第236話 Barbecue party
「それでは、部屋割りを発表しまーす♪」
俺たちが今日から使わせてもらうのは、2階の洋室4部屋。
8畳大が1部屋と6畳大が3部屋だ。
部屋割りは、彩菜と涼菜、愛花の三人にお任せした。
昨夜、三人は額を突き合わせて、ああだこうだと実に楽しそうに取り組んでいた。
俺は彼女たちの手元のメモを覗き込もうとしたのだが、サッと隠されてしまったので結果を知らないままだ。
はたして、女子三人の思惑や如何に。
「色々考えたんですけど、結局、学年別にしました。
3年生三人:8畳大
2年生三人:6畳大
1年生三人:6畳大
と、こんな感じです。」
「「「ほほ〜?」」」
「おい、それ…」
「まさかとは思うが…」
「ってことで、残りの1部屋は、ゆうと前田先生に使ってもらうから、二人ともよろしくね。」
俺たち二人は、揃って頭を抱えてしまった。
俺は紗代莉さんと並んで、バルコニーから海を眺めていた。
俺たちに宛てがわれたのは、東側の端にある一室だった。
俺たちが寝泊まりする2階の部屋は全て南向きで、窓の外には大海原が広がる所謂オーシャンビューとなっている。
2階の北側は内廊下のみなので、窓からの眺望を余すことなく堪能できるように設計したのだろう。
各部屋には小さなバルコニーも付いていて、さながらリゾートホテルのような雰囲気さえ醸していた。
「まったく、あいつら…」
「はい。」
「お節介にも程があるぞ。」
「はい。」
「…お前、『はい』しか言えんのか。」
部屋割りはその場で採決され、賛成9、棄権2の賛成多数で可決成立した。
誰と誰が棄権したのかは言わずもがなだ。
どうせ多勢に無勢、反対しても焼け石に水だし、賛成票を投じるわけにも行かないので、そうせざるを得なかったのだ。
皆がいそいそと2階へ上がって行く中、二人だけ足取りが重たかったのは致し方ないことだろう。
部屋までの道のりが随分と長く感じられた。
しかし、ただグダグダ言っていても、埒が明くわけでもない。
「諦めましょう、こうなったら、気持ちを切り替えるしかありません。」
「そんなことは分かってる、愚痴ぐらい言わせろ。」
俺が笑顔を向けると、紗代莉さんはふんっと鼻を鳴らして唇を尖らせる。
子供っぽい仕草に内心クスリと笑いながら、肩を寄せて手すりに置かれた彼女の右手にそっと左の掌を重ねた。
頬を桜色に染める彼女の横顔にほんのりと喜色が浮かんで見えるのは、多分気のせいではないだろう。
俺たちは暫し身を寄せ合いながら、温んで来たばかりの海風に包まれていた。
その頃、西側の奥にある部屋では、3年生組が床面に足を投げ出しながら、のんびりと雑談に興じていた。
「はあ〜、昨日連絡もらった時は驚いたけど、なんとかなったねぇ。」
「心配いらないって言ったじゃない、まあ、あとは二人次第だけどね。」
「それにしても思い切ったわね、悠樹さまと前田先生を二人っきりにするなんて。」
「ゆうは積極的に前に出るタイプじゃないから、あれくらいお膳立てした方が良いと思って。」
「紗代ちゃんは、あの性格だから仕方ないけど、王子さまがねえ、なんか意外。」
「そのうち分かるよ、ゆうがそっちの家に行くことも多くなるだろうしね。」
「取り敢えず、2日間でどうなるのか、見守ることにしますかぁ。」
夕方、まだ空に薄らと明みを感じられる頃、俺たちは庭に出てバーベキューを楽しんでいた。
昨年の夏休みに寄せてもらった時と違い、この時季は陽が落ちると気温も下がる。
炭火の暖があるとは言え、夕日の温みが残っているうちに食事を済ませようとしているのだ。
「ゆーちゃん、コンロの番ばっかしてない? ちゃんと食べてる?」
今回は15人と大人数なので、バーベキューコンロを3台使って肉や魚介、野菜などの食材を次から次へと継ぎ目なしに焼いている。
焼き担当は、当然の如く男性3名が担当していた。
「時々摘んで焼き具合を確認してるから、結構食べてるよ。まりちゃんこそ、食べてる?」
「最初っから、ガッツリ行ってるよー、この肉、最高だよねー」
「みんなが来るから、英治さんが奮発してくれたんだろうね。はい、これ焼けてる。」
焼き網の上で程よく焼けた一口大の牛肉をトングで幾つか挟み、まりちゃんが持っている紙皿にポトリと乗せる。
すると彼女はその肉を一つ箸で摘んで、こちらに差し出して来た。
「あんがと、じゃあ、はい、あーん。」
「え、俺?」
「そ、こういうの、一度やってみたかったんだよねー」
まりちゃんはいつものように悪戯っぽく笑っているけれど、ほんの少し照れが混じっているように見えた。
「そっか、じゃあ、いただこうかな。」
俺が大きく口を開けると、彼女はポイっと肉片を放り込む。
まるで動物園か水族館で餌やり体験をしている子供のようだ。
俺は餌をもらった動物よろしく、そのまま有難くいただいた。
「うひゃひゃ、ごめんごめん、これじゃ餌やりだよー」
「くすっ、俺もそう思ったよ、それじゃあ、はい、お返し。」
まりちゃんの皿から自分の箸でヒョイと肉を摘み上げて口元に持って行くと、彼女は一瞬戸惑ったものの箸の先にパクッと食いつきモグモグと咀嚼する。
「どお? 美味いよね。」
俺が顔を覗き込んで笑顔で尋ねると、彼女は満面の笑みで応えてくれた。
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