第9話 シャワーに入ろう

 途中まで一緒に帰宅していたあかねさんと別れて、俺と彩菜は手を繋いで帰路についた。

ちなみにあかねさんの家は俺たちの家と然程離れてはいないようで、お互い簡単に行き来できる距離にあるらしい。

若干心配事が増えた気もするが、これまで1年余り彼女が清澄家を訪れたことはなかったようなのでこれからも大丈夫だろう、多分。


 我が家に到着して、彩菜と共にダイニングに向かう。

今日は予期せぬ出来事により予定より早く図書室を出てしまった。

二人共課題を終えていなかったので、ここでさっさと済ませてしまおうという訳だ。


 麦茶で喉を潤してから、ダイニングテーブルに教科書と参考書、ノートを広げて課題に取り組む。

今日の課題数は二人共いつもより少なく図書室でもある程度は進められたので、程なく終えることが出来そうだ。

二人は無言のまま、ノートの上でサラサラとシャーペンを滑らせて行く。

やがて、まるでタイミングを合わせたように、俺たちはシャーペンをノートの上に置いた。


「あや、俺は終わったけど、そっちはどうだ?」

「うん、私も今終わったよ。今日は課題が少なくて助かったね。」

「まったくだ、家で課題をするなんてどれくらい振りだろうな。」

「ふふ、どれくらいだろうね。私、2年生になってからは始めてだよ。」


 今日はアクシデントによって不本意にも家で課題をすることになってしまった。

俺たちは基本的に学校で出された課題はその日のうちに学校で片付けることを心がけている。

そうしないと、清澄姉妹とゆったりと過ごすことが出来る貴重な時間を削ることになりかねないという、切実な理由があるのだ。


 時計の表示は17時丁度、晩御飯までは随分余裕がある。

俺は食事の支度をする前にシャワーを浴びることにして、彩菜に今晩の予定を尋ねた。


「さっき、あかねさんのおかげで変な汗かいたから、着替えてシャワーを浴びてくるよ。あやたちはいつもの時刻に来るのか?」

「うん、多分いつもくらいに来られると思うよ。じゃあ、私はうちに帰るね。」

「ん、後でな。」


彩菜はノートと筆記用具を鞄に入れて、リビングを出ていった。


 俺は一度2階に上がり、制服から部屋着に着替えて、替えの下着を持って再びリビングに降りて来た。

するとそこへ…


「ゆうくん、一緒にシャワー入ろう♪」


制服姿の涼菜がバスタオルを抱えて飛び込んできた。

涼菜の後ろには、なぜか大きめのエコバッグを携えた彩菜が追いかけて来ている。

彼女もまだ制服のままだ。


「ごめん、ゆう。うちに帰ったら、ちょうどすずも帰ってきたところで、ゆうがこれからシャワー浴びるって言ったらタオル持って飛び出しちゃったの。」


 多分あのエコバッグの中身は涼菜の着替えだ。

きっと涼菜の行動を見た美菜さんが、彩菜に持たせたのだろう。

つまり、美菜さん的には、『涼菜をよろしくね』ってことだ。


「分かったよ。すず、一緒に入ろうな。」

「やったー、久しぶりだねー♪」

「あやはどうする?」

「私は寝る前にうちで入るからいいよ。今日はすずだけお願い。」

「ん、了解。じゃあ、すず、行くか。」

「うん!」


 彩菜からエコバッグを受け取って中を見ると、やはり涼菜の部屋着や下着、果てはスキンケアグッズまでもが入っていた。

彩菜が言うには、どうやら我が家にいつお泊まりしても良いように、あらかじめセットされているらしい。

まったく、美菜さんには恐れ入る。


 その辺りのことは一旦置いておき、上機嫌の涼菜を伴って浴室へ向かうことにする。

脱衣所で自分の部屋着を脱ぎながら、隣でウキウキと制服を脱いで脱衣かごに丁寧に畳んで入れている涼菜を見ていて気がついた。


「すず、そのブラ、カップが合ってないんじゃないか?」


 涼菜の胸は程良い大きさだと思うのだが、今見ると何だか不自然に中央に寄って盛り上がって見える。

アンダーは合っているようなので、多分カップが小さくなっているのだろう。

これから気温が上がって行くと胸元が開いた服を着る機会も増えるから、今のままでは世の男性の目を不必要に楽しませることになってしまう。


「うーん、やっぱりそうだよねー、そろそろ買い替えかなー」

「確か前回買ったのって半年くらい前だよな。あ、でもそのデザインはその前か。」


 最後にショップに行ったのは去年の11月頃だが、今着けているのは1年前に買ったものの筈だ。

涼菜の年頃だと短い間隔でサイズが変わるだろうから、1年も経てば合わなくなるのも頷けるというものだ。


「前回買ったのはまだ何とかなるんだけどねー」

「中間試験が終わったら買いに行くか?」

「あ、じゃあさ、あやねえも合わないのがあるって言ってたから、また三人で行こうよ。」

「ん、了解。」

「んふふー、お買い物楽しみだね♪」


 ひとまず中間試験明けに買い物の予定が決まったところで、自分のバスタオルをストッカーから取り出し、浴室前に足拭きマットを用意して、涼菜と共に浴室に入った。

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