第69話 これからも
俺は鷹宮さんに連れられて、南雲さんと一緒に特別教室棟へ通じる渡り廊下に来ていた。
今はどのクラスもLHR前で、音楽室や化学室などに移動する生徒がいないため、内緒話をするには格好の場所だ。
「由香里、ほら、言っちゃいなよ。元々そう言ってたじゃん。」
「もう、まりちゃんてば、わたしにも心の準備ってものがあるんだから!」
どうやら俺は南雲さんから何かを告げられるらしい。
それが何かは既に分かっているのだが、これまで結果的に知らないふりをしていた俺にも非があるような気がして、黙って彼女の言葉を待った。
まもなく、南雲さんはほんの少し頬を染め、バツが悪そうな表情をしながら俺に向き直った。
「あの、御善くん、ごめんね? なんか変な感じになっちゃって。」
「いや、そんなことはないから、謝らないで。」
俺の言葉を聞いて、南雲さんは軽く苦笑いしながら話し出す。
「うん…、あのね、もう、知ってると思うけど、わたし…、御善くんのことがね、好きになっちゃったの。」
「うん。」
「初めは言わないでおこうと思ったんだけど、御善くんの家であんなこと言っちゃったりして、自分でも抑えきれなくなってるんだって気づいたんだ。」
「そうだったんだ。」
「だからね、もう言っちゃおうって、スッキリしちゃおうって、身勝手なのは分かってるんだけどね。」
正直、それで本当にスッキリするのか俺には分からないけれど、そんな疑問を挟むことはしない。
彼女の気持ちは、彼女にしか分からないのだから。
南雲さんは尚も続ける。
「で、身勝手ついでに御善くんにお願いなんだけどね、登校する時にも言ったけど、わたし、もっと清澄先輩たちのことが知りたいんだ。ちゃんと知った上で、キッパリ負けを認めて、それで御善くんを諦めたいと思ってるの。だからそれまで、もう少しだけ、わたしの友達でいてくれないかな。」
南雲さんは本当にスッキリとしたような表情をして、俺に問いかけた。
俺はその様子に舌を巻きながらも、思わず微笑んでしまう。
「もう、御善くん酷い、笑わないでよぉ。」
「ごめんごめん、馬鹿にした訳じゃないんだ。俺が言いたかったことを南雲さんが言ってくれたのが嬉しくなっちゃって。」
「へ?」
南雲さんが目を丸くしている。
俺は今言ったことの真意を彼女に伝えた。
「俺は、ううん、俺たちは、友人には自分たちのことを知ってほしいと思ってるんだ。以前はあまり話さずにいたんだけどね、最近色々あって、寧ろ知ってもらいたいと思うようになったんだよ。だから、南雲さん、もし良かったら、これからも俺の友人でいてくれると嬉しい。そして俺たちのことをもっと知ってほしい。」
南雲さんは呆けた顔をしたかと思うと、直ぐに口元に笑みを浮かべ…
「うん、ありがとう、じゃあ、これからもよろしくってことで。」
彼女が差し出した右手を、俺はしっかりと握った。
昼休み、今日は月曜日なので彩菜と共に司書当番をしながら、彼女に朝の顛末を話して聞かせた。
「そういうことだったんだね。南雲さん、ゆうのこと本気なんじゃないかな。愛花ちゃんも、うかうかしていられないんじゃない?」
そう言って、彩菜は俺を挟んだ隣を見やる。
そこには司書コーナーの端っこでお弁当を広げる愛花さんが居た。
「そうなんですよ。ついに私の立ち位置を脅やかす存在が出て来ちゃいました。」
愛花さんは南雲さんに対して少しでもアドバンテージを得るために、俺たちと一緒に昼御飯を摂ることにしたそうだ。
「それにしても、彩菜さんが南雲さんの気持ちを知らなかったのには驚きました。お二人の間にも内緒事ってあるんですね。」
「それはあるよ、特に今回のことは、ゆうも言う訳には行かないだろうしね。」
「俺は人伝に聞いてただけで、本人から聞いたのは今日が初めてだからね。」
「あー、悠樹くんって、彩菜さんたちのこと以外は常識人ですものねぇ。」
「愛花さん、きみ、2学期からは辛辣キャラで行くつもり?」
「君の側に居ようと思ったら強めのキャラ設定が必要かなと。ライバルも現れましたし、このままじゃ『側室』としての立場も危うくなりますから。」
「『側室』って自分で言うんだ…」
「はい、もう開き直りました。だから悠樹くん、私はいつでも大丈夫ですからね?」
「…一応聞くけど、何のこと?」
「もちろん『側室』としての営みですよ? そうだ、悠樹くん、ナイトウェアってセクシーなのとキュートなのと、どっちが良いですか?」
「私とすずはブラとショーツで一緒に寝てるよ? ゆうはパンツ1枚。」
「むむ、そう来ましたか。悲しいかな、私の体型ではインパクトに欠けますね…」
「愛花ちゃんはベビードールが似合うんじゃないかな。透け感強めのフェミニンタイプにお揃いのショーツで可愛くてセクシーって、男性的にはツボじゃないかと思うんだけど。」
「なるほど、どう思います? 悠樹くん。」
「俺に意見を求めないでください。」
愛花さんのベビードール姿を想像するけれど、あまりにも可愛らしくて膝に乗せて愛でるくらいしか出来そうにない。
と言うか、俺よりも可愛いもの好きの彩菜が涎を垂らして飛びかかりそうだ。
彩菜は自分が見たくて提案したのではなかろうか。
女子二人はまだナイトウェアの話で盛り上がっているが、これ以上付き合っていると昼休みが終わってしまうので、俺は会話から離脱して手元の弁当箱を空にすることに専念した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます