第241話 お墓参り
その墓は、広い霊園の一角にひっそりと立っていた。
昔からよくある和型ではなく洋型のオルガンタイプの
「俺もかみさんも無宗教だからよ、こんな風にしたんだ。」
英治さんと園子さんがここに新しく墓を立てたのには、そのような理由もあるのだと言う。
それでも線香置きが据え付けられているのは、訪れてくれた人が自分の宗教・宗派に合わせて自由にお参りしてくれれば良いという気持ちからだそうだ。
「ゆう…」
「ゆうくん…」
彩菜と涼菜が寄り添ってくれている。
昨年のお盆にここを訪れた時には、お参りしているうちに意識が遠退いて行ったところを二人に引き留めてもらい事なきを得た。
俺にはもう、あの時のような兆候は感じられない。
あれほど不安定だった俺の心は、
「ありがとう、あや、すず。」
俺は、3年前からいつも傍らで支えてくれている彩菜と涼菜に感謝すると共に、あらためて今の俺を感じてほしいという想いを込めて、両手でしっかりと二人を抱きしめた。
お参りを終えて、皆が休憩のためにセレモニーホールに向かう中、俺とまりちゃんだけが墓石の前に残っていた。
彼女は優しげな眼差しで墓石を見つめている。
「ここには、結菜さんが一人で眠ってるんだね。」
「うん、兄貴とは別々にね、ゆいねえはそれで良かったって言ってたよ。」
「え…?」
「ごめん、今のは内緒でお願いします。」
まりちゃんに、昨年12月に結菜に会った時のことを話して聞かせた。
俺と同じように亡くなったあとの結菜と出会っている彼女には、いつか話しておきたいと思っていた。
そしてこの場所こそが、それに相応しい所だと思えたのだ。
まりちゃんは何も言わずに、俺の話を聞いてくれた。
「今でも、もっとよく考えて寄り添ってあげられたら、違う結果になってたんじゃないかと思うことがあるよ。」
「そうしたら、結菜さんは死なずに済んだかも知れないってこと?」
「そうであってほしいとは思ってるけど、本当のところは分からないよね。」
俺の正直な吐露にまりちゃんは神妙な面持ちで頷き、墓石に視線を送る。
やがて彼女は静かに想いを口にした。
「アタシが知ってるゆーちゃんは、結菜さんが亡くなったあとのゆーちゃんなんだよね。」
「うん、そうだね。」
俺たちは幼稚園時代の幼馴染だけれど、昨年までは二人とも忘れてしまっていた。
学園で再開していなければ、生涯思い出さずにいたのかも知れない。
「もしも、結菜さんが生きてたら、アタシの目の前には、ゆーちゃんは居なかったかも知れないんだ。」
もしも結菜が生きていたなら、俺と結菜はどうなっていたのだろうか。
娘たちは、この世に生を受けることが出来たのだろうか。
そして、まりちゃんとは出会えていたのだろうか…。
「ゆーちゃんには悪いけど、アタシは、結菜さんが居なくて良かったと思ってる。だって、ゆーちゃんが今、ここに居てくれるんだから。」
「まりちゃん…」
まりちゃんは潤んだ瞳で俺を見つめていた。
昼御飯のあと、紗代莉さんが昨夜の1年生組に引き続き、今度は2・3年生に捕まってしまい、俺は一人で部屋に避難していた。
不意に時間ができたので、中間試験に向けて彩菜用の想定問題作りに手を付けようとしたところに、アデラインが訪ねて来た。
「お兄さま、今、お話ししてもよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ、どうぞ入って。」
想定問題作りも大事だが、可愛い
「失礼します、お寛ぎのところ、申し訳ございません。」
いつもながらの丁寧な言い回しについ苦笑いを浮かべそうになるが、これは彼女の癖なので致し方ない。
窓際に置かれた椅子にアデラインを座らせて、こちらから話を切り出した。
「どうしたの? お墓参りで何かあった?」
俺の問いに彼女は目を丸くするが、直ぐに悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「本当に、お兄さまには、何でも見透かされてしまいますね。怖いくらいです。」
「可愛い義妹のことだからね、
俺が笑顔を返すと、アデラインは15歳の少女らしく可憐な微笑みを見せてくれた。
アデラインの話というのは、墓石に彫られた文字のことだった。
先ほどお参りした墓には、そこに眠る人の名前が刻まれていたのだ。
”清澄結菜” ではなく、 ”御善結菜” と。
「涼菜に尋ねようかとも思ったのですけど、お兄さまに伺うべきかと思いまして…」
「そっか、ごめんね? アディーには話してなかったね。」
「いえそんな、あの…、教えて、いただけますか?」
俺はアデラインに結菜は幼馴染なだけでなく、兄嫁であることと初恋の人であること、そして…
「アディー、俺は、きみに嘘をついていることがあるんだ。」
「嘘…ですか?」
「うん、以前、俺の初めての
「はい、私が伺いましたので…」
「本当はね、違うんだ、俺の初めては、ゆいねえなんだよ。」
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