第114話 学園見学

「お待たせ、この後はシフトないから、一緒に回れるよ。」

「わーい♪ じゃあ、三人で文化祭、全部回れるね♪」

「よし、折角だから、文化祭だけじゃなくて、すずに学園見学させるか。」

「そうだね、先生に会っても、志望者の見学って言えば良いよ。」

「わ、良いの? すっごい嬉しい♪」


 勢いで決めてしまった涼菜の学園見学だったが、この学園では志望者の見学を通年で受け入れているので、大した問題にはならないだろう。

本来は事前申し込みが必要なのだが、成績優秀者の彩菜の妹であれば、寧ろ歓迎されるに違いない。

昨今の少子化事情もあって、学園は優秀な入学希望者の確保に苦心しているようだ。


「まずは、早めに腹ごしらえだな、模擬店を回ってみるか。」

「同じ並びだから、それが良いね。」

「美味しいのがあると良いなー」


 昼時になって混み合う前に、2年生の模擬店を覗いてみることにした。

どこの学校も似たようなものだと思うが、学園の普通教室は1年生が2階、2年生が3階、3年生が4階と、学年毎に纏まって階を違えている。

つまり、文化祭の模擬店=飲食店は、全て3階に配置されていると言うことだ。


 模擬店の内容は、1組は喫茶として、他の4クラスは、お好み焼き屋、たこ焼き屋、クレープ屋、うどん屋と、全クラス、調理の手間も食べる時間も余りかけずに済むものばかりだ。

高校生が出店というのもあるが、学園側としても回転を良くして廊下に長蛇の列が出来るのを避ける狙いもあるのだと思う。


 俺たちはお好み焼きを食べることにして、1組の隣の2組の入り口をくぐったのだが、入室した途端、ざわめきが起こった。

クール系とキュート系の二人の美少女が連れ立って入店したのだから、当然と言ったところだろう。

学園生から見れば俺も有名人と言うことになるのかも知れないが、一般客にとっては単なるおまけと言ったところか。


「お、意外とイケるな、ソースが薄味で幾らでも入りそうだ。」

「麺が入ってるのって、広島風だよね、私、初めてかも。」

「これなら、この後、お腹も保ちそうだよねー」


 流石に鉄板で焼いたりはしていないだろうが、付け焼き刃にしてはよく出来ている。

キッチンを覗きたくなってしまったが、恋人二人を伴っているので今日のところは我慢した。


 食べ終わって教室を出たところで後ろから女子生徒に声をかけられたので振り向くと、クラスメイトの山下さんが立っていた。

彼女は映画製作のメインスタッフの女子1名と昼御飯を食べに来たようだ。

山下さんを見て、涼菜は俺の陰に隠れてしまった。


「御善くん、お疲れ様、例の噂どおりの光景だね。」

「ゆう、噂って?」

「俺がお前たちと一緒にいるところをあちこちで目撃されてるって話だよ。」

「なあんだ、そんなことか。」

「やっぱ余裕ですねえ、あ、わたし、御善くんのクラスの山下って言います。」

「恋人と歩くのに、遠慮することもないしね。山下さんは食事の後は店番?」

「そ、わたしたちだけじゃなくて、みんなにも振れば良かったよー。」

「俺じゃ、何か聞かれても説明できないよ。じゃあ、俺たちはそろそろ行くね。」

「うん、それじゃあ、お邪魔しましたー」


「あの子が例の?」

「ああ、取り敢えずは理解者ってことで良いのかもな。すず、大丈夫か?」

「うん、あの人、ちょっと苦手。」


 野外ロケ現場での出会いの印象が良くなかったのか、それとも山下さんから何か危険な匂いを感じとったのか、いずれにしても涼菜が彼女に近づけば性的被害に遭いかねないので、避けて通るのが正解だと思う。

 そう言えば、山下さんに目をつけられていた愛花さんは、彼女の魔の手から逃げおおせたのだろうか。


 俺たちは気を取り直して学園を巡ることにしたのだが、2階の1年生各クラスの研究発表会場でも、3年生が舞台演劇を披露している講堂でも、俺たちが行く先々では何かしらの騒ぎとなった。

 何か問題になるほどのものではなかったし、涼菜が楽しめていたようなので然程のことはないのだが、彼女が入学してからのことを考えると少々憂鬱になる。

 もっとも、何度も言っていることだが、それで遠慮する気もないので、寧ろ常に三人で居て、早めに皆に慣れてもらうしか手立てはないだろう。




「ここの図書室って広いんだね。」

「確かに前武中よりは広いな。」


 俺たちは文化祭を一通り巡ってから、図書室で休憩していた。

本来、文化祭期間中は図書室を利用出来ないのだが、周囲の注目を浴びない場所で休憩したい俺たちと、問題になっていないとは言え学園内で余り騒ぎを起こしてほしくない学園側の利害が一致した結果、特例で使用が認められたのだ。

これも事勿れ主義と言う名の、この学園のポリシーに基づくものだろう。


「愛花ちゃんたちは来られそうなの?」

「もう直ぐ来るよ、すずに会いたがってたぞ。」

「えへへ、あたしもみんなと会いたいから、嬉しい。」


 愛花さんたちから涼菜に会いたいと連絡があったので、図書室に来てもらうことにした。

ここで皆と休憩してから、涼菜を連れて学園内を案内するつもりだ。

今日は授業がないので、皆でワイワイ言いながら歩いても迷惑にはならないだろう。

どうやら、これからの時間も楽しく過ごせそうだ。


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