5-3
最寄り駅で降車して見慣れた一面の田んぼを見て白い息を吐き出した。
本来ここから自宅までの道のりは自転車で移動をするのだけれど、これからやすみに電話をしなければならない事を考えると三十分以上歩いて帰らなければないことになる。
こんな寒空の中を三十分歩く。
普通の心境なら憂鬱になりそうな物だけど、俺の心持ちは違っていた。
どうしようもないくらい浮かれていたんだ。
嬉々として無人の改札を通り抜けると駐輪場に停めてあった自転車を回収し、すぐにスマホを取り出した。
電話をかける相手はもちろん、やすみ。
発信音の後に呼び出し音が三回鳴った所でやすみは電話をとった。
「よっもしもし。久しぶり。元気してたか?俺はまあまあ元気だった。
あっそうそう、今日実は受験でさ、って一気に話してもよくわからないよな。アハハ、ごめん」
話したいことが多すぎて、俺は独り言を壁にぶちまけるように捲し立てた。
「どうもー。久しぶりだね涼君。少しは良い男になったかい?」
「えっ?あっ、ど、どうも」
返ってきた声を聞いて俺は面食らって、軽いパニックを起こしていた。
知っている声なのだけど、やすみの声ではない。
「さっきのメッセージ、見て貰えたんだよね?」
電話の相手の言うメッセージとは、あのイタズラメッセージの事なのであろうか?
そうであるならば
「あっ、はい、見はしましたけど」
「それならいいんだ。それで、これから時間は大丈夫そう?」
なんとも話の進め方が強引ではあるが、この後はあいにく暇しているし、電話の相手には覚えがあるものだから二つ返事で返した。
「それは大丈夫ですけど、なんのご用ですか?」
すると電話の向こうで躊躇いを感じるため息のような雑音が聞こえ、その後すぐにこう返ってきた。
「それは……直接会って伝えたいんだ。涼君の家まで行くから、ちょっと待ってて貰えるかな?」
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電話を切って一時間後、電話の相手━━━━やすみ母はやって来た。
やすみ母に促されるままに車の後部座席に乗り込む。
もしかしたら、やすみも来ているのかもと期待していたのだけど、俺の予想は外れていた。
「じゃあ、シートベルトを閉めて貰えるかな?」
俺の体が社内に収まったことを確認すると、やすみ母はルームミラー越しに目配せしながら
指示された通りにシートベルトを脇に抱える。
「どこに行くんですか?やすみも来るんですよね?」
「えーっとね、どこってあてがある訳じゃ無いのよね。ははは……うーん、そうね……近くのファミレスにしましょうか」
普段のやすみ母と違い、どこか歯切れが悪い。
「俺はそれで大丈夫ですけど、やすみは?」
「うん。じゃあファミレスにしましょう」
やすみに関することは答えずに、やすみ母はいつもよりさらに荒く車を発進させた。
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