第213話 候補者
「二人とも、クラスのVIP扱いだな。」
「えへへ、詩乃がパパッと纏めてくれたの、この子、こういうの得意なんだよ。」
「あはは、涼菜だけじゃなくてアデラインさんも居るので、直ぐに動いちゃわないと大変なことになると思って。」
きっと中学校での経験が活きているのだろう、涼菜が在籍するクラスがどのようなことになるのか、3年間クラスメイトだった詩乃ちゃんはよく知っているのだ。
そのような友人が傍に居てくれることは、涼菜にとってとても心強いことだと思うし、俺にとっても有難い。
俺は出来うる限り、涼菜とアデラインの周りに自分の目を届かせようと画策していたわけだが、どうやら彼女がその役割を担ってくれる最も大きな存在となりそうだ。
「それにしても、お兄さんが、涼菜とお姉さんの二人と付き合ってるのは知ってましたけど、まだ彼女がいたんですね。神崎先輩のほかにはあと何人いるんですか?」
「あと一人だね。」
「「「「「うわー…」」」」」
「高校生って凄いね。」「特殊事例じゃない?」「ハーレムだ…」「 」「 」・・・
俺の答えに後輩女子たちが騒めく中で、問いを投げかけた詩乃ちゃんが然程も驚いていないところを見ると、きっと想定の範疇ということなのだろう。
涼菜との仲を考えれば当然と言ったところか。
しかしそうすると、彼女があらためて問うて来た意味とは…。
「今は、四人ってことですか、でも、きっとまだ増えますよね。」
「いや、そんなことは…」
「今は、候補が五・六人ってところかな。」
「え、あや、何を根拠に…」
「「「「「まだいる?!」」」」」
またしても女子たちがザワザワする中、今度は詩乃ちゃんも眉間に皺を寄せている。
流石に呆れてしまったということだろうか…。
「(うわぁ、マジか…)凄いですね。でも、『今は』ということは?」
「先日、ファンクラブが出来ましたから、今後の増加数は読みきれませんね。」
「ファンクラブぅぅぅ?!」
「「「「「露口さん?!」」」」」
詩乃ちゃんは誰よりも先に食いついたと思ったら、もの凄い形相で詰め寄ってきた。
この形相の詳細は、彼女の将来に差し障りがあるかも知れないので、割愛させていただく。
「ちょっと、お兄さん! どうなってるんですか?! 何やらかしてくれちゃったんですか?!」
勢いに押されながらも何とか事の
「お兄さんがそういう人だってことは薄々感じてました。しかし、それほどとは…(読み違えてしまった…)」
呆然と立ち尽くす詩乃ちゃんに涼菜がスッと寄り添って、彼女の顔を覗きこんだ。
「詩乃、大丈夫?」
「…ご覧のとおりの惨状です。」
「ふーん? ねえ、あやねえ、さっきの候補者に…」
「うん、入ってる。」
「だってよ? 詩乃。」
「ホントですか?! よっしゃー! 希望の光が見えてきた!」
詩乃ちゃんは両手に拳を作り、力強くガッツポーズを決める。
分かりやすい彼女のリアクションに、女子たちは口々にエールを送っていた。
俺は立場的に応援のしようがないので、苦笑いを送ることしか出来なかった。
「へー、なーんか凄いことになってるねー」
「男子が下手に手出ししたら、袋叩きに合いそう。」
「あの状況では、手の出しようがないでしょうね。」
放課後になり、俺と愛花は昼休みに1年1組を訪れた際の様子を、まりちゃんと由香里さんに報告していた。
あのあと、午後からは日程のない涼菜たちは、皆で昼御飯を兼ねた親睦会へと出かけて行った。
参加したのは1年1組の女子全員、男子は一人も含まれていない。
男子は美少女二人と同じクラスになれたことで、最初は皆、天にも登ったかのように浮かれていたらしい。
けれど、女子の鉄壁のガードに阻まれて二人には容易に近づけず、さらには昼になって教室に彼氏(もしくは兄)が現れたことで、一転して地へ真っ逆さまに墜落してしまう羽目に陥った。
今頃は、皆で昼御飯を兼ねた慰め会が開かれているに違いない。
斯くして、1年1組は入学初日から男女が真っ二つに分かれてしまった。
分断を引き起こした張本人が言うのも何だが、これがクラスの不協和音に繋がらないことを切に願っている。
「しっかし、これでファンクラブは、さらにデカくなるね。」
「そう言えば、アレって、今どうなってるんですか? 具体的な動きが見えて来ませんけど。」
「神崎さんは彼女だから、情報は入りづらいかぁ。2年生はメンバーが固まったみたいだよ? 会長はやっぱり、椿で決まりだって。」
「3年生にも入会希望者がいるらしいから、それが何人になるかって感じかなー」
おそらく部活を通じて3年生にも話が広まっているのだろう。
と言うことは、4月中には1年生の耳にも届くだろうから、会員数が増えていくことは十分に考えられる。
祭り上げられる当事者としては、何とも頭の痛い話だが…。
「そだ、ゆーちゃんさー、メンバーに奏美がいるから、気ぃつけた方が良いよー」
「奏美?」
「放送部の奥寺奏美、ほら、『首席座談会』の。あの子って面白そうだと思ったら、何にでも首突っ込むんだよぉ。」
「悠樹、これは対策を練った方が良さそうだね。」
「うん、座談会で何か仕掛けてくるのは、間違いないね。」
そもそも座談会で弄られることは確定だろうから、涼菜とあかねさんを交えて裏打ち合わせをするつもりだった。
そこにファンクラブ・ネタへの対策を追加することは必須だろう。
2年生に上がってからの学園生活も、どうやら平穏に済むことはなさそうな予感がしてきた。
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