第223話 グダグダ

 思わぬ急展開に俺と涼菜、あかねさんが呆気に取られていると、早川部長は一転して心底すまなそうな面持ちで両手を合わせて来た。


「こちらの不手際で、本当にごめんなさい。あらためてだけど、座談会に参加してください、お願いします!」


 俺たち三人は返答に困ってしまった。 

彼女のおかげで当初想定していた憂いの素があっさりと取り除かれたのは良かったのだが、それによって『首席座談会』で俺たちがどのように振る舞うべきか方向性を見失ってしまったのだ。


 放送開始は刻一刻と迫っているが、企画意図が分からなければ参加のしようがない。


「参加するにしても、俺たちは何を話せば良いんですか? ぶっつけ本番で大丈夫なんですよね。」

「うん、大丈夫! 素顔の首席さまってどんな人? って感じの軽いノリだから♪」


「「「軽っ?!」」」


 放送部が各学年で取材したところによると、学園生が持つ『首席さま』の印象は”偉そう”、”鼻につく”、”お高く留まっている”など、ネガティブなものが大勢を占めていたそうだ。

実際に話をしてみれば、そうでないことを直ぐに分かってもらえるのだが、皆が皆そのような機会があるとは限らないし、あってもそれまで時間がかかることも考えられる。

 それならば、放送部がその機会を提供してあげましょう、と用意したのが今回の企画の趣旨と言うことだった。


「この時期だから新入生向けの企画なんだけど、新入生の首席さま一人だけってのもね。」

「確かにそうですね、一人じゃ心細いでしょう。な、すず。」

「うん、今は、ゆうくんとあかねさんが居てくれるから大丈夫だけど、一人じゃ嫌。」


 涼菜に同意を求めると、彼女は胸に飛び込んで来てギュッと抱きついた。

俺たちの様子を見て、早坂部長は何かを思い出したようだ。


「おお? あら? ねえ、この子って、文化祭で話題になった『学園の姫君』の妹さんだよね。ってことは、この子も御善くんの彼女?」

「ええ、そうです。」

「ほうほう、ほうほう、なるほど、なるほど。」


 早川部長は俺に抱きつく涼菜の顔を見ながら何度も頷き思案していたが、やがて両手をパンッと合わせて宣言した。


「よし、決まり! 今日は二人のラブラブぶりを皆に聞かせちゃえ!」


「ゆうくん、やったね、計画どおり。」

「結局、こうなるんだな…」


 俺たちが事前に立てていた奥寺対策は、まさにこれだったのだ。

弄られるくらいなら放送をジャックして、涼菜とアデラインの虫除けに使わせてもらおうという魂胆だった。

と言うことで、俺たちはゲストを招き入れることにした。


「早川部長、義妹いもうとも出演させてください。俺とは切っても切れない子なんで。」

「オッケー、オッケー! もう、この際何でもあり! グダグダ上等!」


 半ばヤケクソになった早川部長の了承を得て、廊下で待機していたアデラインを招き入れた。

こうして『首席座談会』またの名を『ゆうくんラブラブタイム』(命名:清澄涼菜)は、ほぼ定刻にスタートしたのだった。




※ ここからは音声(台詞)のみでお送りします。


− ♫オープニング・テーマ 10秒 −


「皆さんこんにちは、校内放送で毎月1回お届けしている特別企画、今年度の第1回目は『首席さまと親しもう♪』(改題:早川部長)と題して、各学年の首席さまをお招きしてフリートークを楽しんじゃいます。それでは早速、3年生の首席さまから、自己紹介をお願いします。」


「3年1組の森本あかねです。たった今、首席さまとご紹介いただきましたけど、それは過去の話、今のわたしは、こちらにいらっしゃいます悠樹さまにこの身を捧げるしもべとして生きておりますので、以後、そのようにご承知ください。」


「初っ端から濃いーキャラいただきましたー、続いてその悠樹さま、どうぞ。」


「2年1組の御善悠樹です。よろしくお願いします。以上です。」


「あれ、それだけ? 色々ありますよね。彼女が何人もいるとか、ハーレム持ちとか、希代の女誑しとか、あと、最近ファンクラブが出来たとか。」


「それ、自己紹介で言うやつ居ますか?」


「それでは、次どうぞ。」


無視シカト?!」


「1年1組の清澄涼菜です。ここにいる、ゆうくんの彼女やってまーす。ゆうくん大好きー♪」


「よしよし、すずは可愛いな。」


「うふふ〜、なでなで嬉しい〜♪」


「うわー、映像でお届けできないのが、幸いなのか残念なのか、少なくとも独り身のわたしには目の毒です。」


「ふふふ、うちではもっと凄いですよ。」


「おっと、そうでした。今日はさらに特別ゲストとして、御善悠樹さんの義妹いもうとで清澄涼菜さんの親友、御善アデラインさんにもご参加いただきます。御善さんは外国の方ですか?」


「はい、生まれも育ちも日本ですけど、国籍はイギリスです。縁あって御善姓になりました。」


「なるほど。ところで、さっきお兄さんと清澄さんは『うちではもっと凄い』とおっしゃいましたが?」


「わたしがお兄さまに甘えたくても、入る隙がないくらいです。折角義妹になれましたのに、これでは少し寂しいですね。」


「それならもういっそのこと、彼女にクラスチェンジしちゃうとか、凄くお綺麗だからお兄さんも一発 KO では?!」


「ふふふ、お兄さまには今、意中の方がいらっしゃいますから、わたしはそのあとにでもお願いしようと思います。」


「なんと、この超絶美少女を差し置いて、ほかの女性に粉をかけるとは、お兄さん、真相や如何に?!」


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