持ちを伝えられない自分にもイラッとしてしまったのだ…。


マリー

「……はぁ……。私って最低だぜ……」


ーマリー目線終了ー


鉄也

「はぁ……。年頃の女の子っていろいろと難しいなぁ」


アルト

「そう思うならちょっとは自分が鍛えているところを見せたり、組み手の時もう少しだけ力を出してあげればいいのに」


鉄也

「……盗み聞きとは趣味が悪いよ。姉さん」


アルト

「頑張って修業しているところをなんで見せてあげないの?」


鉄也

「……別に人に見せるモノじゃないから」


アルト

「組み手の時にももっと力を出してあげればいいのに」


鉄也

「最近、また『ファントム・マジシャン』が強くなったみたいで力加減が難しいんですよ。下手に力を出したらマリーちゃんに怪我させちゃいますよ。オマケに変な誓約が出来そうだし…」


アルト

「変な誓約?」


鉄也

「『1日3分間セーラー服を着たら5時間の時を止める力を使用する事を許可する』という謎の誓約ですよ……。まったく『ファントム・マジシャン』は何を考えているのやら……」


アルト

「っ!? て、鉄也のセーラー服姿!? 鉄也!! そ、その話!! 詳しく聞かせて!!」


鉄也

「ね、姉さん!? 目が血走ってない!?」

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