第109話 シンデレラ

「あ、これ可愛い♪ 愛花さん、これなんかどうですか?」

「わあ、可愛いですね。ストラップのレース遣いもオシャレです。」

「パステルピンクもライトブルーも良い色だね。愛花さんに似合うと思う。」

「こっちも良いんじゃない? お花の刺繍が可愛いし、セットのショーツも良い感じ、勝負下着に出来そう。」

「しょ、勝負下着ですか?! あの…、悠樹くん?(チラッ)」

「ノーコメントです。」


 愛花さんのサイズは、そもそも設定がない商品が多いので、取り扱いブランドなどを紹介してもらおうと店員に相談してみた。

すると、そのくらいのサイズの人向けに、シンデレラサイズ・コーナーが設けられているとのこと。

 案内してもらって見てみると、ブランドやシリーズは少ないものの、ベーシックなものは元より、可愛いデザインのものや、ちょっとセクシーなものなど、選ぶのには十分な数の商品が並んでいた。


 清澄姉妹以外の女性の下着選びなど出来ないからと始めは同行することを渋っていた筈の俺も、いつのまにか商品選びがすっかり楽しくなっていた。

そして、まるで清澄姉妹と同じような気軽さで、愛花さんと遣り取りをしていた。


「悠樹くん、すみません、その奥のを取ってもらえませんか?」

「これで良いの? 結構透け感強いよ?」


 愛花さんに頼まれて手にしたのは、レースとフリルがふんだんにあしらわれていてとても可愛いセットなのだけれど、ブラもショーツもサイドが透けているし、ショーツに至ってはお尻の左右が開いていて素肌の4分の1が見えてしまう、セクシーさも兼ね備えたものだった。


「ああ、そうですねぇ、ちょっとエッチでしょうか。」

「愛花さんに抵抗がなければ良いと思う、きみが着けると寧ろ可愛さが際立つんじゃないかな。」

「そうですか? じゃあ、これも試してみますね。」


 愛花さんは何点か選んで試着室に入った。

誰かに一緒に入って見てもらいたいと言うので、涼菜に同行してもらった。


「ゆう、ノリノリだったね、楽しかった?」

「楽しかったけど、正直、まさかお前たち以外の女の子の対応が出来るとは思わなかったよ。」

「ホントにね、やっぱり、愛花ちゃんだからなのかな。」

「そうかもな、ホントに、不思議な子だよ。」


 愛花さんは俺たちの懐にスッと入ってきて直ぐに馴染んでしまい、まるでそこにいることが当たり前のように側に居てくれる。

愛花さんは俺の近くに居たいから出来ることと言っているけれど、きっとそれは彼女の人柄であり個性が成せることなのだろう。


「お前に見る目があったってことだよな。」

「え?」

「お前が愛花さんと、もっと話がしたいって言ったんじゃないか。」

「そうだったね、でも、それなら、最初に愛花ちゃんが声をかけてくれたからってことだけどね。」


 彩菜と二人で愛花さんのことを話している内に、当の本人が試着室から涼菜と共に出てきた。


「お待たせしてすみません、どれが良いか少し迷ってしまいました。」


こういうショップで買うのは初めてだと言っていたから、無理もないことだろう。

はたして気に入ったものはあったのだろうか。


「愛花ちゃん、どれを買うことにしたの?」

「これ、4点全部買うことにしました。」


そう言って買い物カゴを掲げた愛花さんは、とても可愛らしく顔を綻ばせていた。


 そのあと、清澄姉妹の下着とこれからの季節用のナイトウェアを選んで、皆で会計を済ませて店舗を出た。

俺は荷物持ちとして、三人分のショップバッグを携えていた。


「悠樹くん、すみません、私の分まで。」

「大丈夫、一つくらい増えてもどうってことないよ。」


恐縮する愛花さんに笑顔で応えると、彼女は小さく微笑んでくれた。


 メインの用事を終えて、これからどうしようかと皆で話し始めた時、涼菜がとんでもないことを言い出した。


「愛花さん、それ着けたところ、ゆうくんに見てもらわなくて良いんですか? 見てほしいって言ってましたよね。」

「す、涼菜さん?!」

「いや、ちょっと待って。」

「あ、じゃあ、これからうちに来ない? 私も見たいし。」


 愛花さんと俺がワタワタと慌てるのを無視して、清澄姉妹が駅に向かって歩き出してしまった。

仕方なく彼女と共に、二人について行く。


「ごめん、愛花さん、取り敢えず、うちに遊びに来てもらえないかな。」

「はい、それは良いんですけど…」


 愛花さんは頬を桜色に染めながら、ショップバッグをチラリと見ていた。

多分、涼菜が言ったことが気になるのだろう。


「すずが言ったことは気にしないで。ただ、あやが見たがるかも知れないけど、その時は断ってくれて構わないから。あ、それとも、これ返そうか、そうすれば、駅に着いたら逃げられるよ。」

「い、いえ、折角のお誘いですので、お邪魔させてもらいます。」


 涼菜は試着室で愛花さんが言った冗談を真に受けただけだろうが、可愛いもの好きの彩菜は愛花さんが下着を着けた姿が見たくて堪らないのだろう。

ショッピングモールの通路を歩く後ろ姿がウキウキしていて、今にもスキップを始めそうだ。

先ほど愛花さんには彩菜が見たがったら断って構わないと言ったけれど、はたしてどうなることやら。


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