第2幕
第53話 女五人寄れば
俺と清澄姉妹が同居を始めた翌週の水曜日、我が家は女子会の会場になっていた。
終業式の日に決まったクラスメイト三人の我が家来訪が、今日行われているのだ。
俺たち三人を合わせて、六人のスケジュール調整はさぞ大変だろうと思えたが、皆7月中は予定が空いていたらしく、早々とこの日に決まっていた。
集合時刻の11時より少し早めに来てくれた三人に家に上がってもらい、まずは皆で食事を楽しんだ。
今は食後のアイスコーヒーを手元に置きながら女子たちが話に花を咲かせている。
俺はキッチンで洗い物の真っ最中だ。
「さっきまで食事に夢中だったんで今更ですけど、清澄先輩と妹さんって二人揃ってホントに美人ですよねぇ。羨ましい…」
「それよ! しかも姉妹が全然系統の違う美形って、どんな母親から生まれたのって感じですよー」
「あはは、二人とも、ありがとう。」
「この前、ゆうくんが、あたしたちは存在そのものが奇跡みたいだって言ってくれましたー♪」
「ゆうったら、そんなこと言ってくれたんだぁ、ふふ、嬉しいなぁ。」
「これですよ。悠樹くんの褒め言葉も凄いと思いますけど、お二人はそれを素直に受け取って喜べるんですから。しかも私たちが居てもお構いなしですからね。」
「あー、特に『愛人1号』としては、本妻の惚気目の前で聞かされるってのはねー」
「え? 神崎さん、いつ愛人になったの?!」
「なってませんよ?! 鷹宮さん?!」
「いーじゃん、御善くんなら初めてでも優しく挿れてくれそうだし。」
「何の話ですか?!」
「あ、ごめん、初めてじゃなかった?」
「そうじゃなくて!」
「愛花ちゃん、この前、ゆうに実技教えてほしいって言ってたけど、まだしてなかったの?」
「彩菜さんまで?!」
洗い物を片付けてリビングに戻ろうとしたところで、何やら不穏な会話が聞こえてきたので、もう少しキッチンに籠ることにした。
女三人寄ればと言うが、それが五人なのだから、暫く男の出番はなくても良いだろう。
「うん、それで一人暮らしを始めたんだよ。」
「御善くん、ごめん、アタシ知らなくて…」
みんなで雑談を楽しんでいるうちに、俺が一人暮らしになった理由に行き当たった。
話を振った鷹宮さんが恐縮している。
「気にしないで、俺が話してなかっただけだから。」
「家事はどうしてるの? 料理は上手だったけど。」
「両親が居なくなってからは、ほとんど何でもやってたからね。」
大学生活が忙しかった和樹に代わって、家のことは自分でやるようにした。
清澄家が手伝ってくれることもあったが、やってもらうのではなく、出来るだけ教えてもらうだけに留めた。
「悠樹くんは既に立派な主夫ですものね。あ、そうすると、彩菜さんと涼菜さんの家事分担ってどうしてるんですか?」
愛花さんがしれっと俺たちが同居していることを匂わせた。
同居のことはどこかで言おうと思っていたので、良いタイミングかも知れない。
あとは、このパスをこちらがどのように活かすかだ。
「基本的には俺がやってるけど、すずも良く手伝ってくれるから助かってるよ。ありがとう、すず。」
「えへへ、どういたしましてー♪」
「じゃあ、女性用の下着も涼菜さんが洗うことになったんですね。」
「いや、俺がやってるけど…」
「ゆうくんの方が上手に出来ますから♪」
「はぁ〜、もう、ホントに君たちは…、あれ? そうすると、彩菜さんは何を…」
愛花さんが目を向けると、彩菜は背中を丸めて小さくなっていた。
「あやはこれから家事の勉強だよな?」
「はい」(小声)
「『学園の姫君』は、やはり『姫君』だったと…」
「あのぉ、ちょっと良いですか?」
南雲さんが右手を小さく上げて、遠慮がちに発言を求めてきた。
「今の話だと、御善くんと姉妹お二人って同棲してるように聞こえるんだけど…」
「うん、1週間前にあやとすずがうちに引っ越してきて、その日から一緒に暮らしてるんだ。」
さらっと答えると、南雲さんと鷹宮さんは目を丸くしている。
清澄姉妹と愛花さんは落ち着いたようすで二人を見ていた。
「それって、清澄先輩のご両親も認めてるってことだよね?」
「もちろんそうだよ、清澄の両親の支援がなければ生活出来ないしね。」
俺の分はさておき、姉妹の生活費は清澄家に面倒を見てもらわなくては、この同居は成立しない。
その他にもきっと様々なことでお世話になることだろう。
「もしアタシが同じことしたいって言っても、うちの親じゃ絶対激怒だわー」
「あはは、普通はそうだよね。うちの親って、ゆうには絶大な信頼を寄せてるから。」
「ゆうくんになら、あたしたちを任せて間違いなしって思ってるんですよねー」
「えと、それって、ご両親は御善くんとお二人との間では、その、男女の間違いが起きないと思ってるってことですか?」
南雲さんの問いに、鷹宮さんは息を飲み、愛花さんは神妙な面持ちでこちらを見ていた。
清澄姉妹は揃って俺を見上げている。
二人の瞳には、期待と信頼が見てとれた。
俺は一度目を瞑り、ふう〜っと息を吐いて、再びゆっくりと瞼を開く。
「俺と、あやとすずは、心はもちろんだけど、体も結ばれているんだ。清澄の両親はそれを知った上で、この子たちを俺に預けてくれているんだよ。」
俺の言葉を聞いて、清澄姉妹は互いに笑みを交わし合い想いを紡ぐ。
「私たちは二人ともゆうが大好きで、二人ともゆうから離れたくないの。」
「あたしたちは、ゆうくんにどっちかを選んでほしくないんです。二人とも一緒に同じように愛してほしいんです。」
「これがね、私たちの本心なの。」
姉妹が言ったのは、以前、神崎姉弟に涼菜が語ったものだ。
これは今回の同居の理由ではないのだが、俺たちが一緒に居たい訳としては十分だと判断して、これを話すことに決めていた。
なので、俺もあの時と同じことを伝える。
「俺も二人を離すつもりはないし、一人だけ選ぶことはしない。俺たちは三人で一つだと思ってるんだ。」
最後に一つだけ、先日、彩菜が涼菜に語った1フレーズを繋げた。
『三人で一つ』、この言葉こそが、俺たちを表すのに相応しいと思ったからだ。
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