第191話 思い出話
3月2週目の金曜日、俺は1学年最後の定期試験を終えて、学園の最寄駅に近いファミレスに来ていた。
同席しているのは愛花、まりちゃん、由香里さんという、いつもお馴染みのメンバーだ。
「この四人でここに来るの、久しぶりだねぇ。」
「って言うかさー、1学期の中間試験以来じゃないの?」
「そうですね、私たち三人で、悠樹を誘って以来ですよ。」
以前このメンバーでこの店に来たのは昨年の5月下旬のこと。
あれから9ヶ月半の月日を『もう』と言うのか『まだ』と言うべきか、何とも判断に迷うところだけれど、あの時がなければ、今の俺たちの関係が成り立っていないことだけは確かだった。
「あの時は、何を聞かれるのかと思って、戦々恐々だったよ。」
「あはは、そんな感じだったよねぇ、わたしはわたしで、色々聞き出してやろうと思って、頑張っちゃったし。」
「あん時の由香里、ノリノリだったよねー、芸能レポーターばりに攻めてた。」
「悠樹と彩菜さんがお付き合いしてるって噂が出始めた頃でしたからね、みんな興味津々でしたよ。」
あの頃は、俺と彩菜、涼菜との表向きの間柄は晒していたものの、奥底に秘めた想いを他人に知られることを避けている時期だった。
『許婚』と言う言葉を隠れ蓑にして、誤魔化しの関係性の上に隠れ家を築こうと足掻いていた。
「まさか、ゆーちゃんが、姫君と
「まりちゃんが乗り込んできた時は、どうしようかと思ったよ。まあ、おかげで話も出来たし、結果としては良かったけどね。」
あれがあったからこそ、まりちゃんの人柄に触れることが出来たし、距離が近づくことにもなった。
よもや幼馴染だったとは思わなかったけれど、かつての友人と再会出来た喜びは、格別のものがある。
「でもさぁ、やっぱり一番驚いたのって、神崎さんが悠樹くんの彼女になったってことだよねぇ。それこそ、何なのこの展開!って思ったよぉ。」
「ねーねー、神崎ちゃんさー、どうやって、ゆーちゃん落としたわけ? やっぱ色仕掛け? いきなりパンツ脱いだりとか?」
「そんなことしません! …ただちょっと、下着姿を見てもらったりはしましたけど…」
「ええっ?! 神崎さん、そんなことしたの?!」
「ほらー、由香里ぃ、やっぱ女の武器使わなきゃダメなんだってー、今日は大丈夫な下着? すぐ脱げる?」
「まりちゃん、俺がまなと付き合いたいと思ったのは、そういうことじゃないから、気持ちだから! あと、由香里さんも、スカート捲るのやめて!」
「…え? ひゃっ?! うう、やっちゃったぁ………見た?」
「大丈夫、見てません。」
毎度のことながら、まりちゃんお得意の揶揄いに見事に乗ってしまった由香里さんは、ここがどこなのかさえ忘れてしまったのか、下着のチェックをしようとしていた。
多分、高1男子の平均身長(170cm程度)であればスカートの中はテーブルに隠れて見えないだろうが、身長185cm(この1年で5cm伸びた)の俺の目線からは綺麗な水色のストライプがチラリと見えてしまっていた。
しかし、この場で正直に言ってしまえば、由香里さんのダメージは計り知れない。
ここは黙っておくのが得策だろう。
「ねー、ゆーちゃん、ちょっと耳かして。」
「え、まりちゃん、なに?」
正面に座っている、まりちゃんが、内緒話をするように身を乗り出して来たので、こちらも顔を近づけた。
「由香里、完全にその気だよ? エッチなこと考えて、パンツも濡れ濡れ、シミが広がって凄いことになってる。」
「え、それ嘘だよね、今見たらそんなことには…、あ。」
今更のことだが、まりちゃんの揶揄いの対象が由香里さんだけではないことをすっかり失念していた。
この時の由香里さんの白い目を、生涯忘れることはないだろう。
「そっか、今日、卒業式だったんだね。」
「うん、今頃は謝恩会の真っ最中じゃないかな。」
会計を済ませて店を出た時に、由香里さんに涼菜の卒業がいつなのかと問われた。
実は今日、涼菜の中学校では卒業式が行われていて、式のあとは清澄の両親と共に謝恩会に出席している筈なのだ。
きっと今頃は、会場で級友たちと思い出を語り合い、別れを惜しんでいることだろう。
「来月には妹君も学園生なんだねー、これで御善ハーレム全員集合ってわけだー」
「まりちゃん、もう、そのネタは聞き飽きたよ。」
「でも、それ、広めちゃっても良いかも知れませんね。」
「え、まな、それってどういうこと?」
「だってそうすれば、涼菜さんに、あとアデラインさんもですけど、悪い虫が寄って来ないじゃないですか。特に悠樹のことを知らない新入生には、効果的だと思いますよ?」
「あー、それ良いかもねー、2・3年生は、ゆーちゃんのお手つきだって分かれば手を出さないけど、1年生はそうはいかないもんねー」
まりちゃんの怪しげな表現はさておき、学園内における俺の評価はそういうものらしい。
女垂らしと評判が立って否定もせずに放っておけば、そのようなことにもなるだろう。
と言うか、たとえ否定したとしても、実際に俺の周りにはいつも女性しかいないのだから、説得力の欠片もない。
結果としてそれが涼菜とアデラインのためになると言うのであれば、それはそれで良しとすべきだろう。
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