第110話 告白

 愛花さんを伴って、清澄姉妹と共に我が家に帰ってきた。

俺たちも愛花さんもブランチにしていたので然程腹は空いていなかったが、晩御飯まで間が空くので、フレンチトーストを作って軽めの食事を摂ることにした。


「味付けを少し甘めにしてみたけど、どうかな。」

「美味しいです、甘味もちょうど良いと思います。」

「うん、美味しい、ゆう、これまた作ってよ。」

「ふわ〜、甘くて美味しくて、ほっぺが落ちちゃうー♪」


 本当に美味いと思ってくれたようで、皆、ペロリと平らげてしまった。

テーブルの食器を片付けてキッチンに入ろうとすると、リビングではお茶を飲みながらの女子トークが始まったようだった。


 後片付けを終えてリビングに戻ると、女子三人がこちらへ視線を移した。

表情を見ると、彩菜と涼菜は悪戯っぽく微笑み、愛花さんは頬を桜色に染めて恥ずかしそうに身を縮めている。

状況を察した俺はため息を吐いた。


「お前たち、愛花さんに、俺に下着姿を見せるように言っただろ。愛花さんが困ってるじゃないか。」

「確かに言ったけど、愛花ちゃんもゆうに見せたいって言ってくれたんだよ?」

「え?」


 予想外の言葉に思わず愛花さんを見ると、彼女は顔を真っ赤にして小さな体を益々小さくしながら上目遣いで呟いた。


「はい、本当に見てもらいたいと思ってるんですけど…、ダメですか?」


 俺は目を丸くして立ちすくみ、危うく思考停止になりかけた。

清澄姉妹に何か吹き込まれたのかも知れないけれど、それでも、愛花さんがこんなことを言うとは思ってもみなかった。


「ちょっと待って、愛花さん、冷静になろう。もう一度、落ち着いて考えて。」


 俺自身が冷静さを失いかけていたが、兎に角、愛花さんに再考を促そうと声をかけた。

すると彼女は悲しそうな表情になり、瞳を潤ませながら俺を見つめた。


「私じゃ、ダメですか? 君には、見てもらえませんか?」


 俺は何も言えなくなり、暫く愛花さんと見つめ合っていたけれど、彼女の意思は変わりそうにない。

俺は目を閉じて、ふっと息を吐き出す。


「すず、ここで愛花さんの着替えを手伝ってあげてくれ。あやはダイニングで俺と待機だ。」

「え…」

「了解でーす、さ、愛花さん、お着替えしましょ?」

「えー、私もお着替え手伝うー」

「お前は可愛い子には何するか分からないからダメ。」

「ちぇー」


 不満げに口を尖らす彩菜の背中を押して、ダイニングへ向かう。

途中、振り返って愛花さんに告げた。


「愛花さん、無理だと思ったら、直ぐに言ってね。」

「はい、ありがとうございます、でも、大丈夫です。」


彼女は目尻に涙を浮かべながら、にっこりと微笑んだ。




「あ、あの、お待たせしました。どうですか?」


 リビングの入り口には、ミントグリーンの地に色とりどりの小さな花を散らせたデザインの可愛いブラとショーツを身に着けた、小さな可愛らしい女の子が立っていた。


 思わず見惚れてしまった。

それはランジェリーにではなく、彼女そのものにだ。

 肩も、胸も、腰も、尻も、多分身長140cmの女性の体躯としては理想的な大きさで、すらりと伸びた手足や体の真ん中にある臍のくぼみなども合わせて、絶妙なバランスで彼女自身を形作っている。

それらを覆う肌は青さが混じらない健康的な白さを持ち、少女らしい瑞々しさを保っていた。

そして、目線を上げれば、そこには幼いながらも目鼻立ちの整った愛らしい顔がある。


 そこに居たのは神崎愛花と言う、とても可愛らしくて素敵な少女だった。




 結局、愛花さんは今日買ってきた全てのセットを見せてくれた。

思ったとおり彼女はどれを身に着けても、まるでモデルが着けているように可愛くて様になる。


 最も目を引いたのはショップで俺が手渡した少しセクシーな下着で、愛花さんが身に纏うと可愛いデザインと薄いピンクの地が白い素肌にマッチして、最も彼女の可愛らしさを際立たせていた。

