第151話 年越し

 まもなく今年も終わろうとしている夜半、俺と彩菜、涼菜は、清澄家にお邪魔して、年が替わるのを待っていた。

つい先ほど、美菜さんと俺たちで年越し蕎麦をいただいたのだが、残念ながら、この場に翔太さんの姿がなかった。


「まったく、何でみんなで集まろうって時に、熱なんか出すのかしら、本当に間の悪い人なんだから。」

「そんなこと言っても、仕方ないじゃないですか、翔太さんが可哀想ですよ。」


 翔太さんは、会社で溜まった仕事を一昨日までに何とか片付けたのだが、体を休める間もないまま、昨日は年末年始の買い出しと大掃除に駆り出され、今朝、ついにダウンしてしまったのだ。


「俺が、もっと働けたら良かったんですけど。」

「もう、何言ってるのよ、悠樹くんは十分働いてくれたじゃない。役に立たなかったのは(じろっ)」

「えっと…、お役に立てずに、すみません…」

「あやねえ、大丈夫だよ、最初から充てにしてないから。」

「うう、ぐうの音も出ません…」


 既に毎年のことであり、皆にも周知の事実であると思うが、彩菜は大掃除の戦力として充てにならないどころか、寧ろ居てもらっては困る。

にも関わらず、なぜか手伝おうとして奮闘するものだから、始末に悪い。

 取り敢えず、やろうとする姿勢を買わないわけにも行かず、拭き掃除くらいは出来るだろうと思うとバケツの水をひっくり返すし、家具をずらして裏の埃とりをしようとして転倒させてしまいそうになり大騒ぎする。

兎に角、迷惑極まりないのだ。


「あやねえ、前にも言ったけど、人には向き不向きがあるんだから、無理は禁物。これ、来年の抱負にしたら?」

「はい…」(小声)

「すず、その辺にしておいてやれ。あやも十分反省してるよ。そうだろ? あや。」

「うう、ありがとう、ゆう…、愛してる。」

「俺も愛してるよ。ほら、こっちにおいで。」


 俺たちから離れたところで小さくなっている彩菜に手招きすると、おずおずと近づいてきて、ピタリと右肩にもたれかかった。


「うふふ、ゆーう♪」

「元気出せよ、お姫さま。」


 ちゅっ


 上目遣いになって甘え声で俺の名を呼ぶ彩菜の額に口づけすると、先ほどとは打って変わってふわりと幸せそうな笑みを浮かべた。


「あーん、もう、ゆうくん、あやねえに甘すぎ。」

「そんなことないよ、俺は、すずにだって甘いだろ?」


 ちゅっ


 頬を膨らませながら左肩にくっついてきて抗議する涼菜の唇にキスを落とすと…


「えへへ、ゆうくん大好き〜♪」


彼女は猫目をふにゃりとさせて抱きついてきた。


「はあ〜、まもなく年が明けようって時に、わたしは一体、何を見せつけられてるのかしら…って、あら、もう明けてたわ。三人とも明けましておめでとう。」


「「「明けましておめでとうございます。」」」


 こうして俺たちは、今年も和やかに新年を迎えたのだった。

(※翔太さんを除く)




「明けましておめでとう、愛花。」

「明けましておめでとう、愛花ちゃん。」

「愛花さん、今年もよろしくお願いします。」

『皆さん、明けましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。』


 無事に新年を迎えられた俺たちは我が家に戻り、ビデオ通話で愛花と新年の挨拶を交わしていた。

彼女は既にパジャマに着替えていて、ベッドの上で話をしているようだ。


『出来ればお邪魔して、直接ご挨拶したかったんですけどね。』

「残念だけど、家の都合じゃ仕方ないよ。」


 本当は愛花を招いて年越しから一緒に過ごしたかったのだが、今日は神崎家に朝から親類が立ち寄り年始の酒盛りをするらしく、彼女は弟の京悟くんと共に接待に明け暮れることになっていた。


『その分、明日と明後日、お泊まりさせてもらいますので、それを楽しみに何とか乗り切ります。』

「あたしたちも、愛花さんが来てくれるのを楽しみにしてますから。」

「まずは、明日、愛花ちゃんと一緒に、初詣に行かなくちゃね。」

『はい、それも楽しみにしています。』

「明日は10時に迎えに行くけど、それで良い?」

『わざわざ来てくれなくても、待ち合わせで大丈夫ですよ?』

「愛花ちゃん、折角だから甘えちゃお?」

「ゆうくんと二人っきりで歩けるんですから、楽しいと思いますよ?」

『そうですね、お言葉に甘えさせてもらいます。うちに着く頃に連絡をください。』

「ん、了解。それじゃあ、朝早いだろうから、これで切るね。会えるのを楽しみにしてるよ。」

『はい、それでは皆さん、お休みなさい。』

「「「お休みなさい。」」」


 俺たちは明日の予定を確認して、早々に通話を終えた。


「愛花ちゃんも、大変だね。うちは、そういう親戚がいなくて良かった。」

「ホントにそうだよね、2日は、しっかり愛花さんを労ってあげなきゃね、ゆうくん?」

「そうだな、でも、まず今日は、あやとすずと、新年を祝わなきゃな。」

「ふふ、こうするの、初めてだね。」

「うん、何だかワクワクするね。」

「俺もだよ、どんな感じなんだろうな。」


 俺たちが同居してからこれまで、いくつか初めてのことを経験してきたが、新年を迎えるにあたり今日も初の試みをしようとしていた。


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