第7話 サバン

 ――一方、外に待機していたサバン達は家の中の明かりが消えたのを確認し、行動を開始した。


「行くぞ」


 小さな掛け声を出し、二人は外の見張り、残る二人はサバンは家の中に侵入する。小さな家だ、すぐに見つかるだろう、と高を括っていたがどこにも姿が見えない。


「一体どこに消えた?」


 サバンは暗闇の中、声をかける。しかし一緒に入ってきた二人の返事がない。


「おい?」

「二人はもうのびているよ」


 突然聞こえた、聞き慣れない声にサバンは「わ!」と声を上げ、尻餅をついた。

 そしてぽっとランプの明かりが付けられると、目の前に一人の男が聳え立つ。


「お、お前は」

「私はここの家主だ。お前達は何者だ?」


 そう問いかけたのはセージだった。そしてセージはいつでも攻撃魔法を出せる様に杖を向けた。


「ま、待て! 落ち着け!」

「人の家に侵入してきた奴に容赦はしない。そして残るは君だけだ。一体何者で、何をしに来たのかな? 説明して貰おう」


 セージは相手を見下ろし、杖を構えたまま尋ねた。

 しかし、その時サバンの目がちらりと横を向く。ハッとした時にはもう遅かった。


《リュキュパス》


 小さな声で呪文が唱えられ、どこからともなく催眠魔法が打たれ、セージはそれを背中に受けた。


 ……くっ、まだいたのか!? 一体どうやって私の感知魔法を掻い潜った?

 そう思いつつもセージはその場に倒れ、気を失ってしまった。



 ――数分後。



《リュキュパセ》


 その呪文と共にセージはハッと目を覚ました。覚醒魔法を使われたのだ。そして周りを見れば四人の男達がいる。その内の一人はどうやら魔法使いのようだ。


 ……隠れていたのはこの男か。一体、どうやって隠れていたんだ?


 そう思いつつも自分の置かれている状況を確認する。椅子に座らされ、縄でぐるぐる巻きに縛りつけられている。杖も取り上げられ、魔法を使う事も叶わない。


 ……万事休すと言ったところか。


 そう思っていると一人の男が声をあげた。このグループのリーダーらしき男。


「目覚めの所、申し訳ない。こうして手荒な真似をしている事も謝罪する」


 丁寧な口調で言われても、こんな扱いを受けていて納得できるはずもない。


「こんな事をされていて、その謝罪を受け入れると?」


 私が告げると男は顎に手を当てた。


「勿論、難しいとはわかっている。でも、我々にはどうしても君に答えてもらいたい事があってね。君が抵抗せずに答えると言うのであれば、すぐに解放する」

「私に? 一体なんだと言うんだ」


 ……もしかしてコタの居場所か? それとも弱みか??


 色々と考えるが問いかけられた質問は私の予想外のものだった。


「コンスタンテ・ティーグレが惚れている人物についてだ」

「……は?」

「君は知っているのだろう? コンスタンテが好いている相手を」


 まさかそれは自分だ、とは言えない。ここにいる全員もこんなおっさんをコタが好いているのだと思っていないからこんな質問をするのだろう。


「知っていたらどうするつもりだ。そもそも君たちは一体誰なんだ?」


 私が尋ねると一人の男が答えた。


「ああ、まだ名乗っていなかったですね。私はサバン・デュ・アルバトロン。第二王女の従者をしている者です」

「第二王女の従者? ……それにアルバトロン?」


 どこかで聞いた名前だとセージは頭を巡らせ、そして思い出した。


「アルバトロンと言えば、大貴族の? ……そうか、アルバトロンの家宝である透明マントを使ったな?」

 大貴族のアルバトロンはその家宝に、大昔の錬金術師が作った透明マントを所有していると聞いたことがある。その透明マントは身を隠し、全ての魔法を無効化させる力を持っているとも。


 ……だから私の感知魔法が効かなかったのか。


「良く知っていますね」

「アルバトロンの家宝は有名だ。だがそれで? 第二王女の従者でもあるアルバトロンの子息がなぜこのような事を?」


 私が尋ねれば、サバンは力いっぱい迷うことなく答えた。


「実は、私がお仕えしている第二王女はコンスタンテ・ティーグレを心底お慕いしているようで。我々は第二王女の恋を成就させたいのです」

「ほう、それで?」

「なのでティーグレの想い人を探し出し、その彼女にお願いするつもりなのです。彼を振って欲しいと! 勿論、タダでとは言いません。それなりのお金を渡して平和的に振っていただくだけです!」


 ……それはいわゆる手切れ金と言うやつでは? 平和的とは一体。


「平和的、ねぇ」


 私は胡乱な目で彼らを見る。


「ティーグレは王都を出る時、想い人に会いに行き結婚を申し込みに行くと言っていたそうです。ですが、辿り着いたのはここ。つまり貴方は何か知っているのでは? と。しかし素直に教えてくれるかどうかわからないので、このような少々手荒な真似をしたという訳です」

「なるほど? だが、手荒過ぎやしないか?」

「王女の恋を成就させるにはやむを得ません」


 サバンはハッキリと答えた。どうやら盲目的な第二王女信者のようだ。やれやれ。


「まあ、そんなに知りたいなら教えるよ。別に隠すほどのことでもない。代わりに縄を解いてくれ」

「本当に?」

「ああ」


 私が答えればサバンは頷き、体を縛っていた縄を解いてくれた。パラッと縄が落ち、私はホッと息を吐く。


「君達が心配しなくても、コンスタンテの想い人は彼の事をもうすでに振っているよ。二度と会う気もないと言っていた。これで満足かね?」


 私はあっさりと告げる。


「本当に?」

「本当だ。一体誰だとは告げられないが、その人物は彼と添い遂げるつもりはない。つまり君たちの心配は無用という事だ。……まあ、あとはその第二王女のアプローチ次第というところじゃないか?」

「なるほど」


 ……いや、なるほどじゃないだろう。この国は比較的平和だが、第二王女の従者がこれでは……大丈夫か? かなり平和ボケしてるんじゃなかろうか。


 私はついつい年寄り心で心配になってしまう。


「ともかく、もう帰ってくれないか? 私は忙しいのでな。あとナイフを仕舞ってくれ」


 私はサバンがいつまでも握っているナイフを見て言った。


「ああ、すまない。うっかりしていた」


 サバンはそう言ったが、そこにタイミング悪くある人物が帰ってきてしまった。


「何をしているッ!」


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