2-3

 立ち並ぶ商店街の店舗の数々も稼ぎ時と、店の前にテントを構えてホットドックやポップコーン、りんご飴にわたあめなんかのお祭り定番商品なんかが売られていて、とても活気が感じられる。


 その商店街を抜ければ花火大会会場。それなのにやすみは商店街に回れ右をすると正反対に歩きだした。


 こっちこっちと手招きをしてやすみはずんずんと進んでいく。


「そっちじゃないだろ。どこ行くつもりだ?」


「いーから。いーから。私に任せなさい!」


 俺の抗議もどこ吹く風、鼻唄混じりに行き交う人波を逆らうように進む。

 普段の三割増しくらいで、やすみの声が弾んでいる事に気がついて、やすみが楽しいならこれでいいかと諦めて着いていく。

 やすみに導かれるまま、しばらく歩くと田んぼ沿いの小さな公園に行き着いた。

 俺が自転車を停めたのとは、また別の公園だ。


「じゃじゃーん!ここです。私がお母さんから聞いてきた、とっておきの場所」


 両手を胸の前で広げて手柄を大袈裟にアピール。普段見せる笑顔の三割増しの笑顔だ。


「ここがとっておき……なのか?」


 変哲のない公園。遊具もブランコしかなく、屋根の付いていないベンチ、その回りには申し訳程度にツツジが植えられている程度の公園だ。


「そう。とっておき」


 言いながら浴衣の袖からライターと蚊取り線香を取り出しブランコにトタトタと駆け寄る。

 そして蚊取り線香に火をつけブランコの二つ並んだ座面の間に置くと、やすみは優しく微笑むと手招いた。


「早くしないと特等席、無くなっちゃうよ」


 状況から察するに、やすみの言う特等席とはブランコの事なのだろう。


「はいよ。で、なんで蚊取り線香?」


 俺の到着を待たずにやすみは左側に、俺は空いている右側へ座る。


「それはね、なんか夏って感じがしない?花火って言ったら、縁側でスイカ、蚊取り線香!みたいな」


 スイカはないけどね、と舌先だけをちらっと見せる。


「あー、言いたい事はなんとなくわかるけどさ……」

 ドラマやアニメなんかでは良くみる描写だ。

 実際にその光景を見たことがあるかと言えばノーだが。


「って言うのもあるんだけど、ここ、蚊が多いんだって。だから、お母さんに持たされたの」


「あー、なるほどね」


「そうなの。だから花火は見えるけど誰も寄り付かないんだって、ここ」


「なるほど、それで穴場な訳なのか」


「うん、そう言う事。_______ねえ涼君?」


「なんだ?」


「もし、嫌じゃ無かったら、記念撮影しない?」


「ああ、いいよ。携帯貸して」


「あー?うん」


 不思議そうな顔をしながらやすみはカメラを起動すると、俺に携帯を手渡す。


「よっし、撮るぞー。はいチーズ」


 パシャリと夕闇に沈みつつある公園に閃光がきらめく。


「えっ!?へ?ふぁっ!?」


 不意打ちになったシャッターが、やすみの変顔を激写する。


「ちょ、ちょっと待ってよ。違うよ!二人で一緒に撮るの!」


 ちょっと見せて、と俺から携帯を奪い取ると小さな悲鳴を漏らす。


「ひどいよー。こんな変顔撮るなんてー」


 削除、と小声を漏らしながらこちらに近づいて来ると、顔を俺に寄せる。接触してしまってもおかしくない距離だ。ふわりと柑橘系の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 思わずドキッとして、今度は俺がすっとんきょうな声を漏らしてしまう。


「えっ!?ちょっ!?」


 俺が狼狽えた瞬間、やすみは俺の横に体勢を入れ換える。


「はい、チーズ」


 無情にも切られるシャッター。仕返し成功とニシシとやすみは笑い、続けた。


「後で、送っておくね」


「おい、ちょっと待てよ。今の無し」


 取り合う気は無いと、やすみはブランコに座り直しピースサインをこちらに向ける。


「ダーメ。お互い様でしょ?________あっ!」


 やすみが感嘆の声を漏らすとほぼ同時、背後から体の中心までを揺るがすような炸裂音。

 空気を伝わってくる震動にやすみに抗議する事も忘れて思わず振り返る。




 ________そこには、夜空いっぱいに広がる火球、大輪の華が咲いていた。しかし、その刹那、儚く消えていく。


「これが、本物の花火______綺麗……」

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