第314話 隠し部屋

 球技大会2日目、午前中に各競技の決勝進出クラスが決まり、体育館ではまもなく女子バスケットボールの決勝戦が行われようとしていた。

優勝をかけて戦うのは3年1組と1年1組、つまり、彩菜と涼菜のクラスがぶつかることとなったのだ。


「しっかし、姫君と妹君いもうとぎみが対決するとか、凄いことになっちゃったなー」

「3年1組は去年、優勝逃してるから、気合いの入り方が違うよねぇ。」

「しかも相手は1年生ですからね、負けるわけにはいかないでしょう。」


 ここ数年、各競技とも1年生のクラスが決勝戦へ駒を進めた例はないらしい。

ましてや優勝するなどほとんど前例がないのだから、3年1組としては意地でも勝利を手にしなければならない。

逆に1年1組が勝利をもぎ取れば、快挙として大会史にその名を残すことになるのだ。

どちらも負けられない試合になるのは必至だろう。


「ねえ、悠樹、彩菜さんと涼菜さんって、どっちが上手なの?」

「うーん、互角ってところかな、二人ともスタイルが違うから一概には言えないけど。」


 相手の動きを読んで逸早くシュートポイントに入り確実にポイントを積み重ねる彩菜と、目まぐるしく動き回って相手を撹乱しながらどのような位置からでもゴールを狙ってくる涼菜。

互いのプレイスタイルは違えども、得点力はまさに互角と言えるのではなかろうか。


「ただ、ゲームは二人だけでするわけじゃないからね。」

「そうだね、チーム力は3年生の方が上かな。」


 彩菜は得点源としては強力なのだが、ゲームメイクは寧ろ苦手としている。

3年1組がここまで勝ち上がって来たのは、司令塔を中心としたメンバー全員の結束力の賜物と言えよう。

対して1年1組は涼菜頼みの感が否めない。

入学してから3ヶ月でどれほどメンバーシップを醸成できたのかが鍵となりそうだ。


 コート周りを見渡せば、話題性に富んだゲームを見逃すまいと、大勢の学園生が詰めかけていた。

いよいよ試合開始の時刻が迫り、両チームがコートに入ってアップを始めると皆がワッと湧いた。

けれどそれも束の間、歓声は騒めきへと変わっていく。

それもその筈、この試合の主役と言うべき彩菜と涼菜の姿が見当たらないのだ。


「わー、凄い、こんなに沢山お客さんがいると緊張しちゃう。」

「見物人なんてどうでも良いわよ、私たちはゆうに見てもらいたいんだから。」

「えへへ、そうでした、ゆうくん、あたしたちの試合、ちゃんと見ててね?」

「ああ、しっかり見てるよ、あやもすずも、目一杯楽しんで来てくれ。」

「「はーい♪」」


 清澄姉妹が笑みを浮かべて体育館2階のキャットウォークから軽やかにコートへ下りて行くと、学園生たちは再び歓声を上げた。


「凄い歓声、Wヒロイン登場!って感じかねー」

「ひょっとして、学園はこれを演出したかったんじゃないの?」

「ふふ、それはないと思いますけどね、でも、どの道今日はあの二人が揃えばこうなりますよ。」


 女子バスケの準決勝2試合の結果が出てまもなく、俺は顔見知りの事務員さんから呼び出しを受けた。

事務室で彼女から伝えられたのは…


『身を潜める、ですか。』

『そ、噂の美人姉妹が決勝で相見えるんだから、みんな興味津々でしょ? 落ち着いてお昼御飯も食べられないし、下手をすると揉みくちゃにされちゃうわよ?』


 清澄姉妹だけならまだしも、俺が一緒ともなれば更に注目を浴びてしまうことは想像に難くない。

ならばいっそのこと、三人揃って雲隠れしてしまえとのことだった。


『でも、どこに隠れるんですか? そんな都合の良い場所が…』

『あるのよ、おあつらえ向きの場所がね。』


「ここを知ってる生徒は放送部員くらいだと思います。」

「本当に、まさにおあつらえ向きの部屋だね。」


 俺たちが身を潜めたのは、体育館の2階にある第2放送室だった。

昼休み前に俺と愛花、まりちゃん、由香里さんの2年生四人で周囲を固め、他の生徒に見つからないようにこの部屋に入って昼休みを過ごしていたのだ。

ここへ俺たちを案内してくれたのは、1年生放送部員の城之崎さんだった。


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