第216話 委員会活動
4月の第2金曜日、今日の6時間目は授業ではなく、今年度第1回目の委員会活動に充てられていた。
俺が所属する図書委員会は、各クラス1名ずつの委員で構成されているので、総勢15名が在籍している。
普段の活動は1・2年生のみで行っているのだが、今日は委員の顔合わせとあって、3年生も図書室に顔を出していた。
そして今日はもう一人、初回だけ顔を出しておけば良い人物が、委員会に参加していた。
「今年度の顧問を引き受けた前田だ。基本的には口を出さないが、何かあれば委員長を通じて連絡するので、そのつもりでいてくれ。逆に私に相談事がある時も委員長経由で頼む。それで、今年度の委員長だが…、御善兄、お前がやれ。」
「承知しました。議事を引き継いでも良いですか?」
「ああ、あとは任せる。」
「では、そのように。」
当初の予定どおり委員長に指名された俺は議事を前田から引き継ぎ、まずは1・2年生と3年生の業務分担、年間スケジュールを確認してから、新入生に対して主に司書業務の概略を説明した。
実務的には司書当番の際に2年生に教えてもらいながら熟して行くことになるので、そのような仕事があるということを知ってくれれば良い。
新入生からは特に質問もなかったので、残りの時間は3年生を含めて各曜日の当番毎に引き継ぎと言う名の雑談会に移ってもらった。
各曜日三人ずつが散らばった図書室内を見渡してから、自分が担当する月曜日のメンバーが居るテーブルに移動する。
以前図書室を利用していた時に定位置にしていた最奥の読書テーブルでは、3月まで相方だった彩菜と今月から共に当番を務めるアデラインが待っていてくれた。
「お疲れ様、委員長さん、あと1年よろしくね。」
「委員長と言っても、実質的にすることはないんだけどな。アディー、これからよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お兄さまとご一緒出来て、嬉しいです。」
この学園では入学して直ぐに所属する委員会を決めるのだが、任期が3年、つまり卒業するまで同じ委員会で活動することになるため、皆、それなりに考えて立候補している。
ただ、委員毎に人数が決まっているので、ほかの生徒と競合すれば、はたして望む委員となれるかどうかは分からない。
そのような状況の中、アデラインはかねてより希望していた図書委員会に所属することが出来た。
そしてそれは、俺の希望どおりでもあった。
「俺も嬉しいよ、きみを出来るだけ傍に置いておきたかったからね。」
「え、あ、あの、はい…、末永くお傍に置いてください…////」
「くすっ、良かったわね、アデライン、色々と希望が叶って。」
「彩菜さん、揶揄わないでください。…でも、はい、本当に…」
アデラインは両手を胸元に組み、瞼を閉じて首を垂れる。
彼女は頬に桜色を乗せ口元に笑みをたたえて、暫し祈りを捧げていた。
放課後になり、いつもの如く愛花と共に4階へ彩菜を迎えに行く。
3年1組で彩菜をピックアップすると、今度は2階に降りて1年1組に立ち寄り、涼菜とアデラインに合流して五人揃って帰宅の途に着いた。
彩菜のクラスメイト、あかねさんと桜庭さんは、まずは彩菜が3階に降りて行けば良いと言うけれど、俺と愛花にとって我が家の長女を迎えに行くのは至極当たり前のことなので、今後もこのパターンが続くことになるだろう。
皆で歩く帰り道で話題にしたのは、委員会活動についてだった。
「すず、球技大会実行委員会はどうだった、上手くやれそうか?」
「うん、何も難しいことはないし、活動は年に1回だから。」
涼菜が選んだのは球技大会実行委員、我がクラスでは、まりちゃんが所属している委員会だ。
球技大会が行われるのは1学期の期末試験明けの2日間だけなので、涼菜が言うとおり然程難しいことがあるわけでもないし、比較的楽な部類の委員会だろう。
「そだ、ゆうくん、鷹宮さんが1年生に告られたって話、聞いた?」
「ああ、まりちゃんに聞いたよ、一目惚れされたって。」
帰りのSHRのあと、まりちゃんがため息を吐いているので、どうしたのかと問うと、委員会で一緒になった1年生に告白されたとのこと。
『ゆーちゃんがいるからって断ったけどさー、一目惚れとか、何でアタシなんかにって感じだよー』
お断りのために俺の名前を使うことは構わないのだが、自らを卑下するような言葉は如何なものかと一言告げると…
『見た目だけで惚れるとかナイっしょー、アタシはダメだなー』
普段の言動から誤解されることもあるのだが、まりちゃんは思慮深く堅実な考え方をする人だ。
そのような彼女の恋愛観は、押して知るべしと言ったところだろう。
しかも今回、まりちゃんとしてはさらに受け入れ難い理由があった。
『それにアタシ、ノンケだしねー、女子と付き合う気はないわー』
「あー、そういうことか、告白した子って女子だったんだ。」
「最近の鷹宮さんはクール美人寄りですから、これからもそういう機会はありそうですね。」
「でも、鷹宮さんには、ゆうくんがいるから、みんなお断りされちゃうねー」
「俺の名前で断るのは良いんだけど、あとで自分が困るんじゃないかと心配だよ。」
俺がそう言うと、アデラインを除いた女子たちが、揃ってため息を吐いた。
「最近は、ましになったと思ったんだけどなぁ。」
「悠樹は悠樹ってことですね。」
「鷹宮さんも、もう一押し足りない気がするしねー」
「あ…」
「なるほど、そういうことなのですね。」
アデラインは三人のリアクションの理由に思い至ったようだ。
俺もそれが何を表しているのか気づきはしたが、今は沈黙を守ることしか出来なかった。
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