星野に願いを

理科 実

星野に願いを

7月7日 俺は星野に告白する

今日で全て終わらせるんだ





「純ちゃんどこまで行くのー?」

「もう少しだ」


俺こと純《じゅん》と星野は藪道を2人で進んでいた

あかりは携帯のライトとかすかな月の光だけ

目的地はこの先にある星がよく見える丘だ


「ねえもう帰ろうよぅ……」


「うっさいあともうちょっとだ」


顔は見えないけど星野は今にも泣きそうだ

星野は昔からこういうやつだった

内気で人見知りでいつも俺の後について回って……

今から将来が心配だ

こっちには時間がないというのに


「あ……」


「ん……」



そこに広がるのは満点の星空

ひたすら藪をかき分けて、ようやく俺たちはたどり着いた

やはりこの丘は星がよく見える

告白をするなら今しかない



「うわぁ……きれいだね純ちゃん……」


「あ、あぁ……そうだな……」


くそっ!何をためらう必要がある?


「あ、純ちゃん見て!流れ星だよ!」


一つ、また一つと夜空に白線が引かれ、消えていく

流れ星にお願い事をすると叶うと言った古代の嘘つきは一体誰なのだろう

俺はそいつが憎くてたまらない


「純ちゃん、去年の七夕覚えてる?」


「……ああ、忘れないよ」


俺たちは小学校の時から七夕になると毎年ここに来ている

そしてその時は確か……


「僕ね、大きくなったら純ちゃんとけっこんさせてくださいって頼んだの」


「……っ!!」


ああ、そうか星野おまえは……


「純ちゃんは今幸せ?」


「うん……今、7歳の娘がいて今度また1人生まれる」


「ふふふ……純ちゃんがおかあさんになるとはなぁ」


「おい笑うなよ」


「ごめんごめん……でも、そっかぁ……」


「星野……」


「純ちゃん。お願い」


俺たちが中学に上がる前のこと

俺と星野は初めて喧嘩した

俺が親の都合で引っ越すことになったからだった

7月7日、偶然にも引越しの前夜

星野と仲直りできる最後のチャンスだと思った

俺は丘で星野を待つことにした

待ち合わせはしていなかったけれど、きっと来てくれると思って

でも夜が明けてもあいつは来なかった

少し、寂しくはなったけれど仕方のないことだと思った

それにずっと会えないわけじゃない

またこの土地に来たときに、そうだ来年もまた来よう

きっとその頃には星野も許してくれるだろう

そう思って家に帰るとまず親に怒られた

そして俺は聞いた


星野が死んだ


丘に向かう途中車にはねられたそうだ

俺は激しく後悔した

両親が引っ越しをするなんて言わなければ

あの時喧嘩をしなければ

ひたすら自分を責め続けた

そして弱い俺は星野の葬式にもいかず、土地を離れ全て忘れることにした

どんなに辛いことも時が経てばきっと忘れる


そして星野ではない相手と結婚し、俺は母親になった

けれど結局星野を忘れることはできなかった

あの日からずっと胸のどこかが痛い

けれど、星野はもういない

諦めてこの痛みを墓に入るまで抱えて生きていこう

そう思った矢先、それは息子が7歳になる年の7月7日に起きた


目を覚ますと7月7日だった

そしてその日は星野が死ぬ年の7月7日だった

状況を把握した俺が考えたことはただ一つ

俺は星野を救うことにした



「僕は死んじゃったんだね」


「そうだ星野、かつておまえは死んだんだ。でも、今日は俺と一緒に来たおかげで車には轢かれなかった」


「……」


「もう大丈夫だ……おまえは、おまえは死なずに済むんだよ!」


「純ちゃん」


「なんだ!?」


「ごめんなさい」


「……っ!?なんで謝る!?」


「僕ね、ずっと謝りたかったんだ。ちゃんと謝って、仲直りして、笑顔で純ちゃんを見送りたかったの。だから僕ね、きっと死んじゃう前に流れ星にお願いしたんだと思う。……純ちゃんと仲直りがしたいって。お星様が叶えてくれたんだねきっと」



「そんなの、これからいつだってできる!これからはいつだって会える!……引っ越しだってやめてもらうように言う!これからはずっと一緒だ!」


「純ちゃん」


「あ……っ……ぐ……っ!?」


なんだ……?急に眠く……!?


「もうお別れの時間みたいだね」


「ま……て……」


「純ちゃん、また会えて嬉しかったよ。……僕ね、やっぱり純ちゃんが大好きだ!」


「ほ……し……」


「僕ね、さっき流れ星にお願いしといたからね」


「…の………」


「純ちゃんが幸せな人生を送れますようにって」



そこで俺の意識は無くなった



目を覚ますとそこは病院だった

日付は時間を遡る前の7月7日……いや、7月9日になっていた

どうやらしばらくの間、意識を失っていたらしい

そして確認してみたが……星野は亡くなっていた

俺は最初、あれがタイムスリップだと思っていた

何かの奇跡が起きて、もう一度あの時をやり直せるのかと思ったのだ

あれはタイムスリップではなくただの夢だったのか?

俺のしたことは全て無駄だったのか?

しかしずっと抱えていた胸の痛みが消えていることに気づいた

涙が溢れてくる、止まらない、止まらない

目覚めてから1日中涙を流していた

ありがとう星野、あたしは今最高に幸せだ



あれから季節は巡り2人目の子どもが生まれた

男の子だった

七夕になったら家族を連れてあの丘に行こうと思う

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星野に願いを 理科 実 @minoru-kotoshina

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