 特に愛花さんがちょっとエッチと言っていたショーツは、素肌を完全に隠しているのはクロッチとお尻の3分の1程度だったが、まるでいやらしさはなく、寧ろ彼女自身の持つ美しさを引き出す添え物として十分な役割を果たしていた。


 それは、俺の隣にいた可愛いもの大好き少女が、あまりの可愛さに晒されて、飛びかかることさえ忘れて刮目していたほどだった。




「愛花さん、ありがとう、きみのために作られたんじゃないかってくらい、とても似合ってたよ。」

「ゆ、悠樹くん、褒めすぎです。でも、ありがとうございます、嬉しいです///」


 着替え直した愛花さんに素直な感想を伝えると、また頬を染めて縮こまってしまった。

またやってしまったと思わなくもないが、今日ばかりは反省する気などさらさらなかった。

あれほど可愛らしくて素敵なものを見せてもらったのに、きちんと言葉にしないなんて寧ろ失礼だろう。


 ダイニングで一緒に見ていた彩菜からも何か一言あるだろうと思ったのだが、彼女は何やら真剣に考え込んでいた。

どうしたのかと思っていると、徐にこちらを向いて…


「ゆう、うちの部屋、どこか空けられないかな、愛花ちゃんを囲いたいんだけど。」


信じられないことを言い出した。

何故かこれには、涼菜も真剣な面持ちで乗ってきてしまった。


「ゆうくん、2階の奥の納戸って、片付けたら使えるんだよね?」

「待て、お前たち、真顔で何言ってるんだ、洒落にならないぞ。」

「私、本気だけど。」

「あたしも、本気だよ?」


清澄姉妹の返事を聞いていた愛花さんは、何とも言えない表情をしてソファーに座っていた。




 愛花さんを送って住宅街を歩いていた。

手には彼女の下着が入ったショップバッグを持っている。

 愛花さんは恐縮していたが、恥ずかしい思いをさせてしまったのだから、せめてこれくらいはさせてほしいと押し切った。

けれど…


「恥ずかしかったですけど、私が君に近づきたくてしたことですから。」

「あんなことしなくても、きみはもう十分俺に近づいてるよ。」

「まだ、足りません。私…、以前よりもっと、君を好きになっています。」

「愛花さん…」

「この気持ちは、いつかなくなると思ったんですけどね、甘かったみたいです。」

「俺は、きみに何もしてあげられない。きみの気持ちをもらっても、何も返してあげられないんだ。」

「それは、君が気づいていないだけです、私は、ちゃんと返してもらってます。」

「え?」

「私が下着姿になった時に、君はちゃんと見てくれました。私の見てほしいという気持ちを受け取ってくれて、君の言葉で私に可愛いと、似合っていると言ってくれました。私は、嬉しかったんです。」

「愛花さん、俺は…」

「でも、こうも思ったんです。もっと私自身を見てほしいって、下着なんて飾り物なしの、私だけを見てほしいって、君に私を受け取ってほしいって。悠樹くん…、私は、やっぱり君が好きです。」


 愛花さんは少し寂しげな微笑みを浮かべて俺を見つめている。

彼女にこんな感情を持ってはいけない筈なのに、俺の胸には愛花さんを愛おしいと思う気持ちが広がり、心が彼女で満たされていった。


 俺は自覚した。

 俺は彼女に惹かれている。


 彩菜が言っていたように、俺は清澄姉妹以外の女性とも、恋が出来るのだろうか。

この想いを持って、前に進んでも良いのだろうか。

俺は何も言えず、ただ彼女を見つめ返すだけだった。


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