第11話 ご機嫌な妹君

 シャワーを浴びた後、リビングで涼菜と二人で暫く余韻に浸っていた。

ずっとそうしていたかったが、清澄家の晩御飯の時刻が近づいて来たので彼女を一度家に帰すことにした。

涼菜はなかなか帰ろうとしなかったけれど、また後で一緒に居られるからと宥めてお隣へ送り届けた。


 今はまもなく20時。

晩御飯を済ませてリビングで温かいお茶を飲みながら寛いでいると、清澄姉妹が揃って顔を見せた。


「こんばんは、ゆう。」

「ゆうくん、こんばんはー♪」

「いらっしゃい、二人共、お茶淹れるけど飲むか?」


 先ほど自分用に一杯淹れただけだったので、急須の茶葉からはもう二・三杯程度なら淹れられるだろうと思い、姉妹に問う。


「ごめん、ゆう、さっき飲んで来ちゃったからいいや。」

「あたしは飲もうかな、急須はキッチンだよね、ゆうくんお代わりは?」

「ありがとう、すず、俺のもお願いするよ。」

「はーい♪ ちょっと待っててね。」


ちゅっ…


 涼菜は俺の頬にちょんっと唇を触れてから、ぺろっ舌を出して照れ笑いしながらパタパタとキッチンに駆けて行った。

その様子を見て彩菜がクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふ、あの子、夕方からずっとあんな調子なの。きっと誰かさんと楽しい時間を過ごしたおかげじゃないかな?」

「そうなのか? すずが楽しいと思ってくれたなら俺も嬉しいよ。」

「それは間違いないと思うよ? ちょっと焼けちゃうなぁ。」


そう言いながら、彩菜は尚もクスクスと楽しげにしている。

愛する妹のご機嫌な様子に、姉としても喜びを隠せないようだ。


 涼菜が急須と湯呑茶碗二つ、お湯の入ったミニポットをトレーに乗せて戻ってきた。

彼女は俺の手元にある湯呑ともう一つにお茶を注ぎ、ソファーに腰を落ち着けて湯呑をふーふーしながら一口啜っている。

 淹れてもらったお茶を口元に近づけると、茶葉を替えてくれたことに気がついた。

使わなかったもう一つの湯呑は、彩菜が飲みたくなった時のために持ってきたのだろう。

涼菜の気遣いに胸がふわりと温かくなる。


「すず、ありがとう、美味しいよ。」

「えへへ、良かった♪」


 涼菜は頬を薄く染めてふにゃりと笑顔を見せる。

あまりの可愛さに思わず左手を伸ばして頬を撫でると、彼女は自分からすりすりと頬ずりをしてから、俺の胸にふにゃんと飛び込んできた。

こんなに可愛いにゃんこは、きっと他のどこにも居ないだろう。


「すずったら、今日はこのまま、ゆうのにゃんこになって可愛いがってもらったら?」

「にゃーん♪ ごろごろごろ♪ ご主人さま可愛がってにゃん♪」


 こんな風におねだりされたら、可愛がらないわけにはいかないだろう。

俺は両手で涼菜の柔らかな体をまさぐり、腕の中で悶える彼女の愛らしさを心ゆくまで堪能した。

少しやり過ぎたのか、涼菜はふにゃふにゃとだらしない顔になり、俺にしなだれかかったまま動けなくなってしまった。

こんな姿も愛おしくて堪らない。


「なあ、あや。」

「なに?」

「このにゃんこ、一晩預かって良いかな。可愛くて返したくないんだ。」

「実はね、お母さんが晩御飯前のすずを見て、今晩はお泊まりしてゆうに可愛がってもらいなさいって、ほら、そこに着替えも持って来てるよ。」

「美菜さんには敵わないな。完全に見抜かれてるのか。」


 涼菜のテンションが高い理由は先ほどのシャワーだけでなく、美菜さんの一言が大きかったようだ。

 普通年頃の娘を持つ母親なら、そうならないように気を配ると思うのだが、あの人の場合は俺たちの状況を察知すると、さっと先手を打ってお泊まりの環境を整えて来たりする。

寧ろ俺たちの方が煽られているくらいだ。


「ふふ、だってお母さんだもん。だからほら、これも。いつもの差し入れだって。」

「何か、変なプレッシャーを感じるんだけど。」

「明日土曜日で良かったよね。今晩は頑張ってね? ご主人さま。」

「あやにゃんこは良いのか?」

「私、今日は女の子の日だからちょっとね。また別な日にお願いします。」

「ん、了解。俺はいつでも良いからな?」

「ふふ、はい、分かりました。お母さんにまた差し入れもらってくるから、その時は沢山可愛がってください。」

「精一杯頑張ります。」


 彩菜と暫し談笑していると、涼菜がようやく復活したようだ。

彼女にお泊まりのことを伝えると、目を輝かせて喜んでくれた。

無邪気に喜ぶ涼菜を見ていて、ふと、夕方に彼女と交わした会話を思い出した。


「そうだ、あや、すずから買い物に行く話は聞いてるか?」

「ブラを見に行く話だよね。私も合わなくなったのがあるから行きたかったんだよ。」

「中間試験明けで大丈夫か? 早い方がいいなら都合つけるけど。」

「ううん、私は試験明けでいいよ。すずはどう?」

「あたしも大丈夫、まずは試験をやっつけないとね!」


 涼菜のにゃんこモードは一旦解除されたようで少し残念に思う。

買い物の日にちを試験明けの日曜日に決めて、スマホのカレンダーに予定を登録した。

目当てのショップが入っているショッピングモールはそこそこ大きいので、三人で見て回れば色々と楽しめそうだ。

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