第16話 試験対策(2/3)
- 彩菜 side -
「ねえ、ゆう。」
「はい、何でしょう。」
「ギューして。」
「分かりました。」
日曜日の朝、学園の姫君は我が家にやって来るなり抱擁を求めてきた。
昨日、涼菜から試験中のモチベーション維持のために俺と約束したことを聞き、自分にもしてほしいとのこと。
ただ、涼菜が試験期間中だけなのに対して、彩菜は今朝から始めることにしたらしい。
そんな約束しなくても、いつでも抱きしめてあげるのに。
「よし、ゆうエキス補給完了! また足りなくなったらよろしくね♪」
「はいはい、仰せのままに。ってか、それどんなエキスだよ。」
あまり頻繁に補給されると俺が干からびてしまうかも知れない。
彩菜は上機嫌でダイニングテーブルに着き、アイスコーヒーで一息付いてから、俺が用意した中間試験用の想定問題に着手した。
彩菜はこの1年間、定期試験で毎回10位以内をキープしている。
俺が手伝わなくても常に20位以内を確保できるくらい日々努力を重ねているのだが、彩菜はそれより上を狙ってさらに点数の上積みを求めている。
なんでも、俺の隣に居ても見合うように最上位を目指しているらしい。
まったく、嬉しいことを言ってくれる。
そういうこともあって、俺は中学2年生の頃から彩菜の学習範囲を予習して、普段から勉強を見たり今回のように試験前には想定問題を用意したりと、彼女の成績向上を支援してきた。
上級生の学習範囲を先取りするのは3年後の大学受験の役に立つし、新しい知識の蓄積は探究心を刺激されてワクワクする。
そして何よりも、俺はいつでも彩菜の求めに応えることができる自分でありたいと思っているので、彼女のために労力を厭うことはない。
これは涼菜に対しても言えることだ。
彩菜は黙々と問題を解いていく。
こういう時の彼女の集中力はずば抜けている。
例えば隣で大きな物音を立てたり大声で談笑していても、決して動じることはない。
目の前に雷が落ちても集中が途切れないんじゃないかとも思うが、流石にそれは確認しようがない。
彩菜が普段、1日1時間半から長くても2時間程度しか自習していないにも関わらず高い成績を残しているのは、この並外れた集中力の賜物だろう。
「ゆう、自分の勉強は大丈夫なの?」
「ああ、俺はいつもどおりだよ。」
「そっか、いつもありがとね。」
「どういたしまして。そろそろ昼御飯にしようか?」
「うん、切りがいいところまで来たし、そうしようかな。」
「了解。準備するよ。」
実際の試験より短い時間配分にして問題を解いているので、2科目終わったところでまだ11時半になるくらいだ。
午後からあと4科目は出来るだろう。
その他の科目は明日から図書室でやれば良い。
仮に想定問題で躓く箇所があったとしても、週の後半で十分リカバー出来る。
俺は昼御飯を作るためにキッチンへ向かう。
今日は簡単にパスタで済ませるか。
あと、サラダくらいは用意できるかな?
「ゆう、何か手伝うことある?」
「俺の手間が増えるだけなので大人しく待っていてください。お願いします。」
「はーい、分かりましたー」
俺は料理下手な彩菜の申し出を丁重に辞退し、鍋に水を張り始めた。
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