第40話 無自覚系男子
学期末試験の翌週、学園では球技大会が行われていた。
残念ながらこの日までの梅雨明けとはならず、早々に女子ソフトボールの中止が決まり、男子サッカーも学園と生徒会の協議の結果、中止となった。
この協議だが、行事を実施したい学園側とお遊びに注力したくない生徒側との対立を予想していたのだが、寧ろ逆で、雨天のグラウンドでの事故を危惧する学園が、青春を謳歌したい一部の生徒を何とか宥めたということらしい。
俺としては実施競技が一つ減ってくれたので、この結果を有難く受け取っておくだけだ。
実はクラスで競技別の参加割り振りを決めた時に、屋外競技が中止になった場合の編成も同時に決めていた。
その結果、本来サッカー、バスケ、バレーの3競技にエントリーされていた俺は、バレーのみ参加すれば良くなり、試合出場による体力の消耗と各会場を行ったり来たりする煩わしさからめでたく解放された訳だ。
球技大会が始まる前は、この時期にする意味が分からないと宣っていた俺が、今は来年は梅雨の真っ只中に日程を組めば良いのになどと思うのだから、人間とは本当に勝手なものだ。
俺が出場したバレーの試合は、1回戦の相手が同じ学年だったこともありすんなりと2回戦に進むことが出来たが、次の試合が3年生と当たってしまいあっさりと敗退した。
ちなみに俺は、1回戦で7本、2回戦で5本アタックを決めたので、十分ストレスを解消出来て満足している。
そして今、俺は女子バスケを観戦している。
コートでは、彩菜が華麗に舞っていた。
相手チームの選手を翻弄して、右へ左へと切り返してゴールを目指す姿は、さながらダンサーのようにコートという名の舞台を縦横無尽に駆け巡っている。
目の前で繰り返される彩菜のソロパート、俺は彼女から目を離すことが出来ず、ただただ見惚れていた。
試合終了後、彩菜に声を掛けようと、休憩している2年1組の女子バスケチームに近づいた。
彩菜は体育館の壁にもたれて座り、スポーツドリンクを口にしていた。
「お疲れ、あや、大活躍だったな。」
「あ、ゆう! ありがと、ゆうが見てくれてたから張り切っちゃった♪」
「動きは華麗だったし、シュートも綺麗に決まってた、見惚れちゃったよ。」
「わ、嬉しい一言! ね、何かご褒美ちょうだい。」
彩菜の言葉に応えて、彼女の頭を軽く撫でる。
へにゃりと相好を崩しながら、彩菜は尚もおねだりしてきた。
「ふふ、これも嬉しいけど、もっとご褒美がほしいな♪」
「優勝したら考えよう。」
「それ、条件厳しくない?」
「今のあやなら行けるんじゃないか?」
「うんうん、私もそう思う、今年の清澄さんなら向かうところ敵なしだよ。」
俺と彩菜との会話に、隣で休憩していた女子生徒が加わった。
以前2年1組に行った時に、朝の挨拶をした人だ。
「でも桜庭さん、優勝だよ? 3年生もいるんだし。」
「そうだけど、今年の清澄さん見てると去年とは別人だし、案外行けちゃうんじゃない?」
別人というのは流石に言い過ぎだろうと思ったが、彩菜のチームメイトが皆、頷いている。
俺は去年の彩菜の様子が気になって桜庭さんに聞いてみた。
「あの、あやって去年と今年でそんなに違うんですか?」
「うん、全然違う。だってね、去年はボール持ってもすぐパス出しちゃうし、走ろうともしなかったんだよ?」
「え、そんなのよく試合に出しましたね。」
「クラス全体があんまりやる気なかったし、他の学年から清澄さんがコートに立つ姿が見たいって要望があったからね。」
歌舞伎の顔見世興行じゃあるまいし。
けれど、これ程の美人が入学してきて話題にならない訳はないし、一度見てみたいと思うのも頷ける。
しかし、先ほど聞いた様子では、コートに立った途端に幻滅されてしまいそうだが。
「それがさあ、コートでニコリともしないで我関せずって態度が、逆にクールで孤高の姫っぽくてカッコイイって評判になっちゃって、それから『学園の姫君』って呼ばれるようになったんだよ。」
今明かされる『学園の姫君』誕生秘話、俺は笑いを堪えるのに必死だった。
だってそうだろう、彩菜はいつだって自分の感情に従って素直に行動しているだけなのに、周りがその時々の様子を見て当人のキャラとは真逆のイメージで勝手にレッテルを貼っているのだから。
しかもそれが1年生の間そのまま続き、定着してしまっているのだ。
当の本人の言い分は、既に語られているので割愛するが、他人が見る目なんてそんなものなのだ。
「私たちにしてみれば、いっつも不機嫌で取っ付き悪い子って感じだったんだけどねー、そう言えば清澄さん、1年生の時って友達いなかったよね?」
「この流れでそれ振るんだ…、うん、まあ、あかねくらいしかいなかったかな。」
「それが2年になってガラッと雰囲気変わっちゃって、みんなびっくりしたんだよ?」
「「「「ホントだよねー」」」」
チームメイト全員が声を揃えて肯定していた。
まさかこれ程だったとは…。
彩菜に目をやると、バツが悪そうにそっぽを向いていた。
「こないだ教室でイチャイチャ見せられてみんな納得しちゃったけどね、今もそうだったけど、この人がお相手じゃあ仕方ないかって。」
「え、俺じゃあってどういうことですか?」
今度は俺に矛先が向けられたようだ。
「あ〜、清澄さん、この人、無自覚系?」
「うん、どちらかと言うとそうかな、私にほどじゃないけど他の子にもね。」
「えーと?」
何か、2週間前の図書室でもこんな展開だったような気がする。
「なるほど、もう落ちちゃってる子がいるかも知れないってことか。」
「私が知ってるだけで既に二人。」
「あ、まさか森本さんって…」
「うん…」
愛花さんとあかねさんは、友人として適切に親交を深めています。
「清澄さん、この子、放し飼い禁止ね。」
どうやら俺は首輪とリードで繋がれるようだ。
その様なプレイに興味はないのでどうか勘弁してください。
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