第17話 試験対策(3/3)

- 愛花 side -


 中間試験まで残り1週間となった月曜日の放課後、俺と彩菜は図書室の司書コーナーではなく、読書テーブルの定位置に居た。

今日から学園全体が試験準備期間に入ったため、図書室は蔵書の貸出しを休止して、自習室として開放されているのだ。


 彩菜は俺が用意した中間試験用の想定問題を解いている。

今日のノルマは2科目、彩菜の調子次第では3科目出来るかもしれない。

俺は解答を横から眺めている。

今のところ誤答はないようだ。


 俺は想定問題と併せて解答例も用意しているので、彩菜は一人でも答え合わせが出来るが、俺が間違いを把握して解き方を教えた方が彼女は早く理解出来るので、二人で身を寄せ合いながら取り組む格好になっていた。

側からは、とても試験勉強をしているようには見えないだろう。


「すみません、相席よろしいですか?」

「神崎さん、もちろんどうぞ。」


 彩菜が2科目目に取り掛かった頃に、目の前の席に神崎さんがちょこんと座った。

彼女も図書室で試験勉強をするのだろうか。


「神崎さんもここで試験対策?」

「はい、普段は家で自習してるんですけど、たまには気分を変えてみようと思いまして。」

「そうなんだ、予備校とか行かないの?」

「実は学校の授業もそうなんですけど、個人のレベルに関係なく一律の授業内容だと物足りなくて、自分のペースでやる方が性に合ってるようです。」

「なるほど、俺もそんな感じだから、よく分かるよ。」

「やっぱりそうなんですね。ところで御善くんは今日は何も用意していないようですけど、自習しないんですか?」


神崎さんは、俺が読書テーブルの上に何も置いていないのを不思議に思ったのだろう。

可愛らしく小首を傾げている。


「今はあやの試験対策に付き合ってるだけ。俺はあやの解答状況を見て、判らないところの見直しを手伝ってるんだよ。」

「え、それって2年生の科目を教えられるってことですか?」

「うん、2年生の範囲は予習済みだし、科目ごとの出題傾向はあやが把握してるから、あとはそれを加味した想定問題を解いてもらえば良いだけだしね。」

「あの、今、清澄先輩の解いている想定問題って、ひょっとして御善くんが作ったんですか?」

「うん。」

「…御善くん、君、本当は18歳くらいなんじゃないですか? 年齢詐称してますよね。」

「いや、俺は神崎さんと同じ今年16歳で、間違いなく高1だよ。」

「…信じられません。」


単に勉強好きの高校1年生です、成人していません。


 神崎さんは絶句してから、項垂れてテーブルに突っ伏してしまった。

この間もそうだったけど、彼女は感情の起伏が激しい人なのだろうか。


「私、こんな人に挑んでるんですね。ホント、凹みます。」

「俺はたまたま自分に合った最良の学習方法を見つけただけだよ。神崎さんだったら、神崎さん自身に合ったもっと良い方法を見つけられるんじゃないかな。」

「だと良いんですけどね。でも、うん、そうですね。ここで凹んでてもしょうがないので、私も頑張ります。で、あの、今日は私もここで自習するので、判らないところを教えてもらっても良いですか?」

「うん良いよ。いつでも聞いて。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 神崎さんは常に前向きに努力が出来て、結果を残せる人だ。

俺に出来ることがあれば応えてあげることもやぶさかでない。

ただ、優先順位が3番目以降になってしまうのは致し方ないことなので許してほしい。

そんな内心は口にせず、俺は再び彩菜の手元に意識を戻した。

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