第137話 抱っことにゃんこ
「愛花ちゃん、今回はどうだったの?」
「私は今回も2位でした、彩菜さんは、どうだったんですか?」
「私は5位、中々、上が空かないんだよねぇ。」
「私もです、上は誰かさんの指定席になってますからね。(チラッ)」
期末試験の翌週、金曜日の放課後に、俺と彩菜、愛花の三人は、愛花の家の方向に歩いていた。
愛花はこれから帰宅するのだが、俺と彩菜は更に先にある大型スーパーに向かっている。
明日、我が家で愛花の誕生会を予定にしているので、皆に振る舞う料理の食材を調達に行くのだ。
本来、愛花の誕生日は来週12月24日なのだが、その日は家族でお祝いすることになっていた。
ならば、俺たちは日にちをずらしてお祝いしようと決めて、1週間前の17日に皆が集まって誕生会を開くことにした。
参加するのは、清澄姉妹、由香里さん、まりちゃん、俺、そして主賓の愛花。
9月に涼菜の誕生祝いをした際に、このメンバーで皆の誕生日を祝い合うことにして、その最初の誕生会が明日行われることになった訳だ。
「それでは、ここで失礼します。明日は10時半ですよね。」
「そうだね、ケーキ屋を出る時に、メッセージを入れるよ。」
「分かりました、楽しみにしてますね。」
「じゃあ、愛花ちゃん、また明日。」
「じゃあね、愛花。」
「はい、お二人とも、また明日。」
自宅マンションの前でぺこりと頭を下げる愛花に手を振ってから、俺と彩菜は手を繋いでスーパーに足を向けた。
「ゆう、愛花ちゃんが居なくて、左手が寂しいんじゃない?」
「寂しいけど、仕方ないからな。明日を楽しみにしておくよ。」
「そうだ、明日はさ、お誕生日スペシャルってことで、お姫様抱っこで連れて来てあげたら? 愛花ちゃん、喜ぶんじゃないかな。」
「いや、流石にそれは恥ずかしがるだろ、無理無理。」
「えー、私だったら、してほしいけどなぁ。」
「ホントかなあ、じゃあ、ほら、よっと。」
「わっ! ゆうったら、もう、いきなりなんだから。」
彩菜は俺の首に手を回して、恥ずかしがることなく笑顔で横抱きにされている。
本人がそんな感じなので、俺としても直ぐに降ろしてしまうことはせず、しっかりと抱きかかえて笑顔を返した。
程々に人通りのある歩道の真ん中で、高校生の男女がお姫様抱っこをしたものだから、周囲の人たちが何が起きたのかとこちらを見ている。
しかも、当の本人たちは何事もないかのように、笑顔で言葉を交わしながら歩き出してしまったので、どこかにビデオカメラがあるのではとキョロキョロしている人もいた。
俺たち二人は、そんな状況さえ楽しみながら、堂々とスーパーまで歩いて行った。
買い出しを済ませて帰宅すると…
「「ただいま。」」
「おかえりにゃんにゃ〜ん♪」
玄関でご機嫌なにゃんこが飛びついてきたので、両手を広げてがっちり受け止めた。
「荷物をあやに預けて正解だったな。」
「こうなると思ったんだよねぇ。」
「にゃはー、バレバレだったにゃ〜ん♪ごろごろ♪」
喉を鳴らして戯れつくにゃんこを正面からひょいと抱っこすると、ちょうど目が合う高さになったので、鼻の頭をぺろりと舐めてみた。
「あーん、ゆうくん、それはにゃんこがするのにー」
「先手必勝だ、このまま、にゃんこモードが続くと、食事の支度が出来なくなるからな。」
「でも、その前に、ちゃんと報告は聞くからね、すず。」
「はーい、それじゃあ、リビングに行ってますにゃん♪」
にゃんこを…もとい、涼菜を降ろしてあげると、リビングに駆けて行った。
「ふふ、あの様子だと。」
「そうだろうな、俺はそれを片付けてから、リビングに行くよ。」
俺は彩菜からエコバッグを受け取ってキッチンへ、彩菜は着替えるために2階へ向かった。
にゃんにゃん♪
ごろごろ♪
すりすり♪
ぺろぺろ♪
我が家のにゃんこが上機嫌だ。
晩御飯の後、再びにゃんこモードになった涼菜が、先ほどからずっと、俺の全身に頭や頬を擦り付けたり、顔や手を舐めたりして離れようとしない。
おかげで、俺の顔や手は彼女の唾液でベトベトになってしまっている。
最初の内こそ彩菜に持って来てもらったタオルで拭っていたのだが、キリがないので諦めてしまった。
まもなく入浴時刻になることもあって、今はしたいようにさせていた。
涼菜がご機嫌な理由は、今日、期末試験の結果が学校から通知されて、見事、学年1位に輝いていたからだ。
中間試験で3位になったことを弾みにして涼菜は益々受験対策に力を入れるようになり、以前から取り組んでいた難易度の高い受験用教材をクリアして、現在は高1レベルの予習にかかり始めたところだった。
その努力の成果が今回の順位に結びついたのだから、涼菜の喜びも一入だろう。
「すず、そろそろ風呂に入らないか? このままだと、俺、溶けちゃいそうなんだけど。」
「ふにゃ〜ん、しょうがにゃいにゃ〜、続きは、お風呂とベッドでにゃん♪」
「ふふ、この後も大変そうね、私、今夜は遠慮しようかな。」
「それは大丈夫だにゃ、明日は大事な日だから、ほどほどにするにゃん。」
本当に程々で済むかは怪しいところだが、取り敢えず風呂の準備はさせてもらおう。
俺は涼菜のマーキングの香りを纏わせたまま、浴室へ向かった。
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