第2話 幼馴染

 そう言えば、なぜ俺が先輩女子にタメ口なのかということに触れていなかった。

まあ、そう大した理由がある訳じゃない、俺たちは幼馴染なのだ。


 俺たちは同じ産院で1日違いで生まれて、元々家がお隣さん同士だったこともあり、まるで双子のように人生のほとんどの時間を共有してきた。

 けれど、たまたま二人の生まれた日が学年の境目に当たってしまったため同い年なのにもかかわらず、4月1日生まれの彩菜が1年先に、4月2日生まれの俺が1年遅れで進学・進級することになってしまった。


 そして今から1年前、俺が中学3年生になる時に彩菜は1年早く高校生となり、この稜麗学園高校に入学した。


「ゆうの入学まで1年待ってようやく一緒の学園に居られるんだもん。私にとってはこれからがホントの学園生活だからね。」

「じゃあ、その学園生活の一環として取り敢えず課題を済ませろ。家でする時間なんてないんだから持ち帰りするなよ?」

「うー、分かりましたー」


 俺にもたれている彩菜を断腸の思いで押し戻し、再び課題に取り組ませる。

俺だって1年遅れでようやく彩菜と同じ学園に通学することになったのだから、出来るだけ一緒に学園生活を楽しみたいと思っているのだ。


 入学した4月はオリエンテーションから始まり、学園やクラス、生活環境に慣れることに時間を費やした。

5月の大型連休明けの今日からが、本格的な学園生活の始まりと言えるだろう。


 幸い1年生の年間スケジュールは去年彩菜が経験しているから、分からないことがあれば彼女に聞けば良いので助かる。

彩菜と学年が違うことの利点は、これくらいかも知れないな。



 キンコーンカンコーン♪



 下校期限10分前のチャイムが鳴った。

今は17時50分、まもなく図書室を閉める時刻だ。


「あー、ようやく終わったー」


 彩菜が座ったまま大きく伸びをして、本日の利用時間終了を宣言した。

既に利用者は誰も居ないので、追い出す手間が省けるのが何気に嬉しい。


「ほら、まだ最後の点検と後片付けが残ってるぞ。」

「ふぁーい。」


 俺は換気のために開けていた窓を閉め、ほとんど利用者が居なかったとは言え念の為、読書テーブルを見て回り忘れ物やゴミの点検をする。

その間、彩菜は貸出業務用パソコンをシャットダウンして、当番日誌に必要事項を記入していた。

図書室の灯りを消して出入り口に鍵を掛ける。

職員室に当番日誌と鍵を返せば、本日の司書当番は終了だ。


「もう、誰も居ないね。」

「下校期限ギリギリまで残ってる生徒なんて、図書委員の他は風紀委員くらいじゃないか?」

「部活はもっと早く終わるもんねー」


 二人で手を繋いで廊下を歩く。

既に校舎内には他の生徒の姿はなく、静かな廊下に二人分の靴音が響いていた。

学年で下駄箱が分かれているので、昇降口でほんの少しだけ手を離さねばならない。

たったそれだけのことで寂しさを感じるのだから、俺も大概寂しがりやなのだと思う。

彩菜と肩を並べて校門を出ると辺りは幾分暗くなっていて、校舎は薄らと夕日に照らされていた。


 夕暮れの帰り道を二人で寄り添いながら歩いて行く。

学園の校舎内と同じように、通学路に生徒の姿は見えなかった。

皆とっくに家に帰ったり、学友と遊びに行ったりしているのだろう。


 ふと、あることが気にかかり、彩菜に聞いてみることにした。


「あや、クラスメイトが家に遊びに来ることってあるか?」

「私はないなぁ。歩ける距離に住んでる友達も居るけど、そう言えば一度も行き来してないね。」

「そんなもんなのか。」

「ひょっとして、溜まり場問題?」

「そ、学園に近いと危険かなって。」

「そもそも私は交友関係そんなに広くないし、うちに連れて来るってことをしないしね。」

「俺もそうだけどさ、ただ一人暮らしだからってのもあるし、あやの家のこともあるからな。」

「あー、厳重なプライバシー管理が必要だね。」


 俺たちの家は、学園から徒歩で20分ほど離れている。

学園から徒歩圏内だと下手をすると学友の溜まり場になってしまいそうだが、学園の最寄駅とは反対方向にあるため、今のところそのような事態は免れている。


 別にクラスの連中と連むのが嫌な訳じゃない。

周りの連中と他愛ない会話を楽しむことや放課後に遊びに行くことは、学園生活をつつがなく過ごすために有益なことだと理解しているから、クラスでハブられない程度に付き合うこともある。

けれど、彩菜が隣に住んでいるのが知れると彼女や彼女の家族に迷惑が掛かる恐れがあるから、特に男子には知られたくないのだ。


「とにかく、気をつけるしかないかぁ。」

「そうだね、心配してもしょうがないんじゃない?」


彩菜とそんな話をしながら歩みを進めて行くと、やがてそれぞれの家に辿り着いた。

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