冬から春にかけての生活
第1話 ホワイトウルフとハム
ログハウスの裏手にある貯蔵庫から、真空パックされた大ぶりなハムを抱えて出てきた私は、空を見上げる。
「……まだ止まないなぁ」
敷地の中は、チラチラと雪が降っているけれど、その外は、相変わらずの猛吹雪。結界のおかげというのを、ビャクヤたちに聞いて驚いたけれど、ありがたいことであるのは、間違いない。
当然、空は雲に覆われて暗いから、太陽光での充電はうまくいかないはずなんだけど……スマホもLEDライトの充電がちゃんと出来ている不思議。
「うう、寒いっ」
ぬかるんだ地面を、急いでログハウスへと戻る。暖かくなったら、敷石みたいなのを買いに行くか。手持ちの石を埋め込むのは、手間がかかりそうだし。
『サツキッ!』
『それ、なに? なに?』
私が貯蔵庫から取り出してくるのが食料なのを理解しているホワイトウルフのハクとユキが、いつの間にかログハウスの玄関先で待ち構えていた。
「ハムよ」
『はむ?』
『それ、うまいか?』
基本的に、彼らはビャクヤたちとともに、山の中の生き物(それには魔物も含まれるらしい)を狩って、食べているそうなので、私が餌をやる必要はない。
だけど、前に猪肉をお年玉代わりにハクたちにやってしまったせいか、味を覚えてしまったらしい。一応、稲荷さんからのおすそ分けというのを知って、びびっていたけれど、美味しさには勝てなかったようだ。
あれ以来、私が貯蔵庫から肉らしきものを取ってくると、物欲しそうに玄関先で待ち受けるようになってしまったのだ。
「これは、私のごはん……もう。少しだけよ」
『やった』
『やった!』
私がログハウスの中に入っていくと、2匹は大人しく、ドアの開いた状態で、玄関先でおすわりしながら待っている。さすがにピレネー犬サイズが2匹、それも足は泥だらけなのに入られるのは困る。
一応、玄関先にはこの冬ごもり中に、パッチワークで作った玄関マットを敷いてはある。土足厳禁にしたので、ちゃんと靴は脱いで、スリッパに履き替える。板張りなので、かなり冷えるのだ。
キッチンに行くと、すぐに真空パックからハムを取り出し、ナイフで何枚か切り分ける。薄っぺらいのじゃ、納得しないのは目に見えているので、少し厚めに。
「はい、お待たせ~」
私は紙皿に山盛りにしたハムを手に、玄関へ向かうと、2匹がぶんぶんと尻尾を振って待っている。この子たちにあげられるような餌の器を用意しなきゃいけないかな、なんて考えている時点で、これからも餌をあげるつもりになっている自分に、ちょっと呆れる。
だって、この図体からして、大量に食べるのは予想がつくし、親たちを思えば……ゾッとする。いや、こうしてあげていること自体、ビャクヤたちは問題ないんだろうか。
「はっ! そういえば、犬にハムっていいの!? いや、塩分高いから、駄目なんじゃ!? 」
彼らの目の前で止まって、思わず、固まる。
『サツキ、サツキ、まだ?』
『いいにおいするのに』
「え、あ、ちょ、ちょっと待って!」
私の言うことをちゃんと聞いて、ログハウスの中までは入ってこないあたり、偉いんだけど。この子たちの親にあげていいか聞いておくべきだった。
「ビャクヤたちは?」
『とうさまは、かりにいってる』
『かあさまは、ねてる』
「え、調子でも悪いの?」
『うーん、わかんない』
いつも狩りに行くなら2匹ででかけていたのに。
珍しいことに不安になった私は、皿にハムを載せたまま、厩舎へと向かった。
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GAノベル様より書籍化することになりました。
近況報告で、書影公開と、特設サイトについてのご案内をしています。
【書影公開】
https://kakuyomu.jp/users/J_emu/news/16817330664270700134
【特設サイトについて】
https://kakuyomu.jp/users/J_emu/news/16817330664313104037
2023/10/14頃発売予定で、すでに予約も始まっております。
よろしければ、ご覧になってみてください。<(_ _)>
(2023/09/29 追記)
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