第5話 通り魔? とりあえず関わらない方向で……パート4

 僕はシャープペンシルをポケットにしまい、ハーっと息を吐き出しながら軽く両手を振る。


鉄也

「大文字さん。貴方に敬意を表し僕は貴方に見せましょう。犬島流体術の技を」


 僕は右手を突き出し構える。この構え犬島流体術『さとり』。右手で相手と自分との距離や相手の技の射程範囲の測定、攻撃が来た時の攻防など扱う構えである。


 僕はその構えまま、大文字さんの間合いを一瞬で詰める。この技も犬島流の体術技で『麒麟きりん』と呼ばれる技で、一瞬の刹那の間に地面を数回蹴る事により素早く相手間合いに移動する技である。


大文字 子守

「い、いつの間に!? は、速い!!」


鉄也

「犬島流体術『千手観音せんじゅかんのん』!!」


 『千手観音』は、右手から千撃の張り手を一瞬の刹那の間に放ち、相手のあらゆる場所に打ち込む技。僕の最も得意としている体術技だ。組織に所属している時代もこの技で何人もの敵を打ち倒してきた技だ。


 1000発の張り手を大文字さんに叩き込んだ!!


大文字 子守

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 彼は立ったまま気絶した。


鉄也

「……手加減したとはいえ、この技をまともに受けて立っていられたのは貴方が初めてですよ。気絶しているとはいえ見事です」


 『千手観音』は、一応犬島家の上位の技だったんですけどね。まぁ、殺さないように力加減はしましたが立ったまま気絶するとは……。


鉄也

「……これほどの相手ならもう少し本気で戦ってみたかったです」


 さて、そろそろ姉さんの機嫌を取らないとそろそろキレる。


ボディーガード2

「ば、馬鹿な!? 最強のボディーガードの子守隊長がやられただと!?」


ボディーガード3

「れ、レベルが違い過ぎる!!」


ボディーガード4

「ぶもおおおぉぉぉぉ!! こんな奴と戦いたくないぃぃぃ!!」


ボディーガード5

「もうダメだ……おしまいだ……みんな殺される……」


ボディーガード6

「や、やれやれだぜ。こんな奴と戦うなんてまっぴらゴメンだぜ……」


 あらら。ボディーガードさん達が怯えちゃった。まだそんなに力を使ってないんだけどなぁ。


 でも、これ以上、戦う事になるのは面倒だからちょっと睨んで戦意喪失させるかな。


 行くぞ!! 必殺『睨みつける』!!


 僕が睨んだ相手は何故か前屈みになってうずくまる。そして戦闘不可能の状態にする技だ。


火鳥くんよ取り巻き女子3

「あ、貴方達!! なんで!! 前屈みになってうずくまっているのですか!? さっさと立ち上がりなさい!!」


ボディーガード2

「だ、ダメです!! お嬢様!! 今、いろいろまずい状態で立ち上がれません!! や、ヤバい!! 気を抜くと!!」


ボディーガード3

「ち、違う意味で立ちあがっちゃって今はとても立ち上がれません!! ………あっ……やっちまったぜ………」


ボディーガード4

「ぶもおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!? ちょっと見つめられただけで!?!? こ、これはヤバい!?!? ぶもおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!? ……あっ」


