第108話 ジュニアサイズ
日曜日の昼前、ショッピングモール内の通路をいつもの如く人目も憚らず、清澄姉妹と三人くっ付いて歩いていた。
周囲の人たちがこちらをチラチラ見ているけれど、これもいつものことなので気にすることはない。
ここに来た目的が姉妹のブラの買い替えなので、前回来た時と同じように、まずはランジェリーショップへ向かう。
様々な女性用アイテムが並ぶ、店内を見て回るだけでも楽しめるところだ。
ショップに近づいたところで、出入口の前で中を覗き込んでいる小さな女の子が目に入った。
白いロングTに濃いブラウンのジャンパースカートを重ねて、頭にはブラウンのベレーを合わせている、秋らしい可愛らしいコーデの女の子だ。
母親でも待っているのだろうかと思いながら側に寄ると、彼女はこちらに気づいて目を丸くしている。
その子は愛花さんだった。
「こんにちは、愛花さん、きみもここで買い物?」
「は、はい、そのつもりだったんですけど…」
「愛花ちゃん、入りづらそうにしてたけど、良かったら、私たちと一緒に入る?」
「い、良いですか? 実はこういうお店、初めてなので、気後れしちゃって。」
愛花さんは普段はジュニア向けのショップで衣類を買い揃えているそうなのだが、まりちゃんに容姿をネタに揶揄われることもあり、体を急に大きくするのは無理でもせめて服装から大人っぽくしようと一念発起したらしい。
ただ、いきなり洋服を買うのは躊躇われたので、まずは見えないところのオシャレからと思い、このショップにチャレンジしようと思ったそうだ。
「ここは可愛いものも揃ってるから、愛花さんに似合うのもあると思うよ。」
「そうなんですね、…って、悠樹くん、完全に馴染んでますよね。まあ、君だったら、こういうお店も平気だと思いますけど。」
「ねえ、ゆう、先に愛花ちゃんのを選ぼうと思うんだけど、良い?」
「い、いえ、私は自分で選びますから。」
「じゃあ、三人で見てきなよ、俺は適当に
「ゆうくんは、来てくれないの?」
「あやとすずだったら良いけど、愛花さんは俺に見られたくないだろ。」
「あ、あの、悠樹くん、もし良かったら、ご一緒に…」
「ごめん、愛花さん、実は、俺が恥ずかしくて。」
「ふふ、愛花ちゃん、ゆうは私たちじゃない女性のは無理なの。」
「そうなんですか? そういうの全然平気だと思ってました。」
俺が普段、清澄姉妹と過ごしている時の様子を知っている人にはそう思われても仕方ないと思うけれど、俺は姉妹の下着選びなどには付き合えても、他の女性のものはとてもじゃないが手を出せない。
なので、当然愛花さんの下着など見られる訳がない。
そう思い、さっさと逃げ出そうとしたのだが、なぜか愛花さんが俺のシャツの裾をクイと引いて離してくれない。
「愛花さん?」
「あの…、彩菜さんと涼菜さんが一緒でも、ダメですか?」
「いや、でも…」
「悠樹くんにも、見てほしいんですけど…」
先ほど愛花さんは、幼い容姿を揶揄われるので大人っぽいものをと言っていたが、どうもそれだけが動機ではないように思えてきた。
そう言えば、2学期の初日にナイトウェアの好みを聞かれた覚えがある。
あれは冗談だと思っていたけれど、ひょっとしたら、この少女は本当に俺の好みが知りたいのだろうか。
「ゆうくん、来てくれるよね?」
「分かったよ、同行させていただきます。でも、一緒に行くだけだぞ。」
「ついに、ゆうが陥落しちゃったね。」
「ありがとうございます、嬉しいです///」
はにかむ愛花さんに、彩菜と涼菜が温かな眼差しを向けていた。
まるで自分たちの妹を見ているような優しさだった。
最近、俺の中で愛花さんの存在が大きくなっているように感じていた。
もちろん、愛花さんの気持ちに応えることはできないが、彼女の振る舞いに心が動かされることがあるのは否定できない。
多分それくらい、俺に、いや、俺たちにとって、彼女の存在は欠かせないものになってきているのだろう。
「愛花ちゃん、サイズはどうだったの?」
「え、あの…(チラッ)」
「あや、俺がいるんだから。」
愛花さんが試着室で店員に胸のサイズを測ってもらい戻ってきた。
彩菜がサラッとサイズを聞くが、俺がいるところで言える訳がない。
と思っていると…
「その…、B60…、でした…///」
愛花さんが恥ずかしそうにしているけれど、聞いているこちらも何とも居た堪れない。
一体これは何のための苦行なのだろうか。
それはさておき、B60となると、このショップではあまり品揃えがないと思うのだが。
「ゆうくん、60って?」
「この店だと一番細身のサイズだな。」
「悠樹くん、そういうの、直ぐに分かるんですね…」
愛花さんはまだ恥ずかしそうに頬を染めながらも、ジト目でこちらを睨んでいる。
涼菜が大人と同じブラを着け始めた頃もそのサイズだったので覚えているし、そうでなくてもサイズ表が頭に入っているので直ぐに答えられるのだが、そんなことを知っている高1男子があまりいるとは思えないので、訝しく思われても致し方ないだろう。
そう思っていると、愛花さんがトテトテと側まで来て、未だジト目のまま上目遣いでポツリと溢した。
「私の胸、小さいと思ってますよね…」
「そんなことないし、大きければ良い訳じゃないよ。愛花さんの身長にはバランスが取れていて良いと思うよ? 腰だってほら。」
「ひゃっ、ゆ、悠樹くんっ。」
まるで愛花さんのウエストサイズを測るかのように、何も考えずに自然に彼女の腰を両手で掴んでしまってから、慌てて離した。
どうも俺は愛花さんを相手にすると、何かしらやらかしてしまう。
「ごめん! つい…」
「い、いえ、ちょっとびっくりしただけですから///」
「あやねえ、そこに初々しいカップルがいるんだけど、どうしよう。」
「私たち、お邪魔だろうから、あっちに行ってようか。」
ニヤニヤしながらその場を離れようとする清澄姉妹を何とか引き止めて、ようやく愛花さんの下着選びを始めた。
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