第15話 試験対策(1/3)

- 涼菜 side -


 涼菜の後輩くんと別れた後、20分程で我が家に帰り着いた。

食材を片付けるため玄関から直接キッチンに入ると、リビングから声がかかる。


「ゆうくん、おかえりなさーい♪」


 先ほど後輩くんとの話題の中心だった涼菜が、ご機嫌な様子でキッチンにひょこっと顔を出した。

彼女は金曜日の夜から我が家にお泊まりしていた。

あのまま自宅へは帰らずに俺の帰りを待っていてくれたのだろうか。


「ただいま、すず。家には帰ったのか?」

「うん、お洗濯の後、家から取って来るものがあったから、さっき行って来たの。」

「そうだったんだ。洗濯、ありがとな。」

「ううん、あたしが汚しちゃったんだもん。」

「すずだけのせいじゃないよ。今日はあやはどうしてるんだ?」

「あやねえは確か友達と遊びに行くって言ってたよ? 夕方には帰る筈。」

「そうなのか、すずは予定はないのか?」

「あたしはお勉強の予定、ってか、もう始めてるけどね。」

「うむ、感心感心。」

「えへへー、褒められちゃったー♪」


 頭を軽く撫でてやると、涼菜は笑顔でリビングに戻って行った。

俺は食材を次々と片付けて行き、空になったエコバッグを小さくたたんで食器棚の引き出しに放り込んだ。

リビングに足を踏み入れると、涼菜がカーペットにぺたんと座り、ローテーブルで問題集に取り組んでいた。


「中間試験の勉強か?」

「うん、数学で上手く解けないところがあって、そこを重点的に潰してるところ。」


 先日実力テストの成績が芳しくないようなことを言っていたが、涼菜はどの教科も基礎は出来ているし、応用も変な勘違いさえしなければほとんど問題なく正解に辿り着く。

暗記科目も苦手ではないのでケアレスミスに気をつければかなりの点数が取れるはずなのだが、時々むらっけが出て、気分がのらない時は散々な結果になることがある。

 多分先日の実力テストも当日登校中に急に雨が降って来たとか、その日の朝食が好みのものではなかったとか、そんな理由でやる気にならなかったのだろう。

このままでは来年の高校受験が大いに不安だ。


「ねえ、ゆうくん、ちょっと相談があるんだけど。」

「うん? また相談か? 今度はなんだ。」


涼菜は開いていた問題集にシャーペンを置いて、真面目な顔で俺を見つめる。


「ゆうくんも知ってるとおり、あたしって勉強はそこそこ出来るじゃない?」

「ああ、そうだな。すずは地頭がいいからな。」

「でも、気分がのらないと途端にダメダメになるでしょ?」

「俺も今それを考えてたところだよ。」

「でさ、あたし今、試験の時にやる気スイッチを入れる良い方法を閃いたんだよ。」

「おお? ここに来て何か名案を思いついたのか? ぜひ聞かせてくれ。」


何となくまともな答えが返ってくるとは思えなかったが、取り敢えず涼菜に続きを促してみる。


「あのね、あたしが試験を受けてる間、ゆうくんが隣で手を握っててくれないかなー。そうすれば心強いし、バッチリ試験に臨めると思うんだよねー」

「…………」


俺は二の句が継げなかった。

あまりのことに脱力感が襲ってくる。


「あれ? なんかダメっぽい? 良いと思うんだけど…」

「…それ本気で言ってたら大したもんだよ。」

「えへへー、もっと褒めてー♪」

「褒めてないわ! お前のおつむはお花畑か!」


本気なのか冗談なのか分からない涼菜の発言に頭が痛くなってきた。

まさかとは思うが、昨夜無闇に可愛がりすぎたために、こんな風になってしまったのだろうか…。


「うー、名案だと思ったんだけどなー。あ、じゃあさ、これはどお?」

「…聞くだけ聞いてやる。」

「試験日の朝、学校に行く前にね、ゆうくんにギューってしてほしい! そしたら一日頑張れそうな気がする!」

「んー、まあ、それだったらいいか。」

「でしょでしょ? やったね! それでお願いします♪」

「ん、了解。」

「再来週の月曜日から4日間、毎朝15分でよろしく♪」

「15分?!…ああ、ああ、分かりました。それでお前が試験を乗り切れるならお安い御用だ。」

「えへへー、ありがとう。後であやねえに自慢しよー♪」


15分もあると抱きしめるだけで済ませられるだろうか…。

きっと、彩菜にも同じことをさせられると思うし…。


 結局、試験にかこつけて朝から俺に甘えたかっただけなのだろう。

これ以上この話を続けると頭痛が酷くなりそうなので、ここで会話を打ち切った。

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