第131話 来週の予定

「急で申し訳ないんだけど、どうだろう。」

「来週の土曜日は、1日空いているので大丈夫です。」

「良かった、ありがとう。直ぐに爺さんに知らせて、時間を決めるよ。」


 昨夜、愛花との同居について会って相談したいと祖父に連絡を入れた際、出来れば彼女とも話をしたいと要望があった。

朝のSHR前に愛花に打診したところ、自身の将来に関わることなので早めに動けるならその方が良いと、二つ返事で了承してくれた。


「片道2時間かかるから、ちょっと面倒なんだけどね。」

「ふふ、二人きりの小旅行ってことですね、楽しみです。」

「そうだね、前向きに捉えてもらえると、有難いよ。」


 何事もポジティブに捉えることが出来れば、その行程に多少の不安が混じっていても、気持ちが楽になるだろう。

ましてや、一人ではなく恋人と一緒となれば、不安などどこ吹く風というものだ。

 仮に祖父から否定的な意見をもらったとしても、思い描いた期限までには2年以上あるのだから、好転させるための猶予はたっぷりあると思っておけば良いのだ。


 取り敢えず、時間が未定ながら来週土曜日の日中の予定は決まったのだが、もう一つ、愛花にその日の都合を聞かなければならないことがあった。

それは、当然…


「ねえ、愛花、その日の夕方からの都合はどう?」

「はい、あの、大丈夫、です、よ?」


 小声で尋ねた俺に合わせて、彼女はちょっとはにかみながら、ぽそっと呟くように返事をくれた。


「ありがとう、じゃあ、みんなで晩御飯が食べられるように、爺さんには早めの時間にしてもらうことにするよ。」

「はい、そっちも楽しみです。」

「そっちも?」

「そっちも、です。」


 愛花は、ほんの少しはにかみを残しながら、花のように顔を綻ばせた。




「ゆーちゃんさあ、本妻三人とラブラブ勉強会とかやってんの?」


 休み時間になって、まりちゃんが後ろの席からシャーペンで小突いて来たので何かと思ったら、ニヤニヤしながらそんなことを聞いてきた。


「まりちゃん、俺、どこから突っ込んだら良い?」

「わ、やーらし、嫁だけじゃなくて、アタシにまで突っ込むんだ、しかも、どこからって、どんなプレイするつもりなん?」

「まりちゃん、俺、そろそろ切れても良いよね。」

「わー、ごめんごめん、マジ切れ禁止ー」


 と言いながらも、まりちゃんのニヤニヤ顔は変わらない。

俺も本気で怒っている訳ではないし、期末試験を控えてピリつく空気に居心地が悪くなり、気分を変えたい気持ちも分かるのだが、せめて人聞の悪いネタで揶揄うのは勘弁してもらいたい。

今もクラスメイト数人が、俺たちの遣り取りに耳をそばだてていた。


「じゃあ、俺の印象操作も禁止ね。せめて、もうちょっとソフトな話題に出来ないの?」

「えー、それじゃ、つまんないじゃーん。」

「少しは、ネタになる人の気持ちも考えようよ。」

「でもさー、ゆーちゃんの場合は、本妻三人いるのみんな知ってるし、今更じゃん。」


 文化祭を清澄姉妹と一緒に過ごしたことで、普段から二人とイチャついているという噂は、学園内で事実として認知されるに至っていた。

更に、愛花と付き合い始めたことも、クラス内では周知の事実となりつつあるので、これもそのうち学園全体に広がって行くに違いない。

きっと然程間をおかずに、俺は学園内で一定の地位(?)を確保するだろう。

ただ、いつものことだが、それを嫌がって隠し立てする必要性も感じないけれど。


「最近、本妻3号も、揶揄い甲斐がなくってさー、やっぱ、恋は女を変えるよねー」

「そうなの?」

「前はさ、『今日もちっちゃいねー』って言うと、プンスカしてたのに、こないだなんか、『悠樹が小さくて可愛いって言ってくれます♡』なんて惚気ちゃうし、余裕あり過ぎだよー」

「俺が愛花にそう言ってるのは事実だから、それは惚気じゃないよ。」

「はいはい、そうでしょうよ。可愛い彼女がいて、ゆーちゃんは幸せだねー」

「それも事実だからね。俺はホントに幸せ者だよ。」

「あーあ、昔はアタシと二人っきりで、散々楽しんでおいて、古い女は、直ぐにお払い箱だよ、切ないなー」

「まりちゃん、言い方!」

「えー、事実じゃん。」

「幼稚園でだし、引っ越していなくなったの、まりちゃんだよ?!」


「すけこまし…」「昔から…」「あと何人…」「 」「 」…


周囲からヒソヒソと断片的に聞こえてくる言葉が胸に突き刺さる…。




「結局、お爺さんの所には、いつ行くの?」

「来週の土曜日、10時で約束したよ。」


 祖父に愛花の都合がついたことを連絡して、10時に伺うことにした。

あちらの駅までは車で迎えに来てもらうので、8時頃の電車に乗れば余裕を持って辿り着けるだろう。

相談に2時間かけたとして、昼の時間を含めても、こちらには15時頃には帰宅できる筈だ。


「当日、愛花には、そのままお泊まりしてもらうことにしたから、よろしくな。」

「わーい、2週間ぶりに愛花さんに会えるー♪」

「愛花も、すずに会うのを楽しみにしてたよ。」

「来年4月までは、偶にしか会えないものね。」


 来年、涼菜が学園に入学してからなら平日に会うことは出来るが、今の彩菜もそうであるように、せいぜい顔を合わせる程度だ。

一緒にいる時間を確保するのであれば、図書室での居残りを再開することを考えた方が良いだろう。

時期が近くなったら、愛花のお泊まりの時にでも、四人で相談することにしようと思う。


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