第243話 サービスエリア
最終日の朝、俺たちは朝御飯をいただいてまもなく清澄邸をあとにした。
春の大型連休が終わる今日明日は、高速道路の渋滞が予想されたからだ。
そしてその予想どおり、高速道路に乗ってから程なくして混雑が始まった。
「混んで来たな、まあ、明日よりはマシだろうけどな。」
「そうね、この程度で済んだって思わないといけないかもね。」
目の前の混雑ぶりに、清澄夫妻は諦め顔だ。
翔太さんが言うとおり、多分連休最終日の明日よりはマシなのだろうが、この先の状況を考えるとうんざりしてしまう。
マイクロバスに乗った女子たちもそう思っているのか、皆、往路とは打って変わって口数が少ない。
翔太さんは不思議そうに首をひねる。
「帰りはみんな静かなんだな。」
「昨夜はみんなで遅くまで起きてたみたいだから、眠たいんじゃない? ねえ、あなたたち、眠たかったら遠慮せずに、寝てていいからね。」
「「「はーい…」」」
美菜さんの呼びかけに、皆からはテンションの低い反応しか返って来なかった。
昨夜、俺はリビングでの集会をさっさと抜け出して風呂に入り部屋に戻ってしまったのだが、女子たちは随分と遅くまで話に花を咲かせていたようだった。
多分皆、部屋に戻ってからも余韻を引きずっていたことだろう。
「紗代莉さんも、眠っていて構いませんよ?」
「ああ、眠たくなったらそうするよ。」
俺と紗代莉さんは最後尾に陣取り、彼女は窓側に座って外を眺めていた。
昨日、紗代莉さんに俺と彩菜、涼菜、愛花が考えている ”家族” のあり方について話をした。
俺はまず、俺が恋を知る原点となった女性である結菜のことを話した。
結菜とのことがなければ、今、俺が抱いている恋愛観は存在し得ないからだ。
その上で、俺の三人の恋人と共に、”家族” になってもらいたいと切望したのだ。
けれど…
『分かっているつもりだったんだがな…、すまんが、少し時間をくれ…』
結菜のことを重く受け止めたのだろう、紗代莉さんは即答を避けた。
どれほどの時間があれば、彼女の気持ちに整理がつくのかは分からない。
そして、どのような結論を出すのかも。
しかし、俺は信じていた、彼女が俺たちと同じ道を歩んでくれることを…。
ふと気づくと、マイクロバスが停車していた。
どうやら俺は、いつの間にか眠ってしまったようだ。
「起きたか、たった今サービスエリアに着いたところだ。」
マイクロバスはサービスエリアの駐車場に停め置かれていて、車内を見ると、皆、休憩のために降りてしまっていた。
「私たちも降りよう、外の空気が吸いたい。」
「そうですね、お待たせしてすみません。」
「構わんよ、お前の可愛い寝顔が見られたしな。」
紗代莉さんは俺を揶揄おうとしたのだろう、悪戯っぽく笑みを浮かべながら軽口を叩いたまでは良かったのだが、『可愛い』と口にしたことが急に恥ずかしくなったのか、頬を桜色に染めてしまった。
はたしてどちらが可愛いのかは、一目瞭然と言ったところだ。
休憩時間は40分と、少し長めにしたようだ。
とは言え、紗代莉さんが車のキーを預かっているため、皆よりも早めに戻らなければならない。
隣で俺が寝ていたせいなので、責任をとって飲み物をご馳走することにした。
カフェコーナーにココアがあったので注文しようとしたところ、紗代莉さんはカフェオレにすると言い出した。
「本当にカフェオレで良いんですか? ココアもありますよ?」
「もう、お前のしか飲まんからな。」
「え?」
「お前が作ったココアしか飲まないと言ってるんだ、一生お前が作るんだぞ、分かったな。」
一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。
けれど、すぐに理解した。
紗代莉さんは昨日保留にしていた答えをくれたのだ。
俺と、俺たちと生涯を共にすると、 ”家族” になってくれるのだと…。
「あのー、ご注文は…」
紗代莉さんの言葉を噛み締めていると、店員が注文を催促して来た。
気がつくと数人の客が、時計を見ながら順番を待っている。
俺は慌ててカフェオレを2つ注文して、次の客に場所を譲った。
俺たちはカフェオレの入った紙カップを片手に、屋外のベンチに座った。
施設内のフードコートでは周囲に
特にカフェコーナーで頬を桜色にしていた紗代莉さんにとっては、この場所の方が落ち着いて話ができるだろう。
「思い知ったよ、いや…、今でも実感が湧くわけじゃない、ただ ”知った” だけなのだろうけどな。」
紗代莉さんは、まだ辛うじて湯気が立っているカップを見つめながら、想いを伝えてくれる。
「お前たちが何かを背負っていることは感じていた。私も26だ、お前たちより長く生きている分、多少は背負っているものもある。だから、共に背負って行けば良いと思っていた。けれど、あれは想像の範疇を超えていた。私の覚悟程度ではとても手に追えないと思ったよ。」
俺が話したことをどのように受け止めたのか、何を思ったのか…
「諦めようかとも思った。つい最近まで、私たちは教師と生徒という関係だけだったのだから、元に戻れば良いのだと。」
これからの俺との関係をどのようにすることとしたのか…
「でもな、無理だった。私はもう、お前という男を知ってしまった、生徒としてではない、御善悠樹という一人の男をな。」
今想う全てのことを包み隠さずに…
「考え方を変えることにした、どうしたらお前と一緒に居られるのか、それだけを考えようと。そうしたら、すぐに結論が出たよ。何のことはない、お前の誘いに乗れば良いだけだとな。私にお前の業は背負えない、けれど支えることは出来る筈だ。それで足りなくなれば、またその時に考えれば良い。私は元々、出たとこ勝負の女だからな。」
「家事が出来ないのに、一人暮らしを始めるくらいですからね。」
「ふっ、そのとおりだ、新人のくせに学園に物申して、試験主任をさせられる程度にもな。」
だから俺はしっかりと応えよう、俺の胸に飛び込むことを決めてくれたこの
「前田紗代莉さん、俺は…」
「御善悠樹、私は…」
〜〜 あなたを愛しています 〜〜
俺たちは誰憚ることなく、誓いの口づけを交わした。
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