第174話 続柄
何とか美菜さんワールドを脱したところで、この場を落ち着かせるために話題を変えることにした。
「アディー、また質問したいんだけど、良い?」
「ふふふ、本当に悠樹さんは、お会いする度にそう仰いますね。今度は何でしょう。」
「俺の爺さんとキャロラインさんは、いつ入籍する予定なのか知ってる?」
この質問にアデラインは、キョトンとして小首を傾げた。
その動きに合わせて、プラチナブランドの細絹がさらりとたなびく。
右手の人差し指を顎の下に当ててほんの数秒考えを巡らせた彼女は、とても言いにくそうに質問を返してきた。
「あのう、悠樹さん、ひょっとしたらですけど、おじさまから、何もお聞きになっていらっしゃらないのですか?」
「うん? あ、それって、まさか…」
「はい、多分そのまさかです。先日、1月25日におじさまと母が入籍しましたので、わたしも今は『御善』姓です。アデライン・グリーン・御善になりました。」
俺は極度の脱力感に襲われて、テーブルに突っ伏してしまった。
アデラインの言うとおりなら、先日、祖父の新居を訪れた時には、二人は既に入籍していたということになる。
あの時そのことについて、祖父は一言も触れていなかった筈だ。
「なあ、誰か、爺さんから、入籍のこと聞いてたか?」
「ううん、何も聞いてない。」
「ゆうくんが、聞いてないんじゃねー」
「私も初耳です、メッセージも来てないんですか?」
「あの、クソジジイ〜!」
『ああ、すまんな、確かに言ってなかったよ。』
「頼むよ、爺さん、大事なことだろう。」
『キャロルと正式に夫婦になって、二人で夢を語り合うのが楽しくてな、お前のことはすっかり忘れてた。』
「お願いだから、たった一人の孫のことを忘れないでくれよ。」
『そうだ、悠樹、これから身内が増えるとしたら、男の子と女の子、どちらが良いかな。』
「爺さん…、その子が成人する時に、自分が何歳なのか考えてるんだろうな。」
アデラインから情報を得て、急いで祖父に連絡すると、帰ってきた答えがこれだった。
まったく、1日に何度も脱力感に襲われる孫の身にもなってほしい。
齢70、41歳の女性と再婚するほど元気なのだから大したものだと思っていたが、よもや認知力が落ちて来ているのではないかと、心配になってしまう。
男女の営みも怠るつもりはなさそうなので、この先キャロラインさんと産まれてくる子供(未定)を悲しませないように、くれぐれも健康には留意してほしいものだ。
「まあ取り敢えず、これで、アディーは正式に、俺の身内になったってことなんだね。」
「はい、正式に、悠樹さんの叔母になりましたので、あらためて、よろしくお願いします。」
「くすっ、こちらこそ、よろしくね、アデライン叔母上。」
「それ、凄く違和感あるわよね。」
俺とアデラインが親族になったことを確認し合っていると、またしても美菜さんが口を出してきた。
はたして、今度はどのような揶揄いネタを披露するつもりなのだろうか。
「美菜さん、何かご用ですか?」
「もう、そんなに睨まなくても良いじゃない。いえね、確かに二人の
「いや、まあ、そうでしょうけど…」
「ねえ、あなたたちも、そう思わない?」
ここで美菜さんは、彩菜と涼菜、愛花にも意見を求めた。
これを受けて、三人は早速検討に入った。
それにしても、俺の恋人たちが美菜さんの諮問機関だったとは、今まで思いもしなかった。
「まあね、二人が並ぶと、国際カップルに見えるかなぁ。」
「(か、カップル…、わたしと、悠樹さんが…///)」
「でも、カップルですと、恋人ということになりますよね。」
「うん、ゆうくんの恋人は、あたしたちだけだから、ちょっとねー」
「(そ、そうですよね…、シュン…)」
「あとは、義理の兄妹でしょうか。」
「(きょ、兄妹、ですか?)」
「そうか、国際結婚夫婦の連れ子同士で兄妹、うん、良いんじゃない?」
「ゆうくんは、ホントは孫だけど、二人だけ見れば、違和感ないしねー」
「(ふふふ、悠樹さんが、わたしの、『お兄さま』、良いかも…///)」
「じゃあ、意見が一致したということで、良いですね?」
「それじゃあ、せーの!」
「「「兄妹に決定!」」」
「お兄さま♪」
「もう、好きにしてくれ…」
斯くして、清澄家における緊急会議の結果、俺とアデラインの見かけ上の続柄は、『義理の兄妹』に決定した。
それと同時に、アデラインが使う俺の呼称が『悠樹さん』から『お兄さま』に変更されることになった。
ところで、アデラインが丁寧な言葉遣いで、俺を『お兄さま』と呼ぶとか、俺と彼女は二人揃って、魔◯科高校に編入した方が良いだろうか…。
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