第138話 天使のお誕生会
「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
「皆さん、ありがとうございます。」
我が家のリビングに皆の祝福の声が響き、主役の愛花が笑顔で立ち上がり両手を前に揃えてぺこりと頭を下げた。
「はぁ〜、愛花ちゃん、いつにも増して可愛いわ〜♡」
「愛花さん、今日はお姫様モード全開ですね♪」
「神崎さん、ずるい! そんな可愛いの似合う子、他にいないよぉ。」
「そっか、何か足りないと思ったら、ティアラだ、姫君、
「ふふ、褒めていただいて嬉しいです。着て来た甲斐がありました♪」
幾種類ものレース飾りをあしらったオフホワイトの膝丈のワンピースの裾を左右にふわりと揺らしながら、天使の微笑みを浮かべる愛花は、まさに可愛らしい小さなお姫様のようだ。
いつも可愛い衣装に身を包んでいる彼女だが、今日は
「ゆーちゃんの感想が聞こえなかったけど、もう先に見ちゃったん? それとも、可愛すぎて声も出ないとかー?」
「うん、両方だね。愛花、試着した時よりも、ずっと似合ってるよ。何度か着てみたの?」
「はい、これは着る度に体に馴染みますから、今がちょうど良いくらいだと思います。」
「そうか、この前買って来てたのって、これだったのね。」
「そうなんです、ちょっと早めにプレゼントしてもらっちゃいました♪」
先週、愛花と一緒に祖父の家に行った帰りに、彼女がたまに覗くというジュニアブランドのショップに寄った。
ショップに入った時こそ新作を少し見るだけのつもりだったのだが、今愛花が着ているワンピースを目にした瞬間、俺が一目惚れしてしまった。
実際に彼女に試着してもらうと、思ったとおりよく似合っていたので、誕生日のお祝いとして贈ったのだ。
「なーんだ、アタシはてっきり、ゆーちゃんがリボン付けて、『愛花、俺がきみへのプレゼントだよ(低い声)』って言うのかと思ってたわー」
「まりちゃん、俺、そんな趣味ないからね?」
「じゃあ、悠樹くん、それ、来月のわたしの誕生日にお願いします!」
「由香里さん、俺の話聞いてた?!」
相変わらず絶妙なタイミングで俺を揶揄う、まりちゃんに合わせて、由香里さんも乗って来た。
俺たちの遣り取りに、この場は笑いに包まれたのだが、この後まりちゃんが小声で耳打ちして来た言葉に、俺は頬を引き攣らせてしまった。
「ゆーちゃん、由香里のアレ、ガチだよー、どする?」
「まりちゃん、それ、どの口が言ってるのかな?」
この件は後日、ネタを仕掛けた張本人に責任を取らせたのは言うまでもない。
「神崎さんって、白蘭女子だったんだぁ、あそこミッションだよね。」
「そうです。私は無宗教ですけど、信者の人は多かったですね。」
お祝いのために振る舞った食事が終わり、皆で賑やかに歓談していた。
クリスマスの予定などの話の後、愛花が通っていた中学校の話題になっていた。
「しっかしさー、女子校に行くほど男子が苦手って、小学校でなんか嫌なことでもあったん?」
「特別何かあった訳じゃないんですけど、5・6年生の時の同級生が、皆、幼稚で、声が大きくて、がさつで、どう接して良いか分からなかったんですよ。」
愛花が言ったことは、10〜12歳くらいの女子の代表的な意見なのだと思う。
逆に男子は、女子を意識してしまうあまりどう接して良いか分からずに、格好をつけようとしたり、わざと粗暴に振る舞ってみたりと、ジタバタ足掻いている姿が不評を買っていることに気づかなかったりする。
そう言った余裕のなさは、幼稚と言われても仕方ないところだ。
「それと、私、5年生でこの身長から伸びなくなったので、そんな男子がもっと大きくなると思ったら、怖くなっちゃったんです。それが、決め手でした。」
「ふーん、じゃあさー、学園に進学したのって何でなん? 背ぇ高い男子たくさんいるよ? ゆーちゃんとか。」
身長180cm強の俺を引き合いに出すのはどうかと思うが、140cmの愛花から見れば、170cmでも30cmの差があるのだから、小学生の頃の印象を考えれば十分恐怖の対象になり得るだろう。
「女子校って、入ってみると結構人間関係が難しくて。それと、学園に進学した先輩が、男子も高校生になったら大人しくなるって言っていたんです。実際、入学してみたら、先輩の言っていたとおりでした。」
「同じ中学からの先輩がいるんだぁ、今も仲良いの?」
「いえ、卒業生の話を聞くイベントがあって、たまたまだったんです。今、彩菜さんと同じクラスですよ?」
「え、誰だろう、名前分かる?」
「桜庭さんです。文化祭の時に悠樹にメイドになってほしいって言って来ましたよね。」
思わず彩菜と顔を見合わせてしまった。
桜庭さんが女子校出身には見えないとか、そんな失礼なことを考えていた訳じゃない。(と言った時点で、既に失礼だとは思うが…)
愛花にとっても、彩菜にとっても、そして桜庭さんにとっても、それぞれの存在や関係は、ごくあり触れた繋がりなのだと思う。
けれど、それが巡りめぐって一本に寄り合わさってしまうことがあるのだから、本当に人の結びつきというのは不思議なものだと思ったのだ。
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