第21話 癒し
春の訪れを感じる。
柔らかな暖かさだ。
今は5月下旬のはずなのに、なんと心地良いのだろう…。
気がつくとまだ辺りは暗く、夜明けを迎えるには早そうだ。
何となく目は覚めたが、頭がぼんやりとして思考が上手く働かない。
腕を動かそうとしたが、何かに縫い付けられたように動かなかった。
俺の両側には清澄姉妹が眠っていた。
右腕を彩菜が、左腕を涼菜が抱きしめたまま、二人共、静かな寝息を立てている。
どうやら清澄姉妹の肌から伝わる優しい熱が、俺に季節を惑わせたようだ。
半日にも満たない時間だったが、俺は真冬の真っ暗闇の中に裸で放り出されたように、体が芯から冷え切って、ただもがき苦しんでいた。
そんな凍てついた俺の心身に、彩菜と涼菜は彼女たちの内側から溢れる熱いものを惜しげもなく注ぎ込み、癒しを与えてくれたのだ。
何も出来ずに立ち尽くしていた俺を救ってくれてありがとう。
またここに連れ戻してくれてありがとう。
俺は目尻から熱いものが流れ落ちるのを感じながら再び微睡の海に身を投じた。
土曜日の10時頃、俺が目を覚ますとベッドの中に清澄姉妹は居なかった。
ベッドパッドに残る微かな温もりに、少し寂しさを感じた。
1階に降り、リビングを覗いても二人の姿はない。
浴室で全身隈なく洗いシャワーで流す頃には、全ての感覚がリセットされて頭がシャキッとする。
軽く身だしなみを整えてリビングに行くと、清澄姉妹が迎えてくれた。
「おはよう、ゆう。」
「ゆうくん、おはよー♪」
ああ、いつもの光景だ。
二人の緩やかな笑顔に、胸にじんわりと温かいものが広がる。
「あや、すず、あらためて昨日はありがとう。おかげで元気になったよ。」
「顔色も良くなったね、もう大丈夫?」
「ああ、見てのとおりだ。」
俺は右腕を突き出してサムズアップをし、ニカッと笑顔を振り撒く。
実に俺らしくない戯け方だ。
「あはは、爽やかな笑顔いただきましたー、わーい!」
「くすっ、その様子なら、うん、ホントに良かった。」
涼菜が胸に飛び込んできたので、俺はしっかり受け止めて、彼女の頭をサラサラと軽く撫でる。
彩菜はその様子を眩しいものでも見るように、目を細めて見つめていた。
ソファーで三人くっ付いて座り、小一時間ほど寛いでいた。
掛け時計でまもなく11時半になるのを確認し、そろそろ食事を用意しようかと思い立つ。
「二人は今日何か食べたのか?」
「今朝、中途半端な時間に起きたから、まだ食べてないの。取り敢えずシャワーは浴びたけどね。」
「ゆうくん、お昼ご飯食べたーい。」
「ん、了解。今何か用意するからな。」
俺はソファーから立ち上がり、キッチンで冷蔵庫を覗いて食材を確認する。
ベーコンエッグと生野菜サラダ、コンソメスープくらいなら、時間をかけずに用意できるだろう。
主食は厚切りのトーストを出そう。
清澄姉妹の喜ぶ顔を思い浮かべながら昼御飯を作り始める。
今日はこの後、何も予定を入れていない。
昼御飯の後は何もせずダラダラと過ごすことにしよう。
清澄姉妹は何か予定があるだろうか。
このまま三人でのんびりと、穏やかな時間を過ごしたいと心から願った。
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