第315話 優勝
「ここから校内に実況放送もできるんです。」
「なるほど、試合を見るには特等席だ。」
キャットウォークに箱型の出っ張りがあるのは知っていたけれど、よもや実況用のブースだとは思わなかった。
なぜなら入学してからこの方、体育館からの実況放送など一度も聞いたことがないからだ。
「試合を見たい人はここに来てますから、放送する意味がないってことみたいです。」
「それ、なぜ作る前に気づかなかったんだろうね…」
部活の対外試合などを想定していたのかも知れないけれど、そもそも全ての学園生が興味を持っているわけではない。
寧ろ観客席を設けた方が余程良かったのではないだろうか。
結局ここは使い道のない知る人ぞ知る無駄部屋となってしまったわけだが、だからと言って放っておくわけにもいかず、放送部が清掃管理を押しつけられているらしい。
はたして他にどのような無駄施設があるのか定かでないが、学園開校当時の放漫ぶりが窺えると言うものだ。
「ゆーちゃん、試合始まるよー」
「お、いよいよか、ありがとう、まりちゃん。」
狭いブースに五人入れば窮屈なのは当然だが、コート周りで押し合いへし合いしている観客に比べれば相当ましだ。
女子たちが座った実況席の後ろからコートを見下ろせば、センターでは今まさにジャンプボールが行われようとしていた。
(ビーーー)
『試合終了、78対78、両クラス優勝!』
「「「「「ウワーーー!」」」」」
第4ピリオド終了を知らせるブザーに続いて告げられた宣言に、体育館に詰めかけた学園生たちは一斉に沸き立った。
「いっやー、なーんか、出来すぎだわー」
「まりちゃん、何言ってるの、これ凄いことだよ?!」
点の取り合いとなった3年1組と1年1組の女子バスケは同点のまま時間切れとなり、両チームの優勝が決まった。
ご承知のとおり、バスケの試合では第4ピリオド終了時点で同点の際、延長戦に突入することが通例だが、この学園の球技大会ではバスケに限らずどの競技も延長戦を行なっていない。
決勝戦を含めて全ての試合を定められた時間内に収めることを前提としているためだ。
ちなみに準決勝までは、同点の場合ジャンケンで勝敗を決めている。
「この後は男子の試合と、バレーがあるものね。」
「そう言うことだね、ちょっと行ってくるよ。」
「「「行ってらっしゃい♪」」」
皆に断りを入れ、第2放送室を出てキャットウォークの階段を足早に下りて行く。
1階の床に降り立つと、気づいた学園生たちがサッと道を開けてくれた。
皆、俺がどこへ行こうとしているのか分かっているのだ。
「ありがとう、助かるよ。」
皆の好意に感謝しつつ健闘を讃えあう両チームに近づいていくと、彩菜と涼菜が揃って駆け寄り胸に抱きついてきた。
「お疲れ様、二人とも大活躍だったな。」
「ふふ、ゆうが見てくれてたから頑張っちゃった。」
「えへへ、あたしも頑張りましたー♪」
労いの言葉をかけながら両手で優しく頭を撫でれば、二人は相好をふにゃりと崩して頬をすり寄せてくる。
周囲からは賞賛や労い、羨望の他にやっかみや呪詛のような声まで聞こえてきたけれど、そのようなものに構うことはない。
俺たちは誰憚ることなく頬を寄せ合い笑顔を交わしたのだった。
全ての競技で優勝チームが決まり、球技大会はつつがなく終了した。
俺は未だ興奮冷めやらぬ様子の学園生たちに時折声をかけられながら、放送室の前へとやって来た。
控えめにドアをノックしてからそっと中に入ると、奥寺さんがニヤニヤしながらスマホを眺めている姿が目に入った。
「こんにちは、奥寺さん。」
「うひゃっ?!」
傍に寄って声をかけると奥寺さんはビクンと飛び上がって、手に持っていたスマホを宙に放り上げてしまう。
飛んで来たのがこちらの方向だったのでキャッチしてスマホを見ると、画面にはバレーボールの試合でスパイクを打つ俺が映っていた。
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