第224話 校内放送の乱

 その頃、3年1組では…


「へえ、アデラインは上手いこと、話を持って行ったね。」

「ちょっと、展開早くない? 間が保たなくなっちゃいそう。」

「尻切れになるより良いわよ、目的も果たせるしね。」

「うーん、それねー…」

「今更怖気付いたの? 言い出しっぺのくせに。」

「こんな形になるとは思ってなかったの! まあ、良いけどねぇ…」

「取り敢えず、ほら、放送聞かなきゃ、ゆうが話すよ。」

「うー、分かったわよー」




義妹いもうとの言うとおり、意中の女性ひとはいます、ただ、まだ時間がかかりそうですけど。」


「ほほう、流石のお兄さんでも、振り向いてもらえないと言うことですかー」


「気持ちは通じ合ってるんですけどね、周りが難しくて…」


「ちなみに、その女性って、この学園の人ですか?」


「ええ、そうです。」




 一方こちらは、2年1組の教室…


「なんかさー、司会の人、事情知ってるように聞こえない?」

「うん、随分上手く噛み合ってるよねぇ。」

「それはないと思いますけど、悠樹が何か仕掛けた可能性は捨てきれませんね。」

「マインドコントロールってやつ? 怖いわー、ゆーちゃんとの付き合い方、考えなきゃいけないかなー」

「鷹宮さん、そんなこと言って、悠樹に知られて泣くことになっても知りませんよ?」

「え、あれ、まりちゃん、まさか…」

「あ、ほら、続き続き!」

「ちょっと、誤魔化さないでぇ!」




「清澄さんと森本さんも、その人のことは、ご存知なんですか?」


「はい、二人とも、とっても良い雰囲気なんです、あたしは応援してます。」


「わたくしは、どのようなことであっても悠樹さまを尊重いたします。どうか、お気持ちのままに。」


「ありがとう、二人とも、心強いよ。」


「なるほどなるほど、皆さんが応援したくなる間柄ってことですか、素敵ですねー。これは我が放送部も後押ししたくなりました。お兄さん、よろしければ、マイクを通してその人にメッセージなど如何でしょう。」


「はい、本人ではなくて、同居する人へ何ですけど、伝えたいことがあります。」


「ほほう? 分かりました、それでは、どうぞ!」




「いよいよだね。」

「うー、胃が痛いー」


「さあ、来ますよ。」

「よーし、言っちゃえ言っちゃえー」

「ちょっと、ねえ、まりちゃんってばぁ!」




「職員室にいらっしゃる前田先生にお願いがあります。先生が仰るとおり二人きりで会うことはしませんので、桜庭さんとの交際を認めてください。どうかお願いします。俺は、さんを大切にします!」




 同時刻の職員室にて…


「(ふっ…、まったく、あいつは…)」

「前田先生! 桜庭さんって、同居してる3年生の子ですよね?! 何か凄いことになってますよ?!」

「成沢先生、困りますね、顧問として放送部をしっかり監督してください。」

「ええっ?! わたしが怒られるんですか?!」




 その後、俺たちはヒートアップする早川部長を宥めながら、何とか無事に(?)校内放送を終えることが出来た。

これで当初の計画どおり、涼菜とアデラインの虫除けと共に、紗代莉さんとの関係を前に進めることが出来た筈だ。

 多分このあとは学園からのお叱言が待っているだろうが、言ってしまったことを引っ込めることなど出来ないし、そもそも彼らが成績上位者に強く出られるほどの内容でもないだろう。

 ダシに使われた桜庭さんが周囲に弄られるのは確実なので、そこだけは申し訳ないところだ。

今回の発案者として感謝すべき人でもあるので、紗代莉さん共々、しっかりとケアしたいと思う。




「やらかしてくれたな、おかげで私は授業がやりにくいぞ。」

「重ね重ね、ご迷惑をおかけします。」


 放課後、案の定職員室でお叱言をもらっていた。

しかし、このような時は一般的に担任から呼ばれると思うのだが、なぜか俺はいつもの如く前田の隣に座らされて頭を下げている。

はたして、それは…


「お前担当という有難くもない役割まで押し付けられたしな、まったく、担任がいるというのに。」

「俺の手綱を握れるのは、先生だけってことですかね。」

「お前が言うな、まあ、そういうことだ。」


 各科目の担当教師が俺に用がある時は前田経由にするのではないかとは予測していたけれど、よもや担任がすべきことまでとは思っていなかった。

学園が俺への対応を前田に一任するなど、はたして前代未聞だろう。


「従姉妹のこともあるし、暫くは私の監視下に入ってもらうぞ。」

「先生、その従姉妹の件は如何でしょう、認めてもらえませんか。」

「それも含めて、しっかり監視してやるから、そのつもりでいろ。」

「承知しました、仰せのままに。」


 俺も前田も周囲に聞こえやすいように、いつもよりもほんの少しボリュームを上げて遣り取りしていた。

前田は椅子の背もたれに体重を預けて小刻みにギシギシと揺らし、俺は背中を丸めて項垂れている。

俺たちの様子を見て、内心でくすくすと笑いながら会話をしているなどと誰が思うだろうか。


 俺たちは暫し言葉のキャッチボールを楽しみながら、午後のひと時を過ごしていた。


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