第3話 五月の正体?

 ログハウスに戻ると、早速タブレットで調べた。

 一応、切る前のハムは、ただの『普通のハム』だった。

 情報がそれしかないようだったのだけれど、『鑑定』アプリがKP使ってバージョンアップできるようなので、念のためアップデートしてみる。

 そうすると、今度は『普通のハム』に、豚の品種(!?)や塩分濃度、消費期限などが追記されているけど、それ以上は書かれていない。

 そして、私が『普通のハム』から切った薄切りのハムを『鑑定』アプリで調べてみると。


「『元聖女が切ったハム』って何」


 思わず言葉が零れる。

 いや、『元聖女』ってどういうことよ。一瞬、思考が停止する。


『サツキ~』

『まだ~?』

「あ、ごめん、ごめんっ、もうちょっと待って!」


 2匹が騒ぎ出したけれど、それどころではないのだ。


『あらゆる生き物が食することで身体の不調を整える』


 何よそれ、である。

 文面を見る限り、ホワイトウルフにやっても害にはならないんだろうけど、『身体の不調を整える』って、ただのハムが薬扱いになるの、おかしくない?


 ――しかし、気になるのは、それ以上に『元聖女』だ。


 この言葉を素直に信じれば、私が『元聖女』ということにならないか?

 そもそも、『元聖女』って何。ふと、この山を買う時にイグノス様と稲荷さんとの会話を思い出す。


『普通、両方の世界を往復できるのは、神と同等の能力を持つものだけだ』


 神ではないけれど、特殊な存在であると、彼らは言った。


『とにかく、君が山を買って、ここに住んでくれると、すごく助かるんだ』


 ただ住むだけでいい、そして、ちゃんとお金までくれる。

 山を買うことで、この世界の輪廻の輪に入ることになるとも。


「私が『元聖女』だから?」


 でも『元』だから、関係ないのかしら。魔法だって使えるわけでもないし。でも、『あらゆる生き物が食することで身体の不調を整える』というくらいだし、何らかの力があるんだろうか?


 ――もしかして、魔法の代わりの『ハム』?


『サツキ~、まだぁ?』

『ぐぅ~、がまんのげんかい~』

「あ、ごめんごめん!」


 とりあえず、問題はなさそうなので、いそいで紙皿に盛ったハムを2匹の目の前に置く。


『むっ、むっ、むっ』

『おいしーね、むぐ』


 くっ、なんで、この子らはこんなに可愛いんだっ!

 2匹が美味しそうに食べている姿を見ていると、食べ終えた2匹の目がピタリと私の目を見てきた。これは、もしや!


『……おかわり、だめ?』

『だめ?』


 のぉぉぉ~! なんだ、この可愛さはっ!

 これにどうやって、あらがおうか、と悩んでいる私だったのだけど、急に強い風が敷地の中を吹き荒れた。


「うわっ!?」

『なんだっ!?』

『うきゃっ』


 突風の勢いに、私は思わずしゃがみこみ、ハクたちは私を守るかのように玄関前に固まる。


「あ~、ごめんなさい~」


 いきなり、のんきな声が聞こえたかと思ったら、ぶくぶくと完全防寒している稲荷さんが現れたのだった。


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