第44話 それが佐川の最後の言葉になった

〜??? 太田サキ〜


「おい。おきろ~~~~そろそろ飽きてきたぞ〜〜あと5分起きなかったら救急車を呼ぶぞ〜〜恥ずかしいぞ〜〜」

顔が痛い。誰かが顔をたたいている。

「やっぱり〜〜みず~~~かける~~~??おとす〜〜??」

カナの声がする。たしか、今、水をかけるとか落とすとかなんとか・・・

「やめて!!」

わたしは急いで体を起こした。

グhaツン―――衝撃

頭が何かにぶつかる。遅れて

「イタッ!!」

「サキ~~おは~~~」

頭を抑えているとカナが飛びついてきた。

痛みに耐えて、目を開ける。

オレンジ色の光の中、カナのネックレスが金色に光っている。

少し離れて、佐川が悶絶している。

「からだ~~もどったの~~??ちょうし〜〜よい〜??」

「うん。ばっちりだよ!あとは、ここから帰るだけだね。」

「そ~~だね~~」

「でも、出口と時間が、うまく合わないとね。」

わたしはつぶやいた。カナは何言っているの?という顔。

そうか、また説明しなくてはいけないのか・・説明大好き担当はどこで何をしているのか・・と考えていると

「何を言っているんだ?バスが出ているから、それに乗れば駅までいけるぞ。」

担当佐川が鼻を押さえながら言った。

「バス?」

佐川こそ何をいっているのだろう?

「サキ、あたりを見てみろ。」

佐川に言われてあたりを見渡す。

別段変わったことも無い。夢見ヶ崎動物公園の風景だ。遠くで動物の声も聞こえる。車のラジコンで子どもを操るおじさんが楽しそうに操縦している。

――夢見ヶ崎??

もしかして―――――スマートフォンを取り出す。

電波はMAX。時刻は4時28分。

「現実へ・・帰ってきている。」

「そういうことだ。しかも・・あんなにいろいろあったのに、今回は18分しかたってないんだぞ・・変な感じだよな」

そういう佐川の顔は笑っていた。

「まあ~~おわりよければ~~おっけ~おっけ~」

カナも笑う。わたしも笑っていた。

「そうだね。・・・でもあの後どうなったのか、教えて!今すぐ」

「今すぐって、落ち着いて話すんじゃダメなのか?」

「夢の中の事って、落ち着いたら薄れていっちゃうから」

「たしかに〜〜。そうだよね〜〜あるある〜〜」

「だから私がクスタの球体に飛び込んだ後何があったのか、どうやってここまで来たのかおしえて欲しい。私も話すから!忘れたくないの!絶対」

思いがけずに口から言葉があふれて、その言葉がさらにわたしに熱をこめる。

前だったらこんな前のめりになったら引かれるかも・・とか考えていた

でも佐川もカナも、真剣にわたしを見てくれていた。

「よしわかった・・ただし条件がある。」

「カナも〜〜あります〜〜」

「何?なんでも言って」

「おね〜さまと〜〜よんでも〜〜いいですか〜〜」

何を言っているのだろうか・・佐川を見るといつになく真剣な顔・・いやこれは笑いを堪えている??目が私の奥を見ている。

「カナ・・・鏡を貸してくれないかな??」

できるだけ落ち着いて優しくいう―――変だな、カナが妙に怯えているな

「待て、俺の条件は先に顔を洗う事・・」

考えるより早く拳―――は現実では痛そうなので掌底が佐川の鳩尾あたりに突き刺さる―――崩れ落ちる佐川。

「無拍子だと・・き・・極めたな・・」

それが佐川の最後の言葉になった。カナは怯えながらも手鏡を差し出してくる。

―――カナに無拍子ぼうりょくを使うわけないのに―――手鏡を受け取り

心を決めて開く・・・・・ヅカ!男装の麗人・・風。ご丁寧に髪の毛もそれっぽくセットされている。今にも羽を背負って大階段を降りてきそうだ・・

「カナ・・」

「なんですか〜〜おね〜さま・・」

「メイク落とし」

「え〜〜〜」

「え〜〜じゃない早く出して」

「だって〜〜だって〜〜そんなひくい〜〜ステキボイスで〜〜ノリノリ〜〜だとおもってたのに〜〜」

「そんなわけあるか!」

怒りを鎮めていただけなのに、勘違いをされていた。この勘違いはかなり尾を引くことになるのだが・・・それよりも今はやることがある。

メイクを落としながら声をかける。

「佐川」

「はい。お嬢様・・・」

すばやく起き上がった佐川に本日2度目の無拍子ぼうりょくが炸裂した。


「クスタの球体がはじてけてから・・あたりはいろんな色が混じり合って、とにかく最後は」

「まっしろ〜〜」

正座した佐川が語る。カナも思い出しては相槌を打つ。

「そうだな、自分と世界の境目がわからなくなるくらいの光だった」

「さきの〜〜意識も〜〜見えなくなっちゃってあせった〜〜」

「幸いにもカナはうまくこっちに飛ばされてきたから、キャッチ出来たんだが・・」

「えへへ〜〜」

思い出しているな・・・カナがニヤついている

「無重力ってやつが近いかもな・・上も下もどこにいるかもわからなくなって」

「ど〜〜しよ〜〜って思ったら、これが光ってたんだよね」

カナがペンダントをつまみ上げる。

「俺の場合は電流を流されたけどな・・」

手首の深い青の刺青を佐川が憎々しげに見つめる。

そして佐川が事の顛末を話し始めた。


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