第2話 新しい命

 私の後を追いかけてくるハクたち。

 いや、追いかけていないな。並んで歩いている。


『くれないの?』

『おいしそうなの』


 涎をだらだら垂らしながらついてくる2匹に、申し訳なくなるけど、ここは心を鬼にする。


「ちょっと待って。一応、シロタエに聞くから」

『なにを?』

「これを食べて大丈夫かどうか」

『だいじょうぶじゃないの?』

『おいしそうだよ?』

「うん、でもね、私のいた場所では、確か犬は食べちゃ駄目だったのよ」

『ぼくたち、いぬじゃないぞ!』

『そうよ!いぬじゃない!』


 2匹が怒るのもわかる。彼らは、聖獣フェンリルの血を引いているから、ただの犬とかと同列にされるのは許せないのだろう。しかし!


「万が一があったら怖いから!」

『だいじょうぶなのに』

『ねー』


 それでも、無理やり食べようとしないところが、偉いわ。

 厩舎のドアをハクが開いてくれる。親たちが自分でやっている姿を見て、彼も覚えてしまったらしい。


「ありがと、ハク……シロタエ、調子悪いの?」


 厩舎の床に丸くなって寝ているシロタエに声をかける。


『あら、五月様、どうしました? ……ずいぶんとよい匂いをさせて』


 顔を持ち上げてそういうシロタエ。人じゃないから、顔色とかじゃわからない。


「あ、うん、これ、この子たちにあげても大丈夫か聞こうと思ったんだけど、その前にシロタエが寝てるって聞いたから」

『ああ、ご心配おかけしたようですね』


 ホワイトウルフなのに、クスッと笑われた気がした。


『フフフ、どうも赤子が出来たようなのです』

『あかご?』

『あかごってなに?』

「え、え、え~!?」


 まさかのシロタエの妊娠発覚。

 今日は身体が怠かったのだそうで、狩りをビャクヤに任せたのだとか。


「おめでとう。ハクたち、お兄ちゃんに、お姉ちゃんだ」

『おにいちゃん?』

『おねえちゃん?』

「そうよ~。生まれてくる子は、まだすごく弱いだろうから、ハクたちもビャクヤたちと一緒に守ってあげなきゃね」


 そう言っても、彼らにはよくわからないようで、首を傾げている。これは親たちから聞くのが一番だな。


「それはそうと、シロタエ、これ、ホワイトウルフは食べても大丈夫?」


 私は手にしていたハムののった皿を差し出す。シロタエの鼻先に出すと、クンクンと匂いを嗅いだ後、目をパッと見開き……ペロリと食べてしまった。


「あ」

『あーーーー!』

『やーーーー!』

『美味しいですわ! さすが、五月様! 素晴らしいものをありがとうございます!』


 ……塩分。

 だ、大丈夫なのか?


 不安になった私は、自分の住んでたところでは、犬にハムは駄目だったんだけど、と伝える。しかし、シロタエは気にする風でもなく、人の食べる物であれば、彼らは問題なく食べられると言う。その上。


『五月様が手を加えられたものですから、この上ない力となりましょう』

「え」


 私がやったのは、ただハムを切っただけなんだけど。


『ご心配でしたら、一度、鑑定されてみては?』


 キョトンとした顔で言うシロタエ。

 すっかり、あっちの食品を『鑑定』しようとまでは思ってもいなかった私。慌ててログハウスに駆け戻る私の後を、再び、ハクたちが追いかけてくる。


『サツキ~! はむ~!』

『はむ~!』

「わ、わかった、わかった! ちょっと待って!」


 早いところあげないと、私が食べられてしまいそうな気がしてきたのだった。

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