第212話 新入生
4月に入って最初の金曜日、いよいよ今日、涼菜とアデラインが稜麗学園高校に入学する。
講堂には真新しい制服に身を包んだ新入生149名がクラス順に並び立ち、待ちに待った学園生活に胸を躍らせていた。
予定どおりの時刻に始まった入学式は、初っ端の学園長訓示こそ長引いたものの、式次第に従って滞りなく進行し、今は各クラスの担任と各科目の担当教師の紹介が行われていた。
「うー、なんか緊張してきたー」
「大丈夫だよ、挨拶の内容は完璧に覚えてるんだから。」
「そうなんだけど、みんなに見られながらってのがねー」
講堂正面にある演壇の袖では、新入生代表挨拶に臨む涼菜が緊張した面持ちで控えていた。
キュート系美少女の彼女は、
「すず、アディーがどこに立ってるか、分かるよな。」
「うん、うちのクラスの後ろの方。」
「挨拶の時は、アディーだけ見るんだ。アディーになら緊張しないで話せるだろ?」
「そっか、それなら大丈夫だね、ゆうくん、ありがとう。」
「それと、俺もここに居るし、後ろには前田先生も居るからな。」
「くすっ、前田先生じゃなくて、紗代莉さんでしょ?」
「ここは学園だからな、さ、そろそろ出番だ。」
「はーい、それじゃ、行ってくるね♪」
教師の紹介が終わり、新入生代表として涼菜の名が告げられると、彼女は足取りも軽く演壇中央へと歩み出た。
その様子を見る限り、涼菜は大分気持ちが楽になっているようだ。
はたして、彼女は代表としての大役をしっかりと務め、皆の喝采に包まれながら、高校生活の第一歩を踏み出したのだった。
昼休みになり、俺と彩菜、愛花の三人は涼菜とアデラインの様子が気になり、取るものも取り敢えず自分の教室を飛び出していた。
揃いも揃って過保護だとは思うけれど、可愛い身内がはたしてどのように過ごしているのか気になるのは、決しておかしなことではないと思う。
俺たちは、多分本人以上に期待と不安でドキドキしながら、1年1組を目指していた。
俺たちが目当ての教室に辿り着くと、入り口付近に見覚えのある女子生徒が立っていた。
「あ、お兄さん、お姉さん、お久しぶりです、お待ちしてました。」
「お久しぶり、詩乃ちゃんも、このクラスなの?」
声をかけてくれた女子生徒は、涼菜の中学での友人の一人、露口詩乃だった。
涼菜と仲が良かった三人組のうち、彼女と音梨雫が稜麗学園に入学を果たしていた。
ちなみに、三人組のもう一人である和泉心美は、彼氏が在籍している高校に入学したとのことだった。
「そうなんですよ、これでまた3年間、涼菜と同じクラスってことです。ささ、皆さんこちらへどうぞ。」
詩乃ちゃんに連れられて教室に入ると、後方の窓際付近に女子生徒ばかりの人垣が出来ていた。
ざっと見たところ、クラスの女子のほとんどが居るのではないだろうか。
はたして、あれが何かと言うと…
「涼菜とアデラインさんを男子の魔の手から守るために、人間フェンスで囲っちゃいました。みんなちゅうもーく、こちらの背の高い先輩が、アデラインさんのお兄さんで涼菜の彼氏、御善悠樹さんでーす。」
「「「「「きゃーっ♡」」」」」
パチパチパチパチ…
「そして、こちらの美人さんが、涼菜のお姉さんにして『学園の姫君』と名高い、清澄彩菜さんでーす。」
「「「「「おおーっ!」」」」」
パチパチパチパチ…
「そして、こちらが…って、あれ? すみません、どちらさまですか?」
「あはは…」
詩乃ちゃんは人間フェンスを構成する女子たちに中々の名調子で俺と彩菜を紹介したところまでは良かったのだが、最後の最後でコケてしまった。
それもその筈、
「もう、詩乃ったら、何やってるの。愛花さん、ごめんなさい。」
そんな様子を見ていられなくなったのか、女子の人垣がザザッと開けたかと思うと、中から涼菜とアデラインが姿を表した。
「いえいえ、お初ですから、無理もないですよ。」
涼菜の言葉に愛花が穏やかな笑顔で答えると、涼菜とアデラインが彼女の左右にスッと立ち、某時代劇のクライマックスシーンよろしく下々へ向けて声高らかに紹介した。
「皆の者、控えおろう! このお方をどなたと心得る。恐れ多くも2年生の成績第2位にして、御善悠樹の彼女の一人、神崎愛花嬢であらせられるぞ! 頭が高ーい、控え、控えーい!」
「「「「「ははーっ!」」」」」
「今年の1年生は、ノリが良さそうだね。」
「ホントにな、初日から、中々のもんだ。」
「おかげで、私は御隠居様になっちゃったけどね。」
小芝居を終えて、涼菜とアデラインを筆頭に女子たちがハイタッチを交わしながら、仲の良さと結束力の強さをアピールしている。
皆、ほとんどが初対面の筈なのだが、涼菜とアデラインというカリスマ性とアイドル性を併せ持つ二人を得たことで、彼女たちを中心とした綺麗な輪が早くも出来上がったようだ。
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