第306話 洗いっこ

 三つの湯桶にきめ細かな泡をこんもりと盛りつけている間に、愛花とアデラインは洗顔に勤しんでいる。

俺は普段から体ごとボディーソープで洗ってしまうこともあるのだが、女性たちは決してそのようなことはしない。

皆、自らを磨くことに余念がないのだなと、いつも感心させられることの一つだ。


「こっちは準備OKだ、いつでも始められるぞ。」

「私は大丈夫、アデラインさん?」

「私も大丈夫です、何だかワクワクしてきました。」


 多分洗顔している間に気持ちを切り替えたのだろう、アデラインの面持ちには期待の色が浮かんでいる。

俺はアデラインと愛花にたっぷりと泡が入った湯桶を差し出した。


「じゃあこれ、二人の分を渡すね。」

「ありがとうございます、お兄さま、…え? これって…」


 湯桶を受け取ったアデラインが目を丸くしているのを見て、愛花がクスクスと小さく笑う。

きっとアデラインが予想どおりの反応を示したことが可笑しかったのだろう。


「まるでハンドミキサーを使ったようにつのが立ってますよね、私も初めて見た時はびっくりしました。」

「お兄さまにかかれば、ボディーソープがメレンゲになってしまうのですね、驚きです。」

「これ位にしないと、直ぐに泡が消えちゃうからね、さ、どっちからにしようか?」


 笑みを浮かべて愛花とアデラインへ視線を往復させると、二人も同じように他の二人を窺う。

この遊びに難しいルールはない。

硬めのメレンゲ状になったボディーソープの泡を皆で塗りたくってはしゃぎ回るだけの、言うなれば幼い子供の泥んこ遊びのようなものだ。

ただ、今日この遊びに興じるのは10代半ばになった高校生の男女三人、しかも皆、一糸纏わぬ姿という大きな違いがある。


「それでは始めますよ〜、よーい、スタート!」


 愛花の合図と共に、皆、一斉に湯桶の泡を掬っては手近にいる誰かに塗りつけていく。

こうなればもう先輩も後輩も男女の別も関係ない。


「よし、それ!」

「やりましたね? お返しです!」

「二人とも隙あり!」

「「あわっ?!」」

「そりゃ、泡に決まってるじゃないですか、さあ、まだまだ行きますよ〜」


 三人とも最早何の遠慮もなく、夢中になって互いの肌に手を伸ばす。

そうしていると当然、相手の胸や尻、下腹部に触れてしまうこともあるわけだが、触った方も触られた方もそんなことはお構いなしだ。

俺たちは暫し童心に帰り、ただひたすらにはしゃぎまくった。




 一頻りはしゃぎ回って皆の湯桶が空になったところで、泡まみれのまま一息ついた。

愛花とアデラインは心地好さを感じているのだろう、揃って笑顔を見せている。

特にアデラインはとても満足したようで、小さな女の子のように無邪気な笑みを浮かべていた。


「ふわぁ、楽しかったです〜、こんなにはしゃいだのは久しぶりです。」

「くすっ、アデラインさん、まだ終わってませんよ? ね、悠樹?」

「きみ、最初からそのつもりだったんだね…」

「あのぉ、まだ何か続きがあるのですか?」


 あとは体についたボディーソープを流すのみと思っていたアデラインは、愛花の言葉にキョトンとしている。

それもその筈、彼女はこれからのことについて事前に話を聞かされていないのだ。


 実は俺たちがしている『洗いっこ』には、2つのパターンがある。

一つはアデラインが思っていたように、シャワーで泡を落として湯船に浸かるのみと言うもの。

そしてもう一つは…


「私たち、今夜はする日ですから、お互いに大事な所を綺麗にしなきゃいけませんよね?」

「は、はい…、それは…、そう、です、ね?」


 愛花の言っていることがまだピンと来ないのだろう、アデラインは可愛らしく小首を傾げる。

そんな彼女を目の前に、愛花は如何にも楽しそうに次に何をするのかを告げた。


「では、洗いっこの続きです、私たち二人で悠樹のお○ん○んを洗ってあげましょう。」

「あ、なるほど、お兄さまの…って、え? 今ここでですかあ?!」


 浴室で洗うのは当たり前だと思うのだが、どうやらアデラインは酷く混乱しているようだ。

以前、俺と初めて体を洗い合った時には、彼女は俺の男性の象徴に恐る恐る泡を纏わせる程度だった。

しかし、今、愛花が言っているのはそうではなく、しっかりと、念入りに、隅々まで洗い上げることを指している。

アデラインはそのことをキチンと理解したのだろう、頬だけでなく全身を桜色に染めて恥じらいを見せていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る