第49話 早く起きた朝は

 終業式当日、普段と変わりなくいつもどおりの時刻に登校すると、南雲さんが俺の席に座って、一つ後ろの席に居る鷹宮さんと話しをしていた。

この時刻に鷹宮さんが来ているのは初めて見る。


「おはよう、南雲さん、鷹宮さん。」

「おはよう、御善くん、今、退くね。」


南雲さんがサッと立ち上がって席を空けてくれたので、俺は素直に自分の席に座った。


「南雲さん、ありがとう、ごめんね?」

「ううん、こっちこそごめんね? 席、借りちゃって。」

「おっはよ、御善くん、わりぃ、アタシが由香里を座らせたんよ。」

「二人とも構わないよ、鷹宮さん、今日は早いんだね。」


 鷹宮さんは、いつももう少し遅くに登校して来るので不思議に思い、話しを振ってみる。


「由香里が早い時間の電車だと少し空いてるって言うから、今日は一緒に来てみたんよ。」

「まりちゃんったら、前々から誘ってるのに朝早いのヤダって言ってたんだよ? まさか終業式の日になんて思ってなかったよ。」

「ごめんて、今日は早起き出来たからさー」

「じゃあ、2学期からは毎朝この時間に登校ってことだね?」

「そうだよ、まりちゃん、毎朝一緒に来ようよ。」

「毎朝はキッツいわー、メイクする時間もいるしさー」


 これまでより30分だけ早く起きれば良いと思うのだが、皆、朝は1分でも長く寝ていたいらしく、余程強い動機がないと起床時間は変わらないようだ。

俺の場合、平日は5時半に起床して毎朝の日課を熟しているし、通学時間も20分程度なので、朝は余裕を持って過ごすことが出来ている。

 ちなみに、最近は清澄姉妹も朝から俺と一緒にストレッチなどをしているので、これから同居を始めても起床時間に気を使わずに済みそうだ。


「おはようございます。」


 愛花さんが教室に入ってきた。

彼女は毎朝ほぼ決まった時刻に登校している。

俺と同じ徒歩組の愛花さんは、登校時間を交通機関の遅れなどに左右されないので、ほとんどブレがないのだろう。


「おはよう、愛花さんは毎朝キッチリこの時刻に登校だよね、朝は何時に起きてるの?」

「私は6時半ですね、家が近いので早起きしなくて済んでます。」

「げっ、起きる時間アタシとおんなじじゃん、家近かったらあと30分寝られるわー」

「ホント近いと良いよねぇ、わたし、7時前に家出てるんだよ?」

「やっぱり、この辺で部屋を借りると良いんじゃない? 鷹宮さんと一緒なら家賃を折半できるよ。」

「御善くん、またそのネタ使うの? 折半でも高校生が簡単に払える金額じゃなさそうだけどねぇ。」

「御善くんちって部屋たくさんありそうじゃん、一つくらい空いてないの? あそこだったら近いから通学楽そうだし、アタシと由香里、住まわせてくんない?」


 もしもし、鷹宮さん? ここでそれ言っちゃう?

いや、元はと言えば、部屋を借りる話をした俺の不注意なのか?


鷹宮さんの不用意な発言に、南雲さんが逃すことなく食いついた。


「ちょっと、まりちゃんどういうこと? なんで御善くんの家知ってるの? ってか、部屋がたくさんあるとかどうして分かるの?」

「え、あの、えと、それはね?」


 鷹宮さんは南雲さんの勢いに押されてしどろもどろになりながら、俺に助けを求めるように視線を向ける。

俺の側では愛花さんが頬を膨らませてこちらを睨んでいた。


「悠樹くんのお家の事情って、彩菜さんたち以外では私しか知らないと思ってました…」

「神崎さんも知ってるの?」「神崎ちゃんも知ってるの?」


さて、俺はこの場合どうしたら良いんでしょうか。


「ふーん、この中で、わたしだけが知らなかったんだー、へー」

「いや、わざと南雲さんにだけ知らせてないってことじゃなくてね?」

「何がどう違うのかな〜?」

「えーと?」


天を仰ぎつつ思考を巡らせていると、耳元で天使の囁きが聞こえた。


「悠樹くん、今度私たち三人でお宅にお邪魔しても良いですよね?」


 俺は愛花さんの提案に頷くしかなかった。

この提案に南雲さんも取り敢えず鉾を下ろしてくれた。


 彼女たちが我が家を訪れる頃には、俺は一人暮らしではなくなっているが、南雲さんや鷹宮さんとの交友関係を考えると、このまま隠しておける気がしない。

清澄姉妹には今日、事情を説明すれば分かってもらえるだろう、多分。

俺たちはメッセージアプリのグループを作り、後で皆の予定を摺り合わせることにした。


 その日の午後、彩菜と涼菜にこのことを話すと、二人とも仕方ないなと言いつつ、皆が来ることを了承してくれた。

今週は姉妹の引っ越しがあるので、女子三人に来てもらうのは来週以降になる。

今から夏休み中のスケジュール調整は難しいだろうし、はたしていつ来てもらうことになることやら…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る