第27話 来年は三人揃って

 週が変わって月曜日、球技大会のチーム編成が決まった。

球技大会実行委員から提案があった時は少々不満が上がったものの、若干の入れ替えだけで済んだので、ほぼ問題なく決定したと言えよう。


 俺はと言うと、結局3競技に登録されてしまった。

少しでも動けそうなやつを複数競技に配置していった結果、3競技に入ってしまったということらしい。

正直面倒臭いが、決まってしまった以上やるべきことをやるだけだ。


 放課後、図書室の司書コーナーで課題を片付けながら彩菜に球技大会で3競技に参加することになったと話すと、彼女は楽しそうにくつくつと笑っていた。


「3つ掛け持ちになっちゃったかー」

「ホント笑い事だよ、そもそもクラス対抗で球技大会ってのは無理があるだろ。」

「そうだねー、クラス対抗ならせめて男女混合かな、あと競技数を見直すとか。」

「そういう意見、去年は出なかったのか? 上級生さま。」

「どうだろう、興味ないから適当にやってたし、みんなもどうせ遊びでしょ? って感じだったしね。」

「まあな、単なる息抜きで真剣に考えるやつもいないかぁ。」


 全競技掛け持ちはスケジュールによっては一日中動き回ることになるから疲れるし面倒だ。

全員が息抜き程度に考えて和気藹々とやってくれれば良いが、部活生を中心とした一部のガチ勢が、やる気のない連中を引っ張って行こうとするとさらに面倒臭くなる。

後腐れないように済んでくれれば、それで良しなのだが。


「あやは何に出るんだ?」

「バスケ ONLY 。」

「1競技かよ、羨ましい。」

「うん、他もって言われたけど、断ったらそれで通ったんだよ。」

「そりゃあ、姫君がそう仰るんじゃな。ま、陰で色々言われてるんじゃないか?」

「ゆうの応援したいからって断ったんだけどね?」

「勘弁してくれ、それ、俺が恨まれるやつじゃないか、上級生に睨まれたくないんだが…」

「ふふ、大丈夫よ。そうだ、どうせならこの人がそうだよって、クラスのみんなに紹介しちゃおうか♪」


 以前、俺たちのことを宣伝する気はないと言っていたが、どうやら方針が変更されたようだ。

俺は果たしてどうなってしまうのだろうか…。





「へー、来月球技大会があるんだー、ゆうくんとあやねえは何に出るの?」


その日の夜、俺の腿を枕にしている涼菜に球技大会のことを話すと興味を示してきた。


「俺はサッカーとバスケとバレーだよ。」

「私はバスケだけ。」

「ゆうくん、3つも出るの? 凄い! 大活躍だね!」

「やめてくれ、押し付けられて面倒臭いだけだ。」

「あたし、応援に行きたいなー、こそっと潜り込もうかなー」

「中学校の制服じゃ入れないわよ。」

「あやねえの制服着ちゃえば大丈夫だよ、ちょっと大きいけど絶対バレない!」

「賞金首の手配書を回しとくね。賞金は、すずの来月のお小遣い。」

「ひどっ?! って、潜り込みは冗談だけど、ホントにゆうくんとあやねえの応援したかったなー」

「ありがと。来年期待してるからね。」

「そうだな、来年は学園に三人揃うから楽しみだ。そのためにはまず、すずが合格しないとな。」

「うわー、責任重大だー」

「ホントはそんなこと思ってないでしょ?」

「えへへ、ゆうくん模試は2週連続で合格点もらってるよー」

「ああ、この分なら心配ないよ、あとはモチベだな。」


 6月に入ってからの週末は、高校入試の想定問題を作って涼菜に解いてもらっている。

まだ2回しかやっていないが、各教科とも合格ラインを余裕で越えているので問題ない。

今から夏休み明けまで基礎固めをしておき、2学期には過去問を中心に応用を含めた仕上げをして、あとは本番を待てば良い。

クリスマス休暇もゆったり過ごせるだろう。


「そうだ、すず、友達と遊ぶとか、土日に用事がある時は遠慮なく言えよ。こっちを優先しなくて良いからな。」

「はーい、その時は早めに言うね♪」


 涼菜は日頃から学習と遊びのバランスが取れているので、俺に気を遣って友人関係を蔑ろにしてほしくない。

多分友人たちも本格的に受験対策を始めると忙しくなるだろうから、遊べるうちは遊んだ方が良いと思う。

根を詰め過ぎても効率が落ちるだけだし、メリハリをつけて無理なく学習を進める方が、結果として成果を生むことになるだろう。


「しかし、来年はすずの受験もそうだけど、あやも本格的に受験対策に入らなくちゃな。」

「そうなんだよねー、そろそろ進路調査もあるだろうし、志望大学どうしよう。」

「そのさらに翌年は俺も受験生だ。俺たち、毎年誰かが受験してるんだよなぁ。」

「でも、不思議と緊迫感や焦りはないよねー、学校じゃ結構ピリピリしてる子もいるけど。」

「ま、俺たちは俺たちのペースでってことだ。」


 本当に、焦ったからと言って良いことがある訳じゃないし、日頃から抜かりなく準備をしているから大丈夫だろう。

それくらい楽観的に構えていた方が、気持ちに余裕もできると言うものだ。

取り敢えず今は、学期末試験と、開催まであと一月を切った球技大会の心配をしておくことにしよう。

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