第230話 連休の予定
4月の最終月曜日、登校して教室に入り挨拶しながら席に着くと、由香里さんが大型連休の予定を聞いて来た。
傍にいる愛花とまりちゃんが、一瞬ピクリと反応した。
「5月2日が両親と兄夫婦の命日だから3日に墓参りに行くけど、あとは決まってないよ。由香里さんは連休どうするの?」
「わたしは何も予定なし、父親が休みだから、あんまり家に居たくないんだけどねぇ。」
「そう言わないで、少し話をしてみると良いんじゃない?」
「あはは、それが出来ればねぇ、あっちも気まずそうだし。」
俺と由香里さんがいつもと何ら変わらず話を続けているのを見て、愛花とまりちゃんがキョトンとしている。
二人は俺がさらりと命日のことを口にするとは思っていなかっただろうし、それを聞いた由香里さんが無反応で受け応えするとは思いも寄らなかっただろう。
先日、由香里さんに、俺の身内全員の命日が同じであることを伝えていた。
話の切っ掛けは本当に何気ない、『もうすぐ4月が終わるね』程度のことだった。
その中で、俺が命日が近いことを口にしていたのだ。
その時こそ彼女は恐縮していたけれど、それを手がかりにして俺たちは互いの家族のことを語り合い、また少し距離を縮めることが出来た。
こうして自然体で接することが出来る人がいることは、本当に嬉しいことだ。
きっと俺にとって由香里さんは、いつでも傍に居てくれるのが当たり前な人になっているのだと思う。
そして、また一人、俺がそう思っている女の子が話に加わった。
「ねー、ゆーちゃん、2日なんだけど、放課後、行っても良い?」
「ゆいねえに会いに来てくれるんだよね、きっと喜んでもらえると思うよ。」
「うん、そうだと良いなー、ホントは、また話したいんだけどねー」
「ゆいねえも、そう思ってるんじゃないかな、まりちゃんと話したいって。」
まりちゃんは俺以外でただ一人、あちら側に居る結菜と交流した経験がある。
なぜこの子が結菜と話が出来たのか俺には分からないが、まりちゃんにとっては特に不思議なことでもないようで、今もまるで偶にしか会えない親戚のお姉さんに会いに来るかのようだった。
「結菜さんのお墓が、もっと近くにあると良いのにね。」
「そうだね、まなにもお墓参りしてほしいしね。」
「うん、今年はお盆に行けたら良いな。」
結菜が眠る所は、俺たちが簡単に行き来できない土地にある。
行くとなれば、清澄家の祖父母の世話になることが必須となる。
たとえ清澄一家と俺が一緒であったとしても、彼らとは赤の他人である愛花にとっては敷居が高いだろう。
「だったら、連休中にみんなで行く?」
放課後の図書室、既に定番化している勉強会が終わってから、今朝、教室で話したことを皆に聞かせると、彩菜が思わぬ提案をして来た。
「お墓参りじゃなくて、旅行に行くってことでどうかなと思って。」
「いや、簡単に言うなよ、そりゃあ電車でも行けるだろうけど。」
「それは、多分大丈夫だと思うよ? ちょっと待って。」
彩菜はスマホを取り出して、誰かと連絡を取り始めた。
会話の様子から、相手はどうやら美菜さんのようだ。
彼女は一頻り遣り取りしてから通話を終え、皆に声をかけた。
「ねえ、みんな、◯◯市にある清澄の祖父の家なんだけど、2泊3日で、車で連れてってもらえるとしたら、行きたい?」
「「「「「行きたい!」」」」」
「マジですか…」
彩菜によると、以前、清澄の祖父母から大型連休中に遊びに来いとお声がかりがあったのだが、翔太さんの仕事の都合でお断りしたそうだ。
けれど、昨日までの長期出張で仕事が片付き、翔太さんは連休中、フリーになったらしい。
「今、お爺ちゃんの都合と、レンタカーが取れるかどうか聞いてもらってるから、まだ分かんないけどね。」
「レンタカー?」
「うちの車で全員は無理でしょ? お母さんがマイクロバスをあたってみるって。」
当然、翔太さんが運転するのだろうが、仮にマイクロバスがダメな場合は車2台ということも考えられる。
美菜さんの運転免許は単車オンリーなので除外として、あとは…。
そう思いながら桜庭さんに視線を移すと、俺が考えていることが分かったのだろう、両手の人差し指で×印を作っていた。
どうやら紗代莉さんを頼ることは出来ないようだ。
まもなく彩菜のスマホにメッセージが入った。
「お爺ちゃん家もマイクロバスもOKだって、日程は5月4〜6日の2泊3日、清澄が四人、御善が二人、ほかが七人の合計十三人、賑やかになるね。」
「ちょっと待ってくれ、あや。」
「なに? ゆう。」
俺には2つ、気になることがあった。
1つ目は翔太さんのことだ、美菜さんは彼に都合を聞いたのだろうか。
彩菜に問うてみると…
「お母さんが行くと言えば、それで決まりでしょ?」
最早愚問だった、清澄夫妻の発言力の差は歴然としている。
翔太さんには、あとで労いの言葉をかけておくことにしよう。
そして、もう1つは紗代莉さんのことだ。
『ほかが七人』ならば彼女もカウントされている筈だ。
桜庭さんに聞いてみると…
「今、紗代ちゃんにメッセージ入れたから、もうすぐ…」
「紗枝ちゃん、私に急用とは何だ?」
司書コーナーにいる俺が振り返ると、カウンター越しに紗代莉さんが立っていた。
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