第18話 答え合わせ

 5日間に及んだ中間試験の最終日、最終科目の世界史の試験が終了し、教室はクラスメイトたちの開放感に包まれる。

試験期間中の憂鬱な気分も吹き飛んで、皆、今日を含めて三日間は羽根を伸ばす気満々のようだ。

SHRが終わり、俺が帰宅の準備をして席を立ったところで、スマホに彩菜からメッセージが入った。


『ごめん、ゆう』

『あかねたちと試験の打ち上げするから一緒に帰れなくなっちゃった』

『終わったらすぐ連絡するね!』

『後で試験お疲れ様のハグよろしく!』


 最後に『寂しいよう』と熊が泣いているスタンプが飛んできたので、同じ熊が明るく『またあとでね』と笑っているスタンプを返してスマホをポケットにしまった。

一人で帰ることになった俺が廊下に出たところで、神崎さんから声が掛かった。


「御善くん、試験お疲れ様でした。今日も清澄先輩と下校ですか?」

「神崎さんもお疲れ様。あやは友達と打ち上げに行ったから今日は一人なんだ。」

「そうなんですね。じゃあもし良かったら、女子二人と答え合わせと打ち上げに行くんですけど、一緒にどうですか?」

「あー、女子だけなんでしょ? 俺が参加してもいいの?」

「実は一緒に行く子が御善くんと話がしたいらしくて、都合を聞いてほしいって言われちゃって…。無理に誘うつもりはありませんので、断ってもらっても大丈夫ですよ?」


 クラスメイトの誘いは彩菜との仲を根掘り葉掘り聞かれるのが目に見えているので出来れば遠慮したいが、そうすると今後のクラス付き合いがし辛くなる。

少人数のようだし、これからのためにも少しずつ手札を晒して様子を見ながら対応すればいいだろうと思い、誘いに乗ってみることにした。


「今日は一人だし、折角のお誘いだから参加するよ。」

「大丈夫ですか? 私は御善くんと答え合わせできるので、有難いですけど…」

「うん、平気。話によってはだんまりを貫くことにするけどね。」

「そうしてください。私は二人を呼んできます。」


神崎さんはぺこりとおじぎをして教室に戻った。

はてさて、どこまで突っ込まれるのやら。


 神崎さんたちと最寄駅近くのファミレスに行くことになったので道中で彩菜にメッセージを入れていると、あまり話したことのない女子生徒の一人が気づいたようで早速質問が飛んできた。

南雲由香里なぐも ゆかりさんというクラスメイトだ。


「御善くん、ひょっとして清澄先輩に連絡?」

「うん、心配させるといけないからね。」

「やっぱりそうなんだ。しょっちゅう連絡取りあってるの?」

「スマホはあまりないかな。一緒にいることが多いから、直接話せばいいし。」

「わあ、部活の先輩から聞いてはいたけど、ホントだったんだねぇ。」

「ちなみにどんな話を聞いたの?」

「難攻不落で浮いた話一つなかった学園の姫君が、新学期に入ってから1年の男子といつも一緒に居るって噂になってるみたいだよ?」


 なるほど、『許婚』というワードが出なかったので、こちらが掴んでいる内容よりはマイルドか。

この程度なら簡単に話が合わせられそうだが、噂が広がっている割には尾ひれが付いていないので、本格的な追及はファミレスでということかも知れない。


 まもなく目当ての店に到着し、昼前だったからかあまり混んでいなかったので、俺たちは直ぐに店内中央付近のドリンクバーに近い席に案内される。

ドリンクのお代わりが気軽にできそうだ。


 座席配置は、俺と神崎さんが並んで座り、南雲さんともう一人の女子・鷹宮麻里亜たかみや まりあさんが向かい側に座った。

皆が注文を済ませてドリンクバーで飲み物を取ってくる。

料理が出てくるまでの間、今日の試験の答え合わせをしていると、鷹宮さんがぼそりと言った。


「アタシ古文って苦手だなー、昔の言葉なんて今更知らなくてもいいじゃん。」

「分かる、他の科目は将来使うかもだけど、古文はなさそうだしねぇ」


南雲さんも同意見のようだが、それを言ってしまうと今日の試験科目は二つとも要らなくなってしまう。

文科省に聞かれたら渋い顔をされそうだ。


「今日は二つとも暗記科目でしたから、覚えるのが大変だったかも知れませんね。」

「それ! アタシ暗記ものって得意じゃないんだよねー」

「あはは、まりちゃん昔っからそうだよねぇ、御善くんは今日の試験ってどんな感じ?」

「俺は取り敢えず答えを埋められたかな。」

「御善くんは苦手科目なさそうですよね。満点もあるんじゃないですか?」

「うーわ、マジ? 流石首席さま、アタシ満点なんて取ったことないわー」


 答え合わせもそこそこにそんな会話を続けていると、料理が運ばれてきた。

テーブルの上を片付けて、皆が配膳された料理に手を付ける。

俺はミックスグリルランチを頬張った。


 料理を3分の2ほど腹に入れたところで、南雲さんが軽く身を乗り出して切り出した。


「ねえねえ、御善くん、清澄先輩とのこと聞いていい?」

「あー、うん。お手柔らかにお願いします。」


 南雲さんの隣に座る鷹宮さんの目がきらりと光る、まさに獲物を狙う鷹のようだ。

これから本格的に質疑応答が始まるのだろう。

短めに済ませてくれると有難いのだけど、さてどうなるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る