ボディーガード5

「ふおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!? ……あっ」


ボディーガード6

「……や、やれやれだ……あっ………耐えきれなかったぜ……」


火鳥くんよ取り巻き女子3

「な、何を言っているの!? 貴方達は!? しっかりしないさいよ!!」


『パシン!!』


ボディーガード2

「……あっ……必死に堪えていたのに……まるでそれは決壊したダムのように溢れて……あっ……」


 さて、ボディーガードさん達の戦意は喪失させた。


鉄也

「姉さん。機嫌を直してくださいよ」


アルト

「……アイツ等……潰す……社会的……」


 あー。こりゃまずい。仕方ない。奥の手を使おう。


鉄也

「姉さん。帰ったらメイド服を着ますから」


ボディーガード3

「め、メイド服だと!?!? ……あっ!? ……溢れる……溢れてきた」


ボディーガード4

「ぶもおぉぉ……僕のダムは……もうダメだった……あっ!? また溢れた……まるで洪水のようだ……」


火鳥くんよ取り巻き女子3

「何言っているのよ!? 貴方達!? 意味が分かりませんわ!!」


ボディーガード5

「お嬢様。世の中分からなくてもいい事はあるんですよ……」


アルト

「メイド服ね!! 分かった!! 機嫌直す!! 写真撮らせてね!!」


 あ。姉さんの機嫌が直った。あー、帰ったらメイド服かー。やだなぁー。でもこうしないとマジで社会的に潰しにかかるからなぁ。この人。


火鳥 緋色

「鉄也!!」


鉄也

「はい。鉄也です」


火鳥 緋色

「君はそれほど強い力を持っていてなんで人を救う為にその力を使わない!? なんで誰かの為に力を振るわない!? 正義の為に力を使おうとは思わないのか!?」


 ……何言ってんだ? この人?


鉄也

「僕は見ず知らずの誰かの為に自分の命を犠牲にするような事はしないですよ。僕は僕の護りたい人の為なら何度だって戦うけどどこの誰とも分からない相手の為に命を賭ける気にはなれないですよ」


火鳥 緋色

「君やボクには多くの人達を救える力があるんだ!! なら多くの人達の為にその力を使うべきだ!!」


鉄也

「他人に自分の正義感を押し付けるなよ。貴方の『正義の価値観』と僕の『正義の価値観』が同じとは思うなよ」


 火鳥くんにはキツめに言わないとたぶん僕の言いたい事は伝わらないだろう。ここは心を鬼にして、言うしかないか。


鉄也

「火鳥くんはさっきからなんで僕を危険な事に巻き込もうとするんですか? 僕がそれを望んでいると思っているんですか? 残念ながら僕は出来る事なら危険な事には関わりたくない。だからこういう誘いはやめてほしい」


火鳥 緋色

「君は!! 人の命をなんだと思っているんだ!? 君とボクが力を合わせれば人の命を救えるんだぞ!!」


鉄也

「なら聞きますけど。僕の命をなんだと思っているんですか? 僕の命なら粗末に扱ってもいいと考えているんですか? さっきから『人の命、人の命』って言っていますが、僕の命は『人の命』ではないんですか?」


火鳥 緋色

「君は自分の危機をなんとかする力があるじゃないか!!」


鉄也

「ふざけるな!! お前こそ人の命をなんだと思っているんだ!! 馬鹿野郎が!!」


火鳥 緋色

「っ!?」


鉄也

「君はさっきから僕の命を蔑ろにし過ぎているとは思わないのか!? 僕の命は僕のモノだ!! 貴方が勝手に使おうとするなよ!! 僕は貴方の兵士でもなければ奴隷でもない!! それとも僕の事を自分の兵士や奴隷とか思っているのですか!?」


火鳥 緋色

「そ、そんなことは……」


鉄也

「なら僕を巻き込むな!! これ以上、僕に何かするのなら……僕は例えクラスメイトが相手でも容赦しないぞ」


 僕が少し強めの口調で言うと火鳥くんは後退りをする。そんな火鳥くんを尻目に僕と姉さんはさっさとその場を後にする。


 まったく面倒な人に目を付けられたモンだなぁ。


アルト

「鉄也って変な嘘つくよね」


鉄也

「嘘?」


アルト

「『見ず知らずの誰かの為に自分の命を犠牲にするような事はしない』って言っていたけど、自分の周囲で誰かの危機を前にしたら放っては置けないじゃん」


鉄也

「……そりゃ……まぁ……手に届く範囲なら助けられたら助けるだけですよ」


アルト

「私は鉄也がなんだかんだ優しい人って事を知ってるよ」


鉄也

「……」

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