第37話 学問の神様

「お願い御善くん! 何も言わずにわたしを助けて!」


 学期末試験を1週間後に控えた月曜日、登校して教室に入ると南雲さんが駆け寄って来て、俺に両手を合わせて懇願した。


「おはよう、南雲さん、いきなりどうしたの?」

「実は期末試験でヤバい科目があって、勉強見てもらいたいの! お願い!」

「えっと、科目は何?」

「数Ⅰ、数A、古文です!」

「3科目かぁ。中間試験は大丈夫だったんでしょ?」

「中間はねぇ、古文はギリギリだったけど。その後数学で判らないところがあってそのままにしちゃったんだよねぇ。」

「あー、南雲さん。」

「はい。」

「自業自得です。」

「うえぇ、分かってるよぉ、お願い今回だけ助けてぇ。」


 さて、どうしよう。

助けてあげたいのは山々だけど、躓いた箇所を確認してリカバーするにしても試験まであと1週間しかない。

取り敢えず、どこを放っておいたのか聞いてみるか。


「南雲さん、どこが判らないのか教えてもらえる? まずはそれからだね。」

「ちょっと待ってて、今教科書持ってくるから!」


南雲さんが自席に戻って取って返し、サッと教科書を差し出してきた。


「えっと、数Ⅰがこことここ、数Aはこの3ページ、古文は範囲全部。」

「んー、ちょっと待ってね。」


俺はノートに数Ⅰの簡単な問題を作って、南雲さんに解いてもらうことにした。


「南雲さん、これ解いてもらえる?」

「え? 今問題作っちゃったの?」

「うん、これで最初に判らなくなったところの理解度が分かるから。」

「マジ? うん、分かりました、御善せんせー。」


 南雲さんは問題に取り掛かったが、結局解答出来なかった。

これは基礎の入り口で躓いてしまっているな…。

残りの箇所も同じように問題を解いてもらったが、結果は同じ。

こうなると俺のやり方では期間が短すぎて無理かもしれない。


「せんせー、何とかなりそう?」


 南雲さんが上目遣いで縋るように聞いてくるが、さてどうしたものか。

俺が考えあぐねていると…


「おはようございます、悠樹くん、南雲さん。」

「あ、おはよう、愛花さん。」


愛花さんが登校して来た。

ん? そうか、彼女がいるじゃないか。


「おはよう、神崎さん、って、あれ? 何で二人とも名前呼びしてるの? 先週まで違ったよね。」

「はい、私たち親しいお友達になったので、昨日から名前で呼び合うことにしました。」

「うん、そんな感じだね。」

「え、昨日って日曜日だよね、わざわざ休みの日に御善くんと神崎さんが? 何か怪しい匂いがするんだけど?」

「南雲さん、何か誤解をしているようなら違うからね?」

「そうですよ、単に私が昨日悠樹くんに告白してフラれただけですから。」

「ちょっ?! 愛花さん?!」

「えーーーっ?! マジ?! どゆこと?!」


 愛花さん、朝からぶっちゃけ過ぎなんですけど…。

それと南雲さん、きみ、やらなきゃいけないことがあるよね。


「はい、マジです。失恋のおかげで先週よりずっとお近づきになれたので、名前で呼び合うことにしたんです。そうですよね? 悠樹くん。」

「あれはそういうことだったんだね…」

「ねえねえ、御善くん、これって姫君は知ってるの?」

「うん、昨日話したら喜んでたよ。」

「え? なんで??」

「あ、昨夜彩菜さんと涼菜さんから悠樹くんをよろしくってメッセージもらいましたよ?」

「二人とも愛花さんは特別枠だって言ってたからね。」

「わー、許婚のお二人に認めてもらえるなんて嬉しい、やっぱりお宅にお招きいただいて良かったです。」

「そうだ、あやがまた遊びに来てほしいって言ってたよ。」

「ホントですか? ぜひお願いします。」

「今度は愛花さんの好きなものをご馳走するよ、何か考えといてね。」

「また悠樹くんの手料理がいただけるんですね、楽しみです!」

「あと、ケーキありがとう、美味しかったよ。」

「よかった、あのケーキ屋さん、お気に入りなんですよ。」

「ほかのも食べてみたいから、お店の場所を教えてもらえないかな。」

「あ、じゃあ、今度一緒に行きましょう♪」

「ねえ、二人共、情報量が多過ぎて付いて行けないんだけど…」


 危うく南雲さんのことを忘れるところだった。

愛花さんに南雲さんの現状を説明して協力を仰いだ。


 俺の場合は、まず基礎をしっかり叩き込んでから、さらに応用を重ねて行くことになるのだが、これは正攻法であって短期対策向きじゃない。

一方愛花さんは、彼女自身は当然基礎も応用も仕上げた上で、的確に想定問題を設定して点数の上積みをしている。

今回はその想定問題に頼ろうという魂胆だ。


「どうかな、愛花さん、今回限りってことで協力してあげられないだろうか。」

「お願い、神崎さん、これこの通り!」


 南雲さんは腰を90度に折って愛花さんを拝み倒している。

今の彼女からして見れば、愛花さんは学問の神様と言って良いだろう。

あとはお賽銭をいくら投じるかだな。


「そうですか…、じゃあ、さっきの件を詮索しないってことなら、良いですよ?」

「え、でもあれは、神崎さんの方から振って来て…」

「やっぱり、やめておきましょうか。」

「ごめんなさい! 忘れました! 何のことか分かりません! お願いします!」


 二人は今日の放課後に図書室で勉強会を開くことを約束して、この場は収まった。

今回は愛花先生にお任せして…


「悠樹くん、今週の放課後はいつものテーブルに相席させてもらいますね。」


…という訳には行かないようだ。


頑張れ、南雲さん。



**********

お読みいただきありがとうございます。

本作は昨日で10,000PVを超えました。

これも皆様のお陰です、感謝いたします。

これからも『幼馴染』をどうぞよろしくお願いします♪


近況ノートもチェックしてくださいませ。

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