第149話 火傷に注意

「それにしても、本当にナチュラルよね。」

「何がですか?」

「さっき、わたしをさり気なく抱き寄せてくれたでしょ? もう、年甲斐もなく子宮がキュンとしちゃったわよ。このまま抱かれても良いかなって思っちゃった。」

「いや、俺、そんなつもりはありませんから。」

「きっと、うちの娘たちや神崎さんだけじゃないんでしょうね。まったく、今まで何人落として来たんだか。」


 取り敢えず、高校入学からで身に覚えがある面影を2つほど思い浮かべた。

けれど、生まれてこの方となると、はたして定かではない。

そもそも、俺はまさに自然に振る舞っているだけなのだから、思い当たる節もないのだけれど。


 美菜さんは返事など求めてはいないようで、ススッと俺に擦り寄ると、右の掌でチノパンの上から男性の象徴をギュッと握った。


「あの、美菜さん?」

「凄いわね、これ、勃ってないんでしょ? ムニムニなのに、この大きさって…、これじゃ女は放っておかないわね。」

「俺、年上は4つまでが守備範囲なんで、どうかご遠慮願います。」

「えー、良いじゃない、体力じゃ、もう娘たちには敵わないけど、テクは私の方が断然上よ? どお? 味わってみない?」

「それ、今夜、翔太さんに言ってあげてください。最近、ご無沙汰なんですよね。」


 翔太さんは、ここのところ年末進行(?)で帰宅が遅くなることが多かったらしく、その上、俺のことで休暇を取ってしまったものだから仕事が溜まりまくっていて、暫くは夫婦の営みも滞りがちになると言っていた。


「そうなのよ、あの人最近、疲れた疲れたばっかり言って、全然相手してくれないから、欲求が溜まっちゃって。だからね、ちょっと抜かせてくれない?」

「そういうので、娘の恋人使うの、やめてくれます?!」


 その飛び火が今まさに眼前に迫っている訳で、俺は延焼を阻止すべく全力で回避行動をとった。

そして更に、そこへ強力な援軍が投入された。


「ちょっと、お母さん、何やってるの?! ゆうから離れて!」


俺はすんでの所で大火傷をせずに済んだようだ。


「えー、ちょっとくらい貸してくれても良いじゃない。こんな良いもの滅多に拝めないんだし。」

「何言ってるの、お父さんのしか知らないくせに。」


 美菜さんは普段から百戦錬磨のようなことを言っているが、実は高校時代から翔太さん一筋だったらしく、他の男性との経験はないとのこと。

ただ、夜方面の師匠でもある姑の教えと自ら旺盛に蓄えた知識は、そこらの専門家顔負けの情報量を誇っているとのことだった。

なお、専門家とはどのような職業の人たちなのかを聞いたことはない。


「冗談よ、じょ・お・だ・ん、欲求が溜まってるのは本当だけど。」

「それは、お父さんに言ってよね、ゆうは私たちのなんだから、誘惑禁止!」

「ふーん、ま、良いけどね。でも、そうか、彩菜も悠樹くんのしか知らないのよね。」

「そうよ、私は、ゆうだけで良いんだから。」

「ね、悠樹くんのって、勃起したらどれくらいなの? これくらいで、これくらい?」


 分かりづらいので注釈すると、一つ目の『これくらい』が長さを、二つ目が太さを表している。


「うーん、これくらいで、これくらいかな。」


 彩菜は律儀に、両手の人差し指の間隔で長さを、右手の親指と人差し指で輪を作って太さを示して見せた。

 ところで、目の前で母娘が俺のサイズについて情報交換している場合、どのような表情をすれば良いのか、誰か教えてくれないだろうか…。


「え、嘘でしょ、そんなにあるの? あなたたち、そんなの挿れてるの?」

「うん、そうだけど…、お父さんって、どれくらいなの?」

「これくらいで、これくらいよ。」

「え、中年になって縮んだとかじゃなくて?」

「あの人、標準より大きいって自慢してたんだけど…」


 何をもって標準とするのかはさておき、肝心なのはサイズではなく使い方だと思うのだが、男性というのは何故か大きさを気にするものらしい。

学園でもクラスメイトの男子が、女子の居ないところで、そのような会話をしていたことがあった。


「お母さんは、それで何か不満なの?」

「ううん、そんなことはないわ、もう23年連れ添ってるし。」

「じゃあ、ゆうのを気にすることないじゃない、人それぞれ何だから。」

「でも、やっぱり気になるわよ。だって、それを神崎さんにも挿れてるんでしょ? よくあんな小さな子が、受け入れられるわよね。どうなの? 悠樹くん。」


 美菜さんは俺の股間をつつきながら、目を爛々とさせて興味津々なのを隠そうともせず、こちらにグイグイ迫って来た。

その迫力に押され、俺はついつい正直に答えてしまう。


「いや、まだ慣らしてる最中で、1回しか挿れてません。」

「「え、そうなの?」」


 美菜さんだけでなく、彩菜も同じように目を丸くした。

こうして見ると、二人が母娘であることがよく分かるのだが、この場面で共鳴するのはやめてほしいものだ。


「やっぱり、サイズかしら。神崎さん、小さいだろうしね。」

「ねえ、ゆう、無理に挿れなくても良いんじゃない? 愛花ちゃん、怪我しちゃうかも知れないよ?」

「ああ、分かってるよ、だから少しずつ慣らしてるんだ。あやの言うとおり、無理に挿れたいとも思わないよ。」


 愛花には何度も言っているが、交わるだけが愛情表現ではないのだから、それにこだわる必要はない。

どのように幸福感を得るかは、本人たち次第なのだ。


「あやとすずもそうだけど、愛花も大切な人だからな。」

「はあ〜、そんなところも、女心をくすぐるわ〜、わたしもそっちに住みたくなっちゃった。」

「うち、もう空き部屋ないから、無理。」

「じゃあ、通い妻かしらね。彩菜と違ってご飯も作れるわよ?」

「え、美菜さんが作ったご飯…」

「ちょっと、ゆう、中年女の誘惑に乗らないでよ?!」


 美菜さんに最強のカードを切られてしまっては、心が揺らがない訳がない。

しかし、我が家と、そして清澄家の平穏のために、ここでグッと我慢したのは言うまでもないだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る