第48話 ないしょ話

 1学期最後の月曜日、俺と彩菜の司書当番は今日で一区切りとなる。

今日も図書室の利用者はほとんどおらず、先ほど一人返却に来た後、図書室は俺たち二人の貸し切り状態になっていた。

 今日の授業では日次の課題は出ていないので、俺も彩菜も司書コーナーで夏休みの課題に取り組んでいたのだが…


「ねえ、ゆう。」

「ん、どうした?」

「今、お母さんから、私とすずの家具、木曜日の10時に動かすことになったってメッセージが来たんだけど、大丈夫だよね?」

「ああ、部屋の掃除も終わってるし、カーペットは敷かなくて良いんだよな?」

「うん、私たち、今もフローリングのままだからね。」


 一昨日、俺と清澄姉妹は、清澄の両親に来年4月に予定している俺たち三人の同居を早められないか相談した。

両親としても涼菜の状態に思うところがあり、俺と話をしようとしていたところに、こちらから相談を持ち掛けられた形だった。

 なので、結論から言うと、俺たち三人は準備が出来次第、同居を始めることになり、早速我が家の空き部屋の掃除や姉妹の家具の運送手配に手を付けていたのだ。


 もちろん、同居に当たっては幾つかの条件が付いている。

その最上位は、涼菜が義務教育を修了するまでは、決して妊娠させてはならないというものだ。

元々、来年4月に同居を予定していたのも、それを考えてのことだった。


 涼菜が中学卒業後であれば、致すときに細心の注意を払うのは当然として、それでも万が一のことがあったときには、清澄の両親が全面的にバックアップすると言ってくれているのだ。

当然、彩菜については今がその状況ということでもある。


 正直、この話を初めて聞かされた時には俺は中学生だったし、度肝を抜かれ耳を疑ったものだ。

けれど、あの両親は普段から姉妹が俺の家にお泊まりすることを止めようとしないどころか、寧ろ推奨している節さえあるし、母親の美菜さんに至ってはオカモトさんやサガミさんを差し入れと称して渡して来ることもあるくらいなので、今更という気もする。

 結局、同居すればこれまでよりも差し入れを使う回数が増える=危険度が増すことを見越しての条件付けということだろう。

俺たちとしては心配されるほど増やすつもりはないのだけれど…。


 いずれにしても、俺たちは16歳と14歳の男女なのだから制約があるのは当たり前なので、自ら責任が取れる立場になるまでは、保護者の指示に従って生きて行かねばならないことは言うまでもない。


「そうだ、あや、洗濯はどうする? 別々にするか?」

「うーん、私はどっちでも良いかなぁ、すずもそうだと思うけど、寧ろゆうが私たちの下着洗うの嫌だったりしない?」

「いや? ネットや洗剤の指定とか、扱い方を教えてくれれば問題ないよ。」

「じゃあ、普段使ってる洗剤とか確認してからにしようか、他にもそういうのあるだろうしね。」


 俺たちの場合は普段から互いの家を行き来しているから、あまり心配は要らないかも知れないけれど、一緒に生活していれば互いに何かしらこれまでの生活習慣との違いを感じると思う。

そういう時は変に遠慮することなく、その都度擦り合わせをすれば良いだろう。

 そういうことを繰り返して行くうちに、きっと俺たちらしい生活の仕方を積み上げて行くことが出来るのだと思う。


 こうして俺たちが生活すること自体は何とかなると思うのだが、当面の問題は…


「あのぅ、悠樹くんと彩菜さん、あと涼菜さんもですけど、三人で同棲するんですか?」


…愛花さんに俺たちの会話を聞かれてしまったことだろうか。


 まあ、司書コーナーで声を顰めることもなく、堂々と話をしている時点で何を言っているのかということだし、そもそも同居のことは愛花さんには話しておこうと思っていたので、寧ろ手間が省けると言うものだ。


「同棲じゃなくて同居だよ、俺たちは付き合ってる訳じゃないから。」

「そんな詭弁、今更通用すると思ってるんですか? 悠樹くんが彩菜さんや涼菜さんと所構わずイチャイチャしてるのは既にあちこちで目撃されてるんですから、君が二股…、いえ、複数恋愛してるのがバレるのは時間の問題だと思いますよ?」

「愛花さん、きみ、そういう方面には疎いんじゃなかった?」

「君を目標としてるんですから、そっちのことも頑張って勉強しています。そうじゃないと引き離されるばかりですからね。」

「何か、方向性を間違えてると思うんだけど…」

「そうだ、私、勉強はしてるんですけど実技が伴わなくて、悠樹くん、教えてもらっても良いですか?」

「…え?」

「だって…、君じゃないと嫌なんですもの…」

「あの、愛花、さん?」

「彩菜さんには内緒で…、ね?」

「あやはここにいるからね?!」

「ふふ、冗談はさておき、引っ越しが済んだらお祝いに行きますね。」

「はは…、やっぱり冗談だよね…、うん、落ち着いたら連絡するよ、また来てほしいって言ったしね。」

「ちなみに、さっき言ったうちのほとんどは本気ですよ? 実技も含めてね?」

「きみ、ホントに愛花さんなの?!」


 隣で彩菜がクスクス笑っている。

まったく、愛花さんも強かになったものだ。


 まもなく夏休みに入るし愛花さんの都合もあるだろうから、お招きの予定は早めに決めておこう。

そう言えば、彼女にまだ食べ物の好みを聞いていなかった。

今度は正真正銘、冗談抜きで教えてもらうことにしよう。